白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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4


 私は考えるべきは「なぜ」ではない。これから「どうするか」だ。
 なぜと考えそうになるのを我慢して、どうするかを考える。
 目先の事と、その先の事。
 目先の事とは、どうやって元に戻るか。一番確実なのは、あの男を捕まえる。殺してしまっては元も子もないから、生け捕りにしなければならない。
 できるなら友好的な態度で接したいけど、彼はとてもそんな雰囲気ではなかった。
 はっきり言って、彼に恨まれるような事をした覚えはない。まあ、恭介君と付き合って、一部の女の子には恨まれる覚えはあるけど、それ以外はない。
 ふと、思いついた。
「恨み……呪い?」
 女の子っていうのは、オカルト、呪い好きが意外に多い。もちろん男にも多いけど、陰湿な呪いを好むのは女の方が多いんじゃないかと思うんだ。
 こんな呪いがあるなんて聞いた事はない。だけど実際にこんな場所にいるんだから、誰かが呪いをかけた可能性もある。
 よく鏡の中に引きずり込まれるなんて話がある。あれに類似した何かだと思っていたけど。
 最悪なのが呪いだ。
 例えばわら人形だかにクギを打って鬱憤を晴らす女がいたとする。
 その女には、呪いが本当に効いているかどうかなんて結果が出るまでは分からない。殺した後なら怖くなるだろうが、殺すまでなら死んでしまえと思っているからクギを打つのだ。
 だから他人を呪うような人間は、呪った相手を許す気なんて、これっぽっちもないだろう。
 だって、隣のクラスの子は戻っていない。接点が無くてあまりよく覚えていないけど、あの子も確か可愛い子だったと思う。彼氏がいたかどうかは知らないけど……共通点は可愛い女の子って事?
 彼女はどこにいるんだろう。ひょっとしたらどこかで会えるかも知れない。
 最悪の場合は、死んでいるかも知れない。
 もっとゲーム的な場合は、敵として……化け物にでもなって出てくるかも知れない。
 馬鹿らしいと思うけど、そういった馬鹿らしい考えを切り捨てられるほど、今の私に常識というものは無くなっている。
 この暗闇の中、何かが潜んでいるという妄想に駆られる。
 幽霊、妖怪、化け物。
 ゲームのように、化け物に襲われたら……。
 そう考えると、背筋に悪寒が走る。身体を抱いて、息を吐く。
 最悪の状況だ。そう分かってて、行動しているのだ。現実を見て、動いている。怖いのが嫌なら、ただ震えていればいい。震えていても、他人は助けてくれないし、いい方向なんかに動いたりはしない。
 自分を助けられるのは、自分の身一つだ。
 警察だって、学校だって、友達だって、誰も助けてくれはしない。
 誰も助けてなんてくれない。
 夢を見るほど、希望に縋れるほど、目を背けて良いほど、甘くはない。
 甘えるな。楽観するな。私の前には、絶望しかない。
「っしゃ」
 頬を叩いて、気合いを入れなおす。
 考える必要はある。でも考えるだけ無駄な事もある。
 私は再び喉の渇きを覚えて水道の蛇口をひねった。彼が見つからなかったら、保健室で薬でももらおう。
 教室をのぞき込んで中を確認し、一階の教室にはいない事を確認した。ああいうことをした男が、わざわざ隠れているとは思えないから、この程度の確認で十分だろう。
 二階に上がり、同じように教室の中を覗き、三階に登った。
 寒い。
 急な冷気で私は身を震わせた。
「風?」
 外気が流れ込んでいる。どこから?
 階段の上から。この先は屋上だ。
 私は木刀を握りしめ、他の武器も確認する。
 ゆっくりと階段を上った。閉じているはずの屋上のドアは開いている。
 ゆっくりと、足音を殺して階段を上がり、ドアの陰に隠れて見える範囲を確認する。見えない範囲、ドアの裏側とか、手の届く場所に隠れている事もあるから、手鏡で確認する。少なくとも、手鏡で確認できる程の距離には人はいない。怖いのは物陰から襲われる事だ。相手が何を持っているかも分からない。普通の人間相手なら、もっと別の怖さもある。
 彼は、どうだろう。前の子も可愛かったから、何をされるか分からない。
 でも、なんとなくそんな雰囲気はなかった。男に欲望があれば、肌で感じるけど、彼にはそれはなかった。
 意を決して、屋上に出る。
 びゅうっと風が吹き荒れ、スカートの裾を乱す。どうせ下にはスパッツをはいているから関係ない。
「こぉんばんわぁ」
 声は上から聞こえた。慌ててその場を離れて振り返ると、屋上の入り口の屋根の上に、人がいた。
「くくくくっ、けっこう真っ直ぐに来たねぇ」
 彼は傍らに置いてあったカンテラの明かりをつけた。キャンプで使うような、電池で動く奴だ。それを持って、ひょいと屋根から飛び降りた。
「まあ、分かりやすい場所にいるようにはしたけどさ」
 カンテラを床に置き、ポケットに手を突っ込む。
「男を追いかけるのは初めてだった?」
 彼は笑みを浮かべる。
 笑っているが、目は笑っていない。
「君は追いかけられてばかりだもんなぁ」
 くくっと喉の奥で笑う。
 肌寒いのに、私は汗をかいている。
「まあ、そんなの俺には関係ないけどさ」
 彼は屋上のフェンスに向かって歩き、私に背を向けた。無防備な背中だった。
「あんたが売春婦だろうが」
 こいつっ
 振り返って柵にもたれ、彼は声を高らかに言う。
「何股かけてようが、僕にはちっとも関係ないんだ」
 なんで、どうして。
 こんな妖怪が……
「あんた、何なのよっ」
 彼は振り返ってフェンスにもたれ、首を傾げた。
「私が何をしたって言うのよっ! 私は何も悪い事何てしていない!」
 彼は長い前髪をいじりながら、どうでも良さそうに言った。
「売春婦でも別にいいんだよ。日本じゃ売春は禁止されているけどさ、分かってて売り買いしているなら」
 彼はケラケラと笑う。
 じゃあ、何のなよ。
「いったい何で妖怪が私に用なのよっ!」
「妖怪だなんて酷いなぁ。俺は君と同じで、こちら側に来てしまった普通の学生なのにさぁ。
 勝手に怖がって、勝手に敵を作って、勝手に事を大きくしてさぁ」
 私と同じ? じゃあ……じゃあ。
「じゃあ、何で……」
 知ってるの。
「こんな身体だからね。どこに入るのも自由だよ。
 ああ、のぞきはしていないから安心して良いよ。まあ、今更見られたところで恥じ入るような綺麗な身体じゃあないだろうけど」
 見てた? 何で?
「なんで……どうして」
 私なの?
「あんたなんか知らないっ! このストーカーっ!」
「知ってるはずだよ。まあ、名前だけになるんだけど」
 意味が分からない。こんな人知らない。さすがにいたら目につくと思う。
「意味が分からない」
「そりゃあそうだろ。俺も分かってないんだからさ」
 彼は狂ったようにケラケラと笑った。このおかしな場所に居続けて、本当に狂っているのかもしれない。
「ああ、そうそう。なんで、どうしてだっけ?
 簡単だよ。汚いくせに、恭介に近づいたからだよ」
 恭介君?

 
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2011/02/20   向こう側   982コメント 0     [編集]

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