白夜城ブログ

9


 私は店から出ると、学校に向かった。ゲームだとしたら、何かありそうな場所だからだ。
 踏切がダメなら学校しかない。
 私の通っている高校は、私の家から徒歩15分と近かったために選んだ所だ。ここからは7分ほどの場所である。
 人とぶつからないように気をつけながら小走りし、学校の正面にたどり着いた。校門は閉まっているが、鍵が掛けてあるわけではない。きぃと音は鳴るが、私がギリギリ通れる程度の隙間を空けて、誰に気付かれず中に入る。
 ここも私と知っている学校と同じだ。校庭にいる体育教師も生徒達も知っている顔だ。
 間違いなく、私の学校。でも私の事は誰も見えない。
 校門をそのままにして、昇降口へと向かう。
 靴をどうするか少し悩み、下駄箱の上に置いた。
 まずは私が最後に通った廊下を見た。何も変な所はない。私は靴下のまま廊下を歩いて教室に向かう。途中、授業を行う教室のドアに手を置き、わざと音が出るように揺らして、教室のドアの窓から中を覗いてみた。曇りガラスで中は見えないけど、誰かがいれば分かるはずだ。しかし誰も何も言わない。見えたならざわめきが起こるはずだ。だから誰も私が見えていない。
「くそっ!」
 ドアを蹴る。するとさすがに教室がざわめき、数学教師がドアを開けて廊下を確認する。見つけてくれるなら、悪戯をしたと叱ってくれていい。しかし顔をしかめてドアを閉めた。
「っそぉぉぉおっ」
 今度は思い切りドアを蹴り、私は自分の教室に向かった。靴下をはいた足で、ぱたぱたと小さな足音を立てて走って、走って、走った。
 たどり着いた一番奥の教室の前、私は荒い息をついて心臓を押さえる。
 どっどっどっ、と心臓が鳴り続ける。走ったからか、心因的な理由かは分からないが、胸が鳴り続ける。教室のドアについた窓からのぞき込む。
 みんな同じ。違うのは、私の席にいるあの男の子。
 あいつだ。
 私と同じ名前、同じ場所にいる、性別だけが違う男の子。
 授業中に後ろの席の男子と話をして笑っている。
「ぁぁぁああああいぃつっ」
 がんっとドアを叩いた。
「わたしがっ、私が受けたくても受けられないのにっ」
 先生の話を聞かずに笑っている。
 確かにこの先生の世界史の授業は眠くなるとか評判だけど、話も聞かずに笑っているなんて、私がこんな目に合っているのに!
 あいつは何だ。ここはどこだ。
 それが問題だ。
 あいつは男だった私?
 ならここはパラレルワールド? 私の場所じゃないから見えない? ならどうすればいいんだ。
 チャイムが鳴った。
 世界史の教師が教科書を閉じて、学級委員長が起立と号令を掛ける。礼をして、先生がドアを開いて出てきた。閉められる前に中に入る。
 誰も私を見ない。
「あー、ったりぃ。あいつの声は催眠音波か。変な雑談ばっか頭に残るっつーの」
「雑学だけ頭に入るんだよなぁ。ウンチクで成績くれるわけでもないのにさぁ……っておい、恵がとうとう目を開けたまま寝てるぞ」
 教室中央の最前列にある私の席にいる、私と同じ名前の男の子が、クラスメイトに殴られ、目をこすって大あくびする。
「くふぁぁあぅう。無理。眠い。マジ眠い。後でノート見せて」
 彼は伸びをして振り返って男の子達に笑いかける。
「それさっきも言ってた」
「もうお前ら席交われ。ここじゃ目立ちすぎて居眠りもできねーよ」
「ヤだね。つか、さっき普通に居眠りしてんじゃん。起こしてやってるんだから、むしろ感謝しろよな」
 席を、変わって欲しい?
 席を、私の席を……
 しかも居眠りなんかして……っ!
「く……くふふふははははははっ」
 私は自分の鞄からボールペンを取り出した。誕生日に、友達の誰かからもらったボールペンで、広がったままのノートにペン先を叩き付ける。
 彼はその音に驚いて前を見た。
 私のボールペンで書いた字が、彼に見えるかどうかは問題ではない。彼に見えなくとも、ペン先で作られた色のない線だけは残る。はっきりとは見えないが、見て分からないような物ではない。案の定気付いた彼は、恐る恐るノートを傾け、字を読んだ。
「……代わって……あげ……る」
 震えた小さな声で、彼は私のメッセージを読み上げた。
 取られた場所は、取り戻さなければならない。
 でもどうやって?
 私には何もない。
 いや、無いのなら、私の物にすればいい。
 手段なんてどうでもいい。

 
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2011/02/13   向こう側   972コメント 0     [編集]

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