白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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 レンファは首をすくめて、新商品を考えるのをやめた。
「ところで今日ここに来たのは、もう一つの目的があるのですよ」
「ほう?」
 ファシャが荷物の中から、短剣を取りだした。
「それが?」
 ファシャが刀身を抜くと、本来はあるべき部分が半分無かった。刀身の半ばほどで折れてしまっているのだ。それを見て、何を意味するか理解したアーネスが息を飲む。
「……どうして折れているんですか? 馬車にでも轢かれましたか?」
 アーネスの問いにレンファは首を横に振る。アーネスが驚くのは無理もない。この剣は切れ味は良いとは言えないが、頑丈で刃こぼれもせず、無茶な扱いをしても折れることなく、手入れもほとんど必要ない事で有名な魔剣である。刀身にある銘から、アーネスはどこの工房かも理解したはずだ。
「お察しのようにこれはグリーディアで買った品。勿体なかったのですが、いろいろと実験を繰り返して折りました」
「なぜ」
「この丈夫な剣は、どこまでの衝撃に耐えられるかと」
 アーネスは言いたい事を察したのか、血色の良い唇を再びつり上げる。
「このやたらと頑丈な金属は、どのようにしたら作れるのか……大きな物は作れるのかと思いまして、博識であるアーネスさんに知恵を貸していただきたく」
 レンファが頭を下げると、アーネスはくくっと笑う。
「要因はありますが、特殊な素材を混ぜているんですよ。
 あとは中央に溝のように文字が彫られているでしょう。それで強化されているんですよ。その技術の権威はクレアの妹のエイダです。直接面識のあるアディスに尋ねると良いでしょう」
 レンファは活発な印象の、クレアの右腕だという女性を思い出した。何度か顔を合わせた事はあるが、話をした事はなかった。エリオットかアディスに仲介を頼むのがいい。
「特殊な素材とは?」
「……この国の鉱物です」
「どのような?」
「土でも何でも、他の地域で取れる物よりも魔力が染みついているようです。山の上には竜がいて、その雪解け水が流れてきていますから、なおさら。竜血草はほとんど生えませんが、他の国よりはよく生える理由はそこにあります。他の薬草にしても然り。つまりこの国に鉱物を持ち込んで、一年も川に付けておけば魔力を帯びて、強化の式を強めるという事です。元々ここで魔術が栄えた一番の理由はそこなのですから」
「なるほど」
 何事にも理由が存在するのだ。
「天然から一度に得られる魔力には上限がありますから、現在は生き物から搾り取るのが一番手っ取り早いと言われています。竜はいるだけで勝手に垂れ流してくれるので有り難い存在ですよ。
 高速艇も、竜が高い魔力を込めたら空を飛んだそうですよ」
「そんなことが……」
 何が最も効率よく、商売になるか。結果を出すのは研究者達だが、レンファでもいくらかの方向を示す事は出来る。外部の情報はいくらあっても足りる事はない。
「まあ、せいぜい頑張りなさい。私も楽しみにしている」
「ええ、ご期待に添えるよう努めます」
 アーネスはヌイグルミを抱えるモリィの髪を弄りながら、悪魔のように笑う。なまじ悪魔のように美しい男性だ。悪魔に見下されている気分になる。
 しかしそう考えるとしっくりきた。竜を抱えている今、悪魔との差などあまりない。上位の悪魔ほどの魔力はなくとも、補う技術があり、悪魔殺しにでもなれるはずだ。将来的には、あのウルのような化け物的な扱いになるのは間違いない。
「私が生きている内に、必ずや」
「期待しています」
 ハーネスが渇望したであろう肉体を手に入れた青年は、アディスと同じようにハーネスとの関係が噂されている。
 彼等がスペアであったのは、アディスの言葉から確実だ。アーネスに関しては、実は血を分けた息子だの、彼こそハーネスの知識を継承した真の後継者だのと言われている。
 よく似た境遇で正反対の二人だが、実際の所は同族嫌悪から反発しているが、考え方は生まれよりもよく似ているのだ。
 もし二人を何かで釣ろうと思うなら、同じ物を用意すればいい。
 反発し合いながらも、食い付いてくる。アディスは立場上、自分では出来ないからこそ。
「そうだ。モリィちゃんと同じヌイグルミを、あと二つ持ってきたんですよ。以前お会いした可愛らしいお嬢さん達なら、可愛い物がお好きだろうと」
「きっと喜びますよ。しかし、ロゼの部屋にまたヌイグルミが増えてしまう」
「彼女はヌイグルミがお好きで?」
「人間の居場所よりも、ヌイグルミの居場所の方が広いぐらいですよ。モリィも、うちを飾るのはいいですが、ほどほどに」
「はぁい」
 少しだけ不服そうに、モリィはぎゅっとヌイグルミを抱きしめた。

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2010/08/20   下書き   839コメント 0     [編集]

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