白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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 聖良は必死になって記憶を絞り出す。基本的な蒸気機関の構造は、とても簡単だ。
「水蒸気の力を利用するんですよ」
「水蒸気って、湯を沸かした時に出る湯気の事ですか? 雷とかではなく」
「うーん……電気は発生させる理屈は簡単ですけど、利用する方法が……。細い針金みたいなのとか、炭とかに電流を流すと光るってのを知っているぐらいです。そういった技術は積み重ねで発展していく物ですし、発展した結果を使っていたので、間の知識がないんですよ。扱いが難しいですし」
「なるほど。電池の作り方はイーリンも知っていましたが、私達も扱いに困っていたんですよ。先に単純明快な飛行船ができました」
「原動力は魔導具なんですよね? それじゃダメなんですか?」
「自然現象を起こすのは得意なのですが、物を動かすにはあまり向いていないようなのですよ。そういう物はいきなり値が上がりますし、メンテナンスが必要でグリーディアでも道楽扱いをされているようです。グリーディアの高速艇のように、常に魔術師が乗り、要人を運ぶために利用するならともかく、とても商売には使えません」
「そうですか」
 無駄にたくさんの魔力があれば飛ぶ事も出来るが、魔導具ではそれが出来ないようだ。
 なら今ある力を動力に変換する方法を考えた方が良い。蒸気機関との組み合わせはかなり有効である。温度調節不要の熱源にするだけなら、メンテナンスはほとんど必要ないのだ。聖良が使っているコンロぐらいなら、違法改造でもしない限りは爆発したという例もないと説明を受けていた。
「蒸気機関は工夫する点はたくさんありますが、力の使い方はとても分かりやすいです。
 そもそも電気を大量に作るには、やっぱり蒸気機関とか、その手のものが必要なんです。だからとりあえず蒸気機関について簡単に説明しますね。知識として知っていれば、この世界の技術で代用できる可能性もありますし」
 蒸気機関もエンジンの一種である。蒸気機関は現在でも火力発電などに利用されているため、過ぎ去った技術ではない。
 イーリンが言ったのはガソリンエンジンだが、いきなりそこまで飛ぶから無理があるのだ。何事も段階を経る事が大切である。だから遡って原始的になればなるほど、聖良の知識でもどうにかなるものだ。
 蒸気機関の理屈はそう難しくない。作るのと、効率を上げるのが難しいのだ。設計図を書けと言われたら聖良には無理だが、学者などの頭の良い人間であればぴんとくるはずだ。しかし相手は商人であるため、説明に困った。レンファは博学ではあるが、勝手に察してくれるほど深い知識があるとは思えず、言葉に迷っていた。
 大切なのは段階を踏む事である。逸る気持ちを抑えて、基本から進む必要がある。蒸気機関も作れないのに、ガソリンエンジンやジェットエンジンなど作るのは無理だ。爆発するような力に耐えられ無ければならないのだから。
「蒸気圧──気体の力ってすごいんですよ。たとえば、炭酸の強い物って、栓を抜く時に飛んだりしませんか」
「ああ、確かに」
「あんな力を利用するんです」
 聖良は彼等にも理解できる身近な例えを探しながら話す。多少違っても、イメージ的に合っていればいいのだ。正しい事は学者や技術者が知っていればよかった。
「普通の水から出来る水蒸気も凄いんですよ。水蒸気になると、水の時よりもかさが増えるんですよ」
 聖良は聞く彼等の表情を見て、少し困った。
「飛行船があるから、気体に嵩があるのは分かりますよね」
「はい」
 聖良はレンファが用意していた紙を手に取った。
 それを折り、風船を作る。それにぷぅっと息を吹き込んで膨らませる。
「もしたばこでも吸ってから同じ事をすれば、この中には煙が充満していたはずです。こうすれば」
 聖良はレンファの顔に、紙風船を指で押し潰して、中の空気を吹きかけた。
「こうやって押し出せば、風を作る事も出来ます」
「水を蒸発させ続ければ、押し出されてずっと風が出来るという事ですね」
「はい。
 この紙風船が密閉されているるのに、中身が勝手に増えたら当然耐えられなくなって破れます。だから金属で作って口が詰まってしまったら、爆発します」
 爆発という言葉にレンファの頬がひくりと動いた。
「金属製の瓶とかを栓してから暖めると、栓は外へと押されます。その押す力を利用するんです。
 だから素材の問題もあるんですよね。大きくて、正確に、丈夫に作れるかどうかが一番の山だと思います。鉄製なら錆の問題もありますし」
 聖良にはこの世界の製鉄や鋳物について知らないため、どこからが出発点なのかが分からなかった。全て研究して無駄になる事ではない。いつか通る道だ。
 続けようとした聖良を止めるように、レンファが手を差し出した。
