白夜城ブログ

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 夏季の特別なコースがあるらしく、変な押し売りもなし、テキストも良心的な値段だ。志望する大学のランクによって中身が変わるらしいから、今持っているのは俺よりも下のレベルのテキストらしい。
 で、この人は俺の第一志望の大学をもうすぐ卒業しようとしている。浪人をした理由も不幸な不幸な事故である。
 はっきり言って、今の時点で不足はない。
 説明も分かりやすく、声も聞き取りやすい。教師向けのタイプだった。スポーツマンっぽくて、爽やかだ。しかも格好いい。胸板も厚くて、とても頼りがいがありそうだ。ハルカさんが髭についてぼろくそに言うのが聞こえたから、どんな人が来るかと思えば普通に格好いいから驚いた。まあ、髭はない方がもっと格好いいだろう。
 その格好良さがちょっとだけ気にくわない。
 ハルカさんを気にしてチラチラ見ているから。
 こんなモテてモテて仕方がなさそうな人が、なぜ昔っからぐうたらなはずのハルカさんを……。
「とりあえず、これははじめる前にやってもらってる簡単なテストな。明日にでもやってくれ」
 ハルカさんをチラチラ見ていても、やることはやっている。
 説明を聞いて、次の予定を立てて、一度家庭教師という物を試してみる事で話はまとまった。
「んじゃあまとまった所で、真琴も飲みなさい飲みなさい」
「飲むけど、二人でそんなに飲んだのか。まったく……」
 既に瓶の中身は七割が消えていた。真琴さんが呆れるのは当然だ。
「ほれ、つまみ作ってきたよ。まったく、旅行から帰って早々台所に立たされるなんて……気を効かせてなんか持ってきなさいよ」
「あ、ごめん。橘川、旅行帰りなのか?」
「沖縄行ってた。懸賞で旅行が当たってさ」
「…………宝くじといい、恐ろしく運が良いよな」
「母さんがね」
 出て来たのはコーンバターと粗挽きウインナー。冷凍していた物を焼いただけだ。
「あーあ、私も行きたかったわぁ、沖縄」
 トキさんは泡盛を男らしく注ぎながら、女性のようにしなを作る。
「あんた仕事じゃん。休めたなら誘ってあげたけど」
「お盆じゃ駄目なんでしょ?」
「うん。やだ」
「一泊ならなんとかなるけど、さすがに二泊はねぇ……」
 ハルカさんは真琴さんの前に割り箸と小皿を置いた。
「好きに食べて。嫌いな物とかあったりする?」
「いや、俺は基本的に何でも食べるから」
「基本的?」
「いや、ほら、よっぽど味が独特じゃなきゃって意味で」
 つまり、お隣の娘さんが作るような料理は無理って事だろう。あれはまともな人間じゃ無理だ。そして、まともな味覚の持ち主では再現不可能。
「ハルカちゃんは食べられない物は捨てるから、安心して夕飯ご馳走してもらいなさい。ハルカちゃん、この人ってば、毎日インスタントとか弁当なのよ」
 ……爽やかだけど、実は駄目な人なようである。その駄目な真琴さんを見てハルカさんは、
「社会人になったら太るよ。筋肉質の人はとくに」
「っぐ」
「っていうか、一人暮らし?」
「あ、ああ」
「家ってそんなに遠くないよね。なんで?」
「親が普通の経験はしておけって教育方針でさ」
「ふぅん。それって家事含めての事だと思うんだけど」
「…………ほら、食材無駄にするの心苦しいし。お百姓さんに悪くって。それに近所の手作り弁当の店だから、けっこう美味いんだ」
 それでやっていけると思われてるんだから、信頼されているのか。
 食生活以外はちゃんとやっているようだから、信頼には応えてると言えるんだろう。
「ハルカちゃぁん」
 突然、今まで黙って飲んでいたキワさんが、芋虫のようににじり寄ってきた。
「腹減った」
「普通に言え」
 さすがに酔ってるなぁ。
「ピザ足りなかったか。ラーメンでいい? パスタ?」
「ラーメンはシメだろ」
「じゃ、パスタね。明太子ソースがあるから、それでいい?」
「オケ~」
 再び芋虫のようにグラスの前に戻り、ちまちまとつまみを食べる。そしてがばがばと飲む。
「あ、私が作るよ。ハルカお姉ちゃんは疲れてるんだから休んでて」
 テーブルに手をついて力を入れたハルカさんに、ハルナちゃんが言ってすくっと立ち上がった。
「え、いいの? じゃあ、頼んだ。
 ほんと、ハルナはいい子ねぇ。ハルトと違って、ベッドに潜り込んでも文句言わないし」
「えっ!?」
 当たり前だけど、真琴さんが驚いて声を上げた。
「ハルカちゃんね、ああ見えて恐がりなのよぉ」
「マジで?」
「意外でしょ」
「怖い物なんて無いのかと思ってた……」
 真琴さんの驚き方を見ると、ハルカさんが一体どんな学園生活を送ってたのか、聞くのがとても怖かった。



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2010/07/26   推定家族   818コメント 2     [編集]

Comment

 

とーこ6230     2010/07/26   [編集]     _

惜しむらくは、ちょっと変態混じってる所と、趣味が悪い所です。

ji6232     2010/07/27   [編集]     _

惜しい!


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