白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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そういえば、書き忘れていたんですが、双子の名前とかも仮です。
双子らしくて、それっぽい名前は何かないだろうか。






 遺影の男性は実年齢よりは若く、朗らかに微笑んでいた。他になかったために、若い頃の写真を使っているのだ。
 焼香をすませると、双子は同時に智世を振り返る。
「ところで、犯人は見つかりそうなのかい」
 同じ声が同時に響き、まるでステレオのように聞こえた。
 智世は思わず目を閉じそうになり、俯いて首を横に振る。仏間に広がりつつある線香が、否が応にも死を目の前に据えるのだ。
「わからない。警察の人はきっと捕まえるって」
 だが、未だに進展はなく、遺族は放置されている。双子は人の悪い笑みを浮かべた。
「でも情報はマスコミの方がよほど持っている」
「しかもある事無い事家の事を暴露される。マスコミは裏を取らずに信じて垂れ流すからね。君達も大変だっただろう」
 智世は険がある言い方をする二人を見た。
 その視線を受けて、吹雪は手帳を取り出す。
「久良三紀子。
 久良三武人の妻。OL。夫が多額の借金を残して殺害されため、遺産放棄の手続きを弁護士に依頼中。
 住まいは紀子の親から譲り受けたものであるため、遺産放棄して失うものは何もなく、夫の保険金が手に入る」
 智世の頬が引きつった。彼女は怖くてニュースを正面から見られなかったため、そのような報道がされているのを知らなかったのだ。
 腕がガタガタと震え、歯を食いしばった。
「僕等の父はね、マスコミに殺されたようなものなんだ」
 ふいに優しい声で吹雪が言う。
 智世は驚いて顔を上げ、静かに笑う二人のそっくりな顔を見つめた。
「無い事無い事書かれてね」
 二人は同時にため息をついた。
 マスコミは信じられない。
 遺族には何も情報を流さず、先にマスコミに情報を流す警察も信じられない。
「警察は信用ならないよ」
「検挙率のためなら、事件も事件ではなくしてしまう。今までどれほど不可解な解決が為されてきたか、知っているかい?」
 智世は俯き、首を横に振る。
 今でさえ久良三家はマスコミに嗅ぎまわられ、個人情報を垂れ流され、引っかき回され、まるで悪い事をしているような扱いを受けている。
「どうだい。一緒に現場に行って調べてみないかい?」
 いきなり吹雪が提案した。
「現場…………に」
「そう。証拠品はすべて警察が持って行っていると思うけど、なにかあるかもしれないよ」
 智世は身を震わせ、強く手を握り合わせた。
「……でも、怖くて……私……」
 紀子以外は現場には行っていない。葬式以外はずっと引きこもっていた。彼女たち一家にとって、外に出るのは『恐ろしい事』になっていた。不安に押しつぶされそうになって、外に出ようとすれば身体が震えた。涙が枯れても不安と悲しみが枯れる事はない。
「大丈夫だよ」
「行こう」
 有無を言わさず、二人は智世の手を取った。
「あ、貴方達は、何のためにそんな……好奇心で口を出すのはやめてください」
 善意に見せかけた好奇心のまま、遺族を巻き込もうとする二人に対して、智世は小さな怒りを覚えた。
「好奇心ではないよ」
 吹雪が言った。
「じゃあ、なんで」
 好奇心以外であれば、ただのうぬぼれ、思い上がりだ。
「必要なのさ。これは俺達にとってのチャンスなんだ」
 マスコミに殺されたという二人の父親。
 智世はそれ以上は強く言う事が出来ずに、手を引かれるがまま立ち上がっていた。
 智世は少し驚いた。手を引かれただけで、立ち上がるために力は入れていなかった。身体が自然と動いていた。
「さあ、行こう」
「未来のために」
 二人の言葉が頭に響き、不思議な感覚に飲まれ、智世は足を踏み出していた。



