白夜城ブログ

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
誤字の報告はこのフォームからお願いします


魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

--/--/--   スポンサー広告     [編集]

3.5話
 古い紙の匂い。
 なぜこんなにと思うほど高い本棚。そこに隙間無く埋められた本。
 一区の王宮横の穴にある広大な──拡張され続ける図書館は、まるで迷路である。初めての者は本当に迷うらしい。本が好きだというノイリを連れてきたら、驚きながら喜ぶだろうなと、ふと思った。
 大衆小説のような類は一切読んだ事がないらしく、変なことは知っているのに、世の中のことは知らない子だ。
 天族の生態や魔族についてはそれなりの知識があるのに、常識がない。
 そのため気になって調べに来たのだ。あのマニュアルだけでは不安がある。とくに飼い主があの兄では。
「カルティ」
 ニアスの身長の倍ぐらいの位置を、可動式の脚立でうろつく獣人に声をかける。
 真っ白いねずみ型獣人の青年は、下にいるニアスとテルゼに気付いて脚立の上からぴょんと飛び降りる。自分の身長の数倍はありそうなものなのに、短い足でちょんと着地する。他の獣人や竜族ならともかく、彼がこれをすると少し胆が冷える。
「ニアス様、何か調べ物で?」
「ああ、少し天族と……人間の信仰について」
 カルティは可愛らしい仕草で首をかしげる。
 彼はノイリの世話をしているマルタの息子で、母親に似て可愛らしい。ノイリが見たらさぞ喜ぶことだろう。兄を大好きと言い切り撫でられて頬にキスまでするような彼女でも、さすがに第一印象は外観らしくて可愛い物は一目で気に入る。今度の休暇はこれも連れ帰ろう。
「カルティ、人間が女の足やら服の裾やらにキスをする意味は何だか分かるか」
「変態じゃないですか?」
 ニアスの問いに考える間もなく彼は答える。
「…………やはり、そうなのか」
 触れられたりキスされる以上のことはされていなかったようだが、何だというのだろう。
「ん……ちょっと待ってください。
 先ほど信仰とおっしゃいましたね。そういえば、そんな絵を見たことがありますよ」
 カルティはちょろちょろと走り、脚立がその後を追う。もちろん乗ったまま移動も出来るのだが、重りを乗せない方が速く動くため、彼は距離のある場合は自分の足で動く。
「いつ見ても変な感じだよな、あれは」
 テルゼが呟き、見失わないように渋々走る。
 ここの施設は無駄に高等な技術が使われている。カルティのように力のない小さな種族には、ああいったものがないと不便だろう。司書など皆似たり寄ったりだ。カルティは体力だけはあるので、頑丈な方だと言える。
 カルティの後を追っていると、人間についての本が並ぶ区域まで来た。彼は魔力で脚立を小さくしてその上にぴょんと乗り、一気に脚立をのばしてニアスの頭よりも高い位置の本を手に取る。
「これこれ。この本は人間の宗教画の本ですよ。細かな解説が書いてありなかなか面白くて──」
 彼はぱらぱらと本をめくると、ニアスの前にその絵を突きつける。
「おお、ノイリ男版」
 テルゼが子供のようにはしゃいだ。
 太った天族というよりも、翼の生えた人間。その前に傅き足下を覆うローブの裾に口付ける男の図。
 見事な版画だが、男同士で気色悪い。
「これはこの大陸の──そうですね。ちょうど四区の上にある国の習慣です。神の使いに対する礼。その意味が広くなり、人間の聖人に対しても行うそうです。変態以外の人間がそれをするなら、これでしょう」
 彼はつぶらな赤い瞳を覆う丸眼鏡を押し上げて、尻尾をぴんと張る。得意げな仕草がまあ可愛らしい。
「さすがはカルティだな。自分で調べていては時間がかかった。感謝する」
 彼は昔から褒めてくれる相手が好きで、彼の才能を絶賛する者に対してはとても協力的になる。長い付き合いのため、彼の扱い方はすっかり心得ていた。
 このカルティ、元々は五区の住人で、母と共にエンダーに仕えていた。下働きであったのだが、異様に物覚えがよく、一度読んだ本の概要を綺麗に覚えている。字もろくに教えていないのに、ニアスにも難しい本をニアス以上によく理解して、時間があれば書庫にいるような子供だった。
 その時点で、子供だった。
 大人になるとエンダーのすすめでこの一区で司書をすることになった。五区で埋もれるよりも、必要とされている一区に行かせて恩を売るのだと、そう言ってマルタを説得した。
 人のよい兄に呆れたが、本好きで有名な女王陛下の覚えもよいらしく、実際にエンダーの評価は上がった。毎夜女王陛下が読む本を、カルティが選んでいるそうだ。新人がとやっかまれるため、こうして時折様子を見に来ている。ニアスの後ろ盾があれば、表立って苛めたりは出来ない。
 そんな気遣いを理解しているのかいないのか、本狂いのこのネズミは自慢げに続ける。
