白夜城ブログ

5


 沈黙が落ちる中、口を開いたのはアディスだった。
「で、報酬はいかほど?」
 アディスは試すように意地悪く笑いながら問う。
「どれだけをお望みですか? 金銭で不自由している様子はありませんから、物でお支払いするという手もあります。例えばセーラさんの好きな甘味や嗜好品など、珍しい物を見つければお持ちします」
「そうですねぇ。何がいいでしょうか」
 アディスはくすりと笑って、少し困ったように言った。
「地位も名誉も優れた容姿もお持ちで欲のないアディスさんに、差し上げる物などなかなか思いつきませんね」
「思いつかないのであれば、必要な所に惜しみなく研究費を出していただきたいですね。基本的に魔導具は大規模な物がないんですよ。一番規模の大きな物は、この都の結界です。高熱を発する大規模な魔導具は、私も知りません。おそらく必要がないからです。欲しいのであれば、研究費を出す必要があるでしょう」
「なるほど。お心当たりは?」
「クレアには話を通しておいた方が良いでしょうが、国仕えの魔術師よりも、金目当の研究もしている私設の組織──箱庭などの方がよほど向いていますね」
 顔を顰めて言うアディスに、レンファは驚いた。
「おや、箱庭の事は嫌っているのではないのですか?」
「あそこの元締めが個人的に嫌いですが、必要悪というのもありますから。
 表に出せない実験もしているのでしょうが、表に出ている部分は合法です。その部分で資金を得て、地下に流しているんですよ」
「そこまで知っていても、何も咎めないのですか?」
「証拠がありません。それにあまり締め付けると、国外に行ってしまいます。神殿も厳しいですが、探査技術でグリーディアに技術で劣っているので、本気で隠れれば発見されにくいでしょう。
 枷のない研究者は研究のためなら手段を選ばないのは、よく知っています。だから人体実験やハーネスになろうとしなければ、少しは見逃されます」
「国内で最も適しているのは箱庭だと」
「国内で私達以外なら、一番技術が高いでしょうね。逃れたハーネスの信者も、一部はあそこに落ち着いているようです」
 アディスは頭を押さえて言う。
「もし親しくなったら、本当にヤバイ研究をしていた場合、知らせてくれれば有り難いですね」
「それは……ハーネスのような?」
「そう。ハーネスのような。
 犠牲になるのは才能だけある幼い子供なんですから」
「噂通り、子供がお好きなんですね。アーネス殿も才能ある人間を大切にしているようですし、ご本人の体質的にないと思いますが」
「本人はともかく、その周辺が問題です。無駄に才能があるモラルのない人間が揃っているんですよ。信じられません」
 聖良とフレアは呆れてアディスを見た。彼は生真面目そうに唇を引き結んだ。
「おや、もし私がその知識を欲しがったりしたら?」
「貴方には才能がないので不可能なので大丈夫です」
「……まったく?」
 少しだけは本気の様相のレンファを見て、彼はくすっと吹き出した。
 アディスは手の平の上に淡い光を作る。
「頑張ってこのぐらいですね」
「……絶望的ですね。少しぐらいは憧れていたのですが」
 レンファは儚く消えようとする光を見て悲しげに言う。
「この国は優秀な魔術師同士の婚姻が推奨されて血筋が作られているんですよ。私やアーネスのように、スペアとして生まれてきた人間は、とくに優秀な血統なんです。これからは意図して作られないので、私レベルの術者は少なくなる可能性はありますね。血統は重視されて政略結婚も多いですが、私達のように恋愛結婚も多く出てくるでしょうから」
 一般人になったのに、魔力のある相手と結婚しろと言われても、普通の人間なら困る。特権階級にでもしない限りは、薄れていくのを食い止めるのは不可能だ。
「その分、アーネス殿がたくさん増やすのでは?」
「はははは」
 アディスとフレアが笑う。
「浮気したらチクっちゃおっと」
 フレアは頬に手を当て、身をよじって言う。
「どなたに?」
「モリィを溺愛するとっても激しいお兄さん。キレると怖いのよ」
「それはそれは……恐ろしい」
 妹の血を飲んだ男が浮気をした。人間で言えば婚約して浮気をしたようなニュアンスに近く、レンファは空笑いした。


青色吐息 21話 4
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2010/08/15   下書き   836コメント 0     [編集]

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