「被害者、久良三武人。
 深夜、事務所の外で何者かに腹部を刺され死亡。
 近所の主婦が男性の声と、何かが割れる音が聞こえたとマスコミに証言しており、犯行時刻が深夜11時であることが分かっている。凶器と見られる文化包丁はどこの店にもある量販品で、犯人の指紋は検出されていない。犯人の手がかりになるような物は一切無かった。
 近所では、事務所荒らし、重機窃盗、若い男によるひったくり事件が多発している。若者達が夜中に歩き回っている事も珍しくないと、マスコミが近所を嗅ぎ周り、様々な証言を得ている。
 これが僕等が簡単に調べて分かった事だ」
 助手席で足を組み替えて、吹雪が手帳を読み上げた。
「……事務所荒らし」
 智世は呟いて俯いた。
 殺人現場である久良三建設の敷地内に車が止まった。
 智世が車から降りるより先に、疾風が運転席から下りて、後部座席のドアを開けて手を差し出した。気障な仕草が似合いすぎて、智世は違和感なく手を差し出す。
「ありがとうございます」
 事件があった場所は、献花ですぐに分かった。事務所の前に、30センチほどの段かせあり、その下に花が並べられている。事件当日から何度か雨が降ったため、それ以外の形跡は何もなかった。
 雨が降っていたからこそ、音を聞いた主婦は気のせいだと思ったと証言していた。
「…………っ」
 献花が生々しく、智世はスカートを握りしめて立ち止まった。
 双子は献花に向かって手を合わせる。智世も我に返り、しゃがみ込んで手を合わせた。
 ここで智世の父親は腹を刺されて、慌てて逃げようとしたのか段差から落ち、包丁がより深く刺さり死んだ。死体は額も割れて、ひどい様だった。
「さて」
 吹雪が四人乗りの外車に戻り、トランクに入っていた一眼レフのカメラを取り出した。
「どうするんですか? こんな所を撮ってももう無駄ですよ」
「無駄かどうかはわからない。ただ確信が欲しいだけだからね」
 カメラのレンズにアダプターを取り付けてから構え、シャッターを切る。連写機能のついた一眼レフカメラが、カシャカシャと音を立てた。
 同じ位置で、何十枚、何百枚の写真を撮る。
「何……してるんですか」
「うーん……ちょっとね……」
 吹雪はそれだけ言うと、再び車に戻り、ノートパソコンを取り出した。すぐに作業を終えて、トランクを閉める。
「次はお父さんの会社の人に話を聞きたい。案内してくれ」
「お父さんの……会社」
 智世はスカートを握りしめながら、小さく頷く。疾風に背を押され、事務所の正面へと向かった。ここは裏口で、倉庫や駐車場に近い場所だ。
 智世は双子を意識しつつ、緊張した様子で歩いた。
「あの、お二人は一体どんな……お仕事を?」
 何者であるかを知るために、智世は二人に尋ねた。今は平日であり、普通の学生や社会人ならこんな所に来られるはずがなかった。
「僕は投資家なんだよ。兄さんは世間で言う自宅警備員」
「おい。人をまるでニートのように」
 疾風が吹雪のこめかみに軽く拳を入れた。
「か、株とかですか?」
「そんな感じかな。だから休みたい時が休みなんだ」
 吹雪は疾風を横目で見てくすくすと笑う。
「や、やっぱりお金持ち……なんですよね」
「そうだよ」
「ですよね。高いそうな車だし」
「一千万ぐらいじゃないかな。頑丈でそこそこの車を頼んだから」
 そのクラスの車を適当に買い、そこそこと言い切る神経。
 智世は違う世界に住む二人を見て、ため息をついた。
「スーツも高いんですか。お揃いですけど」
「いや、これは来る途中で買った既製品だよ。今は家政婦が入院してしまって、どこに何があるか分からなくてね」
 智世は言葉を失った。
 家政婦というものを、実際に雇っている人物に初めて出会ったためだ。家政婦というのは、本当にお金持ちが雇うものであると、彼女は認識していた。
「それよりも、君の叔父さんの人柄について聞いてもいいかい?」
「叔父さんはいい人ですよ。叔父は本当に立派な大工さんです。すごく腕がいいんですよ」
 智世は胸の前で指を組んだ。
「お父さんがいなくなって、会社の方は大丈夫なのかい?」
「あ、はい。叔父が代わりに社長になる事になって、大変みたいです。人のいい人だから、ちょっと心配だけど」
「そうか」