「女性の聖人でしたら、スカートの場合めくり上げるのも失礼になるため、靴に口づけということもあるんではないでしょうか。
 そういえば天族とおっしゃっていましたね。
 彼らは翼こそ生えていますが、見た目は悪魔の如きと、神の使いの姿を騙る不届きな種とされています。この絵にあるような神の使いとは大きく異なりますよ」
「いや、今実家にいるんだ。この絵みたいな肥満の天族が」
「…………神の使いのような?」
 彼は可愛らしい顔を顰め、尻尾を左右に振る。この何をしていても愛らしい姿と仕草で、何人の女性を虜にしてきたか。もてるというよりも、愛でられると言った方がいいのだが。
 このおかげで、彼は苛められると女性に庇われる。女王陛下に気に入られたのも、まずこの愛くるしい容姿と仕草のためだ。体毛が真白いので、獣族にありがちな不潔という印象がまったくないのも好かれる要因である。小綺麗で可愛らしい草食系獣族は、五区の名物の一つとも言われている。
「なぜそんな天族が地下になど……」
「どこかの教会にいたところを襲撃されて、流れ流れて市に」
「それ、地上は大騒動じゃないですか?」
「そんな気がする」
 ニアスの気のせいであればよかったのだが、これで間違っても人間の前には連れて行けなくなった。
「だから調べられてるんですね。そうか……天族が……」
 彼はふむふむと頷き、眼鏡を押し上げて別の本を取る。
「これは人間が信仰する神の使いについての本です。分かりやすい姿をしているから、神を押しのけて信仰の対象にもなっています。
 元いた国によっては、ひょっとしたら取り戻そうとする者もいるかも知れないですねぇ」
 ニアスはあまりよくない可能性を指摘されて、尾で床を打つ。
「しかし、それほど大切に扱われてはいなかったようだ。雑魚寝をしたり、粗末な食事をしたり。孤児と一緒に育てられていた」
「神託を受けることの出来る聖人は、幼い頃そのように育てられます。うちの巫女様は我が儘放題ですが、地上ではそれがないように幼い頃は普通に育てるそうですよ。幼い頃から蝶よ花よと贅沢を教えれば、我が儘にもなりましょう。人間の方がよほど賢い。
 まあ、国の醜聞になりますから、大々的に動くことはないでしょうよ。取り戻しに来る人間がいても入り口で殺されるだけです。エンダー様が買われた天族にそれだけの価値があったと、そう言うことになりましょうなぁ、あははっ」
 地上と違い、地下には隠れる場所は限られている。街と道しかなく、真の夜もない。森に潜むなどできないため、人間の侵入が成功したことはない。
「習慣からある程度地方は絞れます。その付近の警備の者に忠告しておけば十分でしょう」
「調べてくれるか」
「エンダー様には返しきれない恩がありますからねぇ。お安いご用ですよ」
「あと、今度の休暇は一緒に帰るぞ。次は年末だからまだ半年以上先だが、貴様のことだから年の瀬のことなど忘れるだろう。予定表にきっちり書いておけ」
 彼の記憶力はかなり偏っている。本の内容だったら年や日付まで覚えるのに、人との約束はころりと忘れる。
「いったい私がなぜ?」
「たまにはまともな休みを取れ。マルタが心配しているぞ。
 さっき言った天族は今、マルタが世話をしている。だから彼女はこちらに来られない。お前を連れ帰らなければ、マルタが可哀相だろう」
 何も言わないとうっかり数年も帰らない男だ。先日は彼に女王陛下との予定があり、連れ帰ることが出来なかった。そういう時はマルタの方が休暇をとって様子を見に来る始末。しかし今はノイリがいる。寂しくて死んじゃうとか言い出しかねない小動物のような天族は、とにかくマルタに懐いている。エンダーが父ならマルタが母。ニアスが帰るときも瞳をうるうるさせて、次はいつ帰るのかと尋ねてくる。あんな調子では、もっと懐かれているマルタは、離れられないだろう。
「天族……天族をこの目で見られるなんて、貴重な体験ですね。探し出すことよりも、生きて帰るのが難しいと言われているぐらいです」
 カルティは母よりもまだ見ぬ天族に思いを馳せて頷いた。
 父親を亡くしているから、親のありがたみは分かっているだろうに。これだからマルタが小さなノイリの世話を任せられても、娘が出来たようだと喜んでしまうのだ。
 きっと、ニアスが予定を立て、女王陛下にそれを告げねばならなくなるのだろう。
back    next

誤字の報告はこのフォームからお願いします


魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

2007/08/08   窖のお城   88コメント 0     [編集]

Comment

 

Pass:   非公開:    

.

最新記事のRSS

.

更新履歴 カテゴリ コメント

.

.

拍手

.

リンク

.



.

.

.

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。