白夜城ブログ

5
 
 ニアスは流れ出した魔王降臨とばかりの音楽に一瞬脱力した。
 エスティーダは幼い少女だ。必要以上にはったりを効かせなければならない。だからといって、実際にユーリアスを見習うようなことをするとは思ってもいなかった。
 いつもは可愛らしいノイリが、邪悪の王を称えるように歌うのは心苦しい。
「…………ラクサ、お前、これは知っていたのか?」
 ニアスはエスティーダの耳に届かないように小声で妹に尋ねた。
「練習しているのは聞いていた。演出効果がないと明るく聞こえるものだな」
 あの時以上に暗くて荘厳だと肩をすくめる。
 彼女は近衛などしているから、リズィの次にエスティーダに一番近い場所にいる。この世の不条理を多く目にするらしい。女でなくて良かったと、彼女の話を聞くと思うのだ。
「しかしノイリは音楽に関しては器用だな」
「物心ついたころから歌っているらしいからな」
 ニアスとラクサは芸術とは無縁で、幼い頃から兄妹で腕を磨き合っていた。それが当たり前であったし、それ以外にすることと言えば勉強ばかり。勉強よりは身体を動かす方が好きだった。音楽などかじったこともない。
 エンダーは父が亡くなってからは、身体を鍛えるよりも、頭の中身や芸術的な感性を鍛えていったので、二人よりは理解しているだろう。
 その頃から太っていったので、理解していなかったら太り損である。
「しかし、エンダー兄さんはノイリをほっといてユーリアスのフォローか」
「仕方がない。三区王は魔族だからな。魔族でなく、領土も近い兄貴が一番適任だ」
 一区王が魔族であるのは、建国の王が魔族であったからだ。魔族は魔術に長けており、この地下帝国の基礎を作った。このような深い場所に、崩れぬよう、広い穴を作るというのは並大抵のことではない。掘る先の地質などの探査等は、繊細な技術が必要だ。だからこそ中央には魔術に長けた魔族が多く住まう。新しい区画を掘るのに、何人もの魔族を雇うことになる。計画にも、進行にも、維持にも魔術が必要なのだ。だからこそ、魔族が一区王、魔王と名乗っている。
 エスティーダは魔王としてふさわしい技術と魔力の持ち主だ。幼さ以外に欠点はなく、排斥しようと思えば殺すしかない。
「気楽な身分でお互い助かるな」
「まったく。これはこれでストレスが溜まるけど。
 エスティーダ様は女王になっても変わらぬのだから、凄いお方だ。ある意味でそれはノイリにも当てはまるから、そこを気に入っているのだろうな。地上で育ちながらあの兄に懐くところが剛胆すぎる」
 見た目よりも中身が大切と言う女は数いるが、それを本当の意味で実行出来る者は少ない。ニアスがノイリの立場だったら、未だに適応できていなかっただろう。もちろんエンダーには懐かない。懐くとしたらマルタとか可愛い獣族ぐらいだ。
「その上度胸もある。種類は違っても、似たところがある。持ち主が兄さんじゃなくて、あんなに懐いてなかったら、絶対によこせと命令していただろうね」
 歌い終わったノイリは、下がってエンダーの元へと走っていった。生け贄かというような衣装をひらひらさせながら飛びつくと、彼女はとても満足そうな笑顔で水をもらう。
 水はエンダー自らが持ち歩いているようだ。飼い主の鏡である。
「ラクサ、ニアス! 何をこそこそしておるか。酒を持て」
 エスティーダがノイリを見守る兄妹に怒鳴りつける。ラクサは慣れた様子ではいはいと承諾した。
「誰か、ティーダ様が酒を所望だ。ここに持て」
 エスティーダが舌打ちする。どちらかが離れた隙に、逃げ出そうという魂胆なのだろう。そういうところばかりは子供っぽく、ニアスでは手に負えないのだ。

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2008/03/13   窖のお城   97コメント 4     [編集]

Comment

 

-26   管理人のみ閲覧できます   2008/03/14   [編集]     _

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とーこ29     2008/03/15   [編集]     _

Gさんへ
うちの辞書だと、あの漢字の方だったので、間違いではないようです。

-31   管理人のみ閲覧できます   2008/03/15   [編集]     _

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-34   管理人のみ閲覧できます   2008/03/16   [編集]     _

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