「セーラさん、ちょっとお待ちを。ファシャ、せっかくだから技術者を連れてきなさい」
「はい」
 ファシャは部屋を出ると走り、五分ほどで三人の技術者を連れてきた。一人は老人、一人は中年、一人は人間のアディスと同じほどの若者である。
「さあ、続きをどうぞ」
「えっと、今、蒸気機関について説明してるんですよ。蒸気を使った装置って知ってます?」
 彼等は顔を見合わせて、首を横に振った。実用化されていない技術を、学者でもない彼等が知っているはずもない。
 聖良は悩みながら、蒸気機関について説明した。
 聖良に分かるのは、簡単な構造だけである。この仕組みだけは簡単だ。難しいのはちゃんと圧力がかかるように作る事だ。
 聖良は紙に本当に簡単に絵を書いた。
「こっちに蒸気がたまってぐぐっとこの真ん中の仕切りを押します。するとこれが押されて開き、さっきまで水蒸気を入れていた入り口が閉じて……えっと、どこから出るんだろ」
「このあたりでいいだろ」
 説明している聖良よりも、頭の柔軟な若い技師の方が理解してしまったようである。
「ああ、そうです。さすがプロの人は違いますね。まあ、そんな感じの繰り返しです」
 聖良もだいたいの『動き』は分かっていたが、本当にこれだけで動くのかは知らなかった。
 あとは学者が自分達の創意工夫で何とかするはずだ。
「で、この前後の動きを、回転に変えるんです。前後させると車輪が回るような構造までは知らないですけど。
 動力を別の動きに変換することで、単純作業を行ったり、推進力に出来ます。ひょっとしたら水蒸気以外に効率がよくて簡単な方法がこの世界にはあるかも知れませんけど、研究して損はないと思いますよ」
 それは考え方次第だ。
「なるほど。で、分かりましたか?」
「なんとなく?」
「作ってみない事には……」
 レンファの問いに、技術者達が曖昧に答えた。
 蒸気圧については理解していなくとも、動きは理解したはずだ。
「ここら辺は、小さい模型でも作って確かめてもらわないとよく分かりませんが、けっこう色んな事が出来るはずです。
 あとは、タービン型ですね」
「タービン?」
 レンファは眉間にしわを寄せた。
「風車みたいなものです」
「……ああ、風の代わりに水蒸気で風車のような物を回すんですね?」
「そうです。私の世界では、その方法でたくさんの電気を作っているみたいです」
 原理は小学校の理科レベルで習うレベルだ。コイルを回転させられれば発電が出来る。
「どちらの方法を使うにしても、イーリンさんが言っていた空を飛ぶ乗り物は、もっと先の技術で、蒸気機関すら作れない技術力では無理です」
「なるほど」
 簡単な事からコツコツと、階段を上るように確かめていくのが一番確実である。
「あと、最初に飛行機を完成させた発明家は功績を横取りされてました。利権絡みとか、後発の発明家を妬むとか、足を引っ張ったりするする事がたくさんあります」
 立ち回りが上手い者、宣伝が上手い者が功績を独り占めしてしまうというのは珍しくない。いつか分かってもらえると思っていても、運が良くなければ分かってもらえないのだ。失意のままに亡くなって、後世に認められる人はまだ運が良い。失意のまま埋もれてしまった天才の方が多いのだ。
「つまり、派閥間や若手の台頭などで関係ない争いが起こらないように目を光らせて、優秀な技術者はちゃんと認めてやらないといけないという事ですね」
 日本に技術者が留まらない理由は、認めないし相応の対価を支払わないからだ。
「水蒸気を発生させるために石炭を使っていたんですが、魔導具ですむならそのほうがいいと思います。石炭を大量に燃やすと、たぶん周囲の人が病気になります。煙がひどくて、霧の都と揶揄されていた都市があるほどです」
 化石燃料を使わなければ、大気汚染される事はない。魔導具を使うと割高になるが、燃料費が必要ないなら長期的には安くなる。熱や風をどこまで効率よくエネルギーに変換できるかが、この世界での発展だ。
「なるほど」
 次にエンザに行った時、大気汚染されていたら、聖良は居たたまれなくなる。エコな方向に発展してもらいたかった。
「とりあえず、方向性は理解しました。色々と研究させてみようと思います」
「そうですね。専門家に丸投げするのが一番ですよ。改造の天才が混じってれば気付いたらすごい物が出来てますよ、きっと」
 いつか電気が通い、テレビやネットが出来る時代が来るかも知れない。竜の血が確かなら、聖良はそれぐらいの時間を生きる事になる。老後はクーラーの効いた部屋で、テレビの娯楽番組を見ながら、楽をしてのんびり暮らしたい物だ。電子レンジも欲しかった。
 聖良がそんな事を考えながら、指を組んで頷いていると、フレアが身を乗り出した。
「ねぇねぇ、ちょっと考えたんだけどさぁ、エンザだけ技術が進みすぎたら、そのうちグリーディアみたいに悪魔に保護されるようになったりして」
 冗談めかして言うが、他の面々の表情が固まっていた。
 考えられない事では無いようだ。