 吹雪は風呂敷に包まれた、大きな箱を差し出した。
「ああ、お気遣い無く」
 武人の弟、三男の敏人が手を振った。
 事前に用意されていた事から、彼らは初めからここに来るつもりだった事が分かる。智世がいなくても、ここに来て、挨拶をしていたのだ。
「智世が外に出られるようになって嬉しいよ。マスコミの連中はひどいもんだ」
 次男の信人は智世に同情の目を向けて言う。
「ブンヤは卑しい賤業と言われていた事を忘れ、自ら卑しい行いで貶めているのが、今のマスコミですからね。何を言っても無駄でしょう」
「若いのに言うねぇ、にいちゃん。吹雪だっけ? 親戚って、誰の子なんだ?」
「久良三咲良です」
「ああ……確か綺麗なねぇちゃんだった。そうそう、デカイ家を一軒建てたぜ」
 それを聞いて双子は顔を合わせ、疾風が笑った。
「うちを建てたのおっちゃん達だったのか。我が儘放題だただろ」
 疾風の言葉に、信人はそうそうと頷いた。
「おかげで立派な家だろう。敏人はガキだったから知らねーだろうけどな、すごい金持ちなんだよ、こいつんちは」
 三男の敏人は首を傾げた。彼は亡くなった長男とは十五歳も年の差があり、まだ二十代である。この中で一番年が近いのは双子になるのだから、知らなくて当然だった。
「ところで、最後に智世ちゃんのお父さんを見たのは、信人さんだったんですよね」
 湯飲みを手にしながら、吹雪は嫌味を感じさせない笑みを浮かべながら尋ねた。
「ああ。俺は夜の10時半頃出て行ったんだ。俺がもっと遅く帰ってればこんな事にはならなかったのに……」
「その時、敏人さんはご自宅に?」
 三男の敏人は不審そうにしながらも頷いた。
「あ、はい。あの日は兄と外回りをしていたんですが、兄をここまで送ると、私だけ先に帰りました。兄は一番先に出社し、一番後に退社していたんです。休みの日でも会社にいる人だったので」
 敏人は会議室兼応接室のパイプ椅子に座り、白いテーブルに肘を突いてうつむき加減に言った。
「失礼ですが、会社の経営状況はよくなかったようですね」
「まあ、散々だよ。取引先が不渡りを出して、うちも危なかったところにこれでだ。会社として兄に保険を掛けていたから、まるで私が犯人扱いで参ったよ。兄を殺してまで会社を建て直しても、今倒れるのを防ぐだけで、先があるとは限らないのになぁ」
「そうでしょうねぇ。世間は今、家を建てるなんて出来る景気じゃないですからね。古民家……というか、旧家のお屋敷を直せるなら発注したいですが」
「うちは古民家再生もやってるから出来るけどよ、でもそんなんどうしたんだ?」
 問われて吹雪は苦笑いした。
「母が買うだけ買って海外に行ってしまい、荒れたままの立派なお屋敷があるんですよ。そのままにしておくには惜しいので直そうとは思っていたんですが、信頼できる業者が見つからなくて」
「でも場合によっちゃかなり費用が掛かるぞ」
「金に糸目はつけませんよ」
「お前のお袋さんもそう言ったよ」
 爽やかに笑みを浮かべる吹雪を見て、信人は呆れ顔になる。
「しかしよかった。赤の他人よりも身内の方が信頼できますからね。きっと母も喜びます」
 吹雪は喜び手を叩く。
「ところで、当日はどういう理由で武人さんが会社に残っていたか分かりますか?」
「唐突だなにいちゃん。今後の事を考えていたのだと思うぜ。仕事の事を考えるときは、ここが一番落ち着くようだったからなぁ」
「そうですか」
 信人は額を抑えてため息をついた。その癖さえなければ、死なずに済んだのにと悩んでいる様子だ。
「そうですか。
 ところで信人さんは職人さんで、敏人さんは営業をされているそうですが……」
「ええ。最近は兄と一緒に金策に走っていましたけどね……兄ばかりに頼っていたから、いないとどうにも」
 彼は自虐たっぷり笑った。
「でしたら大変ですね。金策をしていた社長がいなくては困るのでは? 保険はすぐに下りるような物ではありませんよね」
 兄を殺されたばかりの弟に、吹雪は容赦なく問いかけた。
「すぐにはおりませんが、下りると分かっているので銀行からの融資を受けられると思います。
 皮肉ですよ。父が突然倒れた事を反省して会社で保険を掛けたんですが、まさかあんな倒れ方をするなんて。おかげで信人兄さんが疑われるし」
 敏人はため息をついた。
 二番目、三番目というのは悪くないポジションだ。責任を取るのはトップであり、最終決定するのもそうだ。気楽に口を挟める。こんな小さな会社のトップになってもメリットはほとんどない。
「借金と従業員の事がなかったら、畳む事を薦めてますよ」
「大変ですね」
 個人投資家である彼らは、自分たちだけの事を考えればいい。
 労働無き富。
 働くことなくこうして遊び回り、働いて実体経済を動かす彼らは苦労をする。一部の資本家のために、人々は搾取され続ける。
 搾取する側の彼らにとっては、他人の現実など簡単に同情して楽しめる事なのだ。
 話を聞いていた智世は俯いてスカートを握りしめた。
「さて、とても参考になりました。ありがとうございます。ごちそうさまでした」
 吹雪は立ち上がり、会釈をした。
「では、失礼いたします」
 颯爽と立ち去る吹雪に、手を差し出す疾風。
 たまに動きがぴたりと合うそっくりな双子だが、女性に対しては疾風の方が親切なようだ。

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盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

2010/07/17   下書き2   810コメント 1     [編集]

Comment

 

とーこ6160     2010/07/17   [編集]     _

一部のミステリの謎
なぜか容疑者が警察でもない相手に、取り調べめいた事をされて、ペラペラと事情を説明してくれる


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