白夜城ブログ

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 人から見えないって事は怖い。孤独の恐怖もあるが、思った以上に肉体に対する害が大きい。
 車道は車、歩道は自転車、その間はオートバイによる事故の危険がある。
 しきりに背後を確認して歩き、決して事故に巻き込まれないように気をつけた。
 今、大けがなどしても、誰も助けてなどくれない。ゲームオーバーだ。そう、まるでゲームのような体験だ。主人公だからと安心など出来ない。明らかにゲームオーバーのパターンが多数用意してありそうな、ろくでもない雰囲気だ。ハッピーエンドなど簡単には期待できない、そう、まるでホラーゲームのような……。
「即死できたら幸せかもね」
 こんな非現実的な目にあっているのだから、バケモノが出てこないとも限らない。だから武器が欲しい。動きを妨げないなら、持てるだけ持ちたい。安心のために。
 こんな得体の知れない体験をしてるんだから、備え過ぎるぐらいがちょうどいい。食料は、職員室にカップラーメンの一つぐらいあるだろう。調理室にも、何か食材が入っているかもしれない。中学校なら給食室があったから、食材ぐらいあったんだろうけど……。
 前後を気にし、予定を立てながら歩き、武器になりそうな物を見つければ拝借して、校門前までやって来た。既に日は暮れ、生徒はほとんどいない。
 昇降口から校舎内に入り、上履きに履き替えた。
 人はほとんどいない。廊下は暗く、ぼんやりとしか先が見えない。それでも毎日通る場所、月明かりがあれば前に進むのにさほど苦労はない。手を突き出して、慎重に、ゆっくりと。
 途中、水道があったので、汗をかいている手を洗った。液体石けんで丁寧に爪の間まで洗うと、両手に貯めて水道水に口をつける。一度口の中をすすいで捨ててから、もう一度口に含んで飲み込んだ。
 嫌な喉の渇きは治まらない。ストレスで喉が渇くと聞いた事がある。
 渡り廊下を進み、体育館へと向かう。一階はバスケ部とバレーボール部。二階にその他の室内系の運動部が入っている。体操部が練習をしているため、倉庫はまだ開いており、電気をつければ中にはやはり剣道部の備品、木刀があった。なぜ木刀があるのかと疑問に思った覚えがあるから、まだあるんじゃないかと予想していたが、当たってくれた。これと懐中電灯を失敬しカバンの外ポケットに突っ込むと、電気を消してそっと倉庫を出た。
 誰も気づいていない。そういえばこの木刀、みんなから見えなくなってる? 私に触れると見えなくなるなら、ここに来るまでに色々な物が消えている事になるから、何か条件があるんだろう。
 私は階段をそっと下りて、今度こそあの妖怪を探して歩き出す。誰にも見えなくとも、あいつからは私が見える。だから私は身を隠しながら前に進む。懐中電灯は念のためだ。これをつけたら他の人にどう見えるのか少し気になるけど、下手な騒ぎを起こしたくはない。
「逃げるのは得意なんだけどね……」
 追うのは私には向いていない。
 ひやりと、寒々しい空気がスカートの裾から足に入り込む。日が暮れた校舎内の、冷たい空気が私の火照った身体と頭を冷やす。
 熱くなるよりはマシ。
 校内に彼がいなければ、教師が帰った後に職員室で鍵を取り、保健室のベッドを借りよう。
 朝になったら元に戻っているかもしれないから、目覚ましのセットも忘れてないようにしよう。
 なにせ私は優等生だ。職員室のガラスを割って盗みを働いたなんて醜聞でしかない。もしもの時は変質者に追われて、学校から出られなくなったとでも言おう。ここはそれなりのレベルだが、所詮は公立高校だ。セキュリティなんてものはない。周囲の善意に支えられている。
 善意なんて、恵まれた人にしか向けられない物だけどね。

 
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2011/02/19   向こう側   980コメント 1     [編集]

Comment

 

haru7365     2011/02/19   [編集]     _

こちらの女の子は前向きでほっとします…ヒドい事にはならないで~(泣)


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