ワットは後発の技術者潰し、エジソンは陰湿な妨害工作で有名ですね。
そのエジソンが悪役になっている作品が載ってます。
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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

2010/08/13   下書き   835コメント 4     [編集]

Comment

 

とーこ6310     2010/08/13   [編集]     _

私は電気にロマンを感じないので、フィラメントは日本の竹、という印象しかないな
たぶん漫画の伝記で読んだんだろう

理科の実験でシャープペンの芯とか光らせたけど、あれはゆとりになった今でもやってるんだろうか。
教科書の内容がかなり変わってそうで怖いなぁ
それによって聖良が召喚された年代が変わってしまうし

SORA6311     2010/08/14   [編集]     _

高校の理科の教科書の概略ならこのあたりでわかります。
http://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E7%90%86%E7%A7%91

なんか、色々と自分の頃と変わっていてショックでした。
実際のところ身の回りで起こる自然現象や簡単な工学的なシステムの基本的な考え方って高校の理科・物理・科学・数学あたりで大体なんとかなるものですね。

電気(電子・電磁波方面)は小学生のころからどっぷり浸かってしまっています。ある意味浪漫ですね。

#フィラメントは日本の竹というのはエジソンの伝記ですね。

社怪人6312   たしかに……   2010/08/14   [編集]     _

テスラとエジソンは間逆な人だったそうだからね。
テスラってスポンサーに特許取られて不幸な人だとか言われてるけど、
むしろお金の心配なく失敗気にせず好きな研究に打ち込めた。
と言う点から見るとそれなりに幸福だったんじゃないかと思う。

特に、お金の心配なく、って所にねw

照葉6313     2010/08/16   [編集]     _

簡単なガソリンエンジンの仕組みは中学校の技術家庭でやったような…

聖良が説明しているのとさほど変わらない内容だと思います。

当方、いわゆるゆとり世代の3年上ぐらい? ですので、あまり役に立たないかもしれませんが。


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