白夜城ブログ

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「どれか好きな物をどうぞ」
「これがほしぃいっ」
 やって来たフレアに装身具をいくつか見せると、本能のまま飛びついてくれた。花と蝶がモチーフのびらびら簪だ。
 フレアはたまにこうして支社に遊びにやって来る。今回は進行が気になったらしく、予想通りの時期に来た。
「で、なぁに?」
 当然、タダでもらえるとは思っていないフレアが首を傾げてみせた。含むような笑みが様になっている。
「私の実家への往復と、アーネス殿との面会の手配を」
「別にいいけど、いつ?」
「今から私をあちらに送り、一週間後に迎えに来て面会を。時間が合わなければ、多少後にずれても構いません。あまり無理は言わないように」
「いいわよ」
 彼にとっては大した労力ではないため、当然引き受けた。だが、常人にとっては一瞬で往復一週間の距離を移動できるというのは、夢のような話である。
「ねぇねぇ、似合う?」
 フレアはそう言って長い赤毛に簪を刺す。
「もちろんです。貴方に似合いそうな物だけ取りそろえたのですから」
 顔立ちは父親に似て間違いなく上等のため、男だと分かる女装も、着飾るのも、よく似合っていた。
 着飾って美しい事に、男も女も関係ないのである。





 職人達の仕事に、レンファはとても満足していた。
 ランプの火で水を沸騰させれば、木の人形が踊るように左右に動いた。これは若い技術者が、ただ動くだけでは寂しいと、グリーディアの小さなオモチャをつけたのだ。手足が紐でつながれているため、少々不気味だが、なかなか目を楽しませる動きをした。
 上司と部下達と技術者達と、彼の隣に立つフレアは、この試作品をまじまじと見ていた。
「面白いけど、これで大した力が出るの?」
 フレアの疑問はもっともだった。
「入れ物と摩擦の問題ですね。ですが、可能かどうかという判断はこのサイズで十分です。これの大きな物が実際に動いていた……しかも過去の技術であるそうです。もちろん実在した物をそのままの必要すら在りません。新しい物を作り上げるための礎です。
 単純に延々と動き続ける動作というのは、魔導具が苦手とすることです。そして延々と自然現象を起こす事は得意です。それを上手く間接的に利用出来れば勝ちです」
 火や水や風を起こす事は出来る。しかし風車を回し続けるような風を送り続ける魔導具は作る事は出来るが、普通に風車として使った方が安い。また風を利用して車を走らせようとした事もあったが、実用化された事はないという。
 魔導具というものに固執していたから、発想が貧弱だったのである。
 レンファは使える知識は全て欲していたが、全てをその通りにするつもりはなかった。セーラもそのように考えているようで、あまり危険な事を教えたがらなかった。レンファも危惧するのは環境汚染だ。その当たりの事はイーリンが聞いていた。それはつまり、まだ若い二人が真っ先に懸念してしまうほど大きな問題という事だ。何が毒になるか分からない事をエンザやグリーディアでは出来ないし、他国でするのも技術流出の恐れがあって出来ない。
 回避できる方法があるなら、リスクを回避するのは当然の事だ。
 必要なのは、柔軟な考えを持てる研究者だ。それが可能にしてくれそうなのは、アーネスである。嫌っているアディスが推すほどだ。しかも国仕えしているわけでもない、ただの道楽で研究している金持ちである。しかも優秀な部下を、腐らせることなく大量に保有している。これほど取引しがいのある相手はいない。
「セーラさんが言うには、この部分を車輪とつなげて、列車を走らせる事が出来るそうです」
「あ……蒸気機関車?」
 イーリンが口に手を当てた。彼女も存在は知っていたようだ。
「こんな風に動いてたんだ……てっきり蒸気が出るから蒸気機関車っていうんだと思ってた」
 レンファは彼女の言葉の意味が理解できなかった。
「え、蒸気を使うから蒸気機関車なんでしょう」
「あ、そうじゃなくて、ぽーって煙突から蒸気を出すんで……すかね?」
 イーリンは自信がなさそうに首を傾げた。セーラも古い技術で、ほとんど観光用にしか残っていないレトロな物であるといっていた。レトロといっても、半世紀程度だというから、子供にとっては見た事もないほど古い物なだけであり、十分に新しい。
 研究が進めば、半世紀後には、今使っている乗り物や道具は既に存在しなくなっている可能性もあるが、イーリンと出会う前の数百年間、大きな進歩など無かった。
「まあ、こういった間接的な魔力の使い方をすれば、魔導具だけに頼るより、はるかに安価ですみます。グリーディアに頼るのは主に熱源。他にも何か良いアイデアが出てくるでしょう。大切なのはお互いに意見を出し合う事と、創意工夫です」
 半分は話を聞かずに、不思議な音を立てて動く玩具を見つめていたが、次第に動きが弱まり、止まってしまう。溜まった蒸気が無くなったのだ。
「セーラさんから教わったのは、単純な原理だけです。蒸気の力は加減を間違えれば鉄の筒でも爆発するそうです」
「というか、一回しました。というか、させました。どれぐらいでするかと思って」
 連れてきた若い技術者が口を挟んだ。
「熱心だな。研究者も、それにだけは気をつけるように」
「爆発……ですか。なら適度に逃がす必要がありますね」
 研究者の言葉を聞きながら、レンファはボイラーから火を外す。
「あ」
 何かを思いついたらしく、イーリンが声を上げた。レンファは何かまずい事でもしたのかと、思わず魔導具を落としそうになった。
「圧力鍋」
「なべ?」
「密封して蒸気の圧力で早く火を通すお鍋です。蒸気が出る穴が塞がってると、爆発するらしいんで、私は使った事がないですけど」
「なるほど」
 様々な使い道があるようだ。
「お肉が柔らかくなったりするんですよ。あと、スチームアイロン! 蒸気でまっすぐになるんです。汚れも落とせます」
「それは……売れそうですね」
 レンファは頷いた。
 研究しなければならない事は山のようにある。
 新しい魔導具の使い方、アイデアの提案がレンファのグリーディアでの仕事となる。


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2010/08/17   下書き   837コメント 4     [編集]

Comment

 

とーこ6314     2010/08/17   [編集]     _

大きな物を作ろうとして、目先の小さな物が出来上がる。
圧力鍋は調圧弁とか安全弁を付けるから、そう間違っていない方向だけど。
私は怖くて自分一人じゃ使えない。

G.G.6315     2010/08/17   [編集]     _

技術の発展って積み重ねなんで、
小さいところからやっていくのに何も問題はないかと。
普通の異世界ものでは一足飛びな発展が多いから
唐突な感じが否めないんですが、これだと、
読者的にも納得できます。

-6316     2010/08/17   [編集]     _

圧力鍋安全ですよ?
私が持ってるのコーナンで買った普通の激安品ですけど。

100均の蒸し器足にして
やっぱり100均の竹ざる乗せて
200ml水入れて軽く水洗いしたじゃがいもをざるに乗せて
ふたしめて加熱するだけ。

15~20分蒸すと
澱粉が糖に変わるか何かのせいだったかと思いますが
凄く甘くてクレイジーソルトふるだけとかでもいける
激ウマの一品になります。

おでんに入れてもカレーと合わせても何でも行けますよ~
食べ過ぎにだけ注意。

とーこ6317     2010/08/17   [編集]     _

安全弁もあるから大丈夫だと分かっていても、母が蓋を吹っ飛んだのを見た事があるらしく、私を脅すんですよ。

水蒸気といえば、ヘルシオ欲しいな。
新型が出たみたいだから、すごい気になる


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