白夜城ブログ

12


 ハルカちゃんイジメ騒動の結論を言うと、鈴木さんと児玉が親の都合で引っ越した。
 鈴木さんの方はハルカちゃんが訴えると宣言したから、その関係だろう。
 告訴宣言に加えて、真琴に思いっきりぼろくそに振られたからか、自殺未遂とかしたらしいけど、ハルカちゃんは「私が自殺しろって命令したわけじゃないから。でもいなくなってくれるならすっごく嬉しい」と教師達に満面の笑みで応えたらしい。それを聞いて真琴が身を震わせた。どんな意味があるのかは、僕は知らない。最近の真琴君は……ちょっと理解に苦しむ。
 児玉の方は全部真琴の仕業。ハルカちゃんのように目立つ事はしていないけど、児玉の父親は、子供を相手にする企業の社員だ。ちなみに真琴の祖父がそこの役員をしている。そそのかすのは簡単だっただろう。イジメで訴えられるとか、会社的には問題外だ。親がちゃんと子供を育てられていないって事なんだから。
 まあ、なんにしてもハルカちゃんを苛めるようなんて人はもういないだろう。





 僕は二人が引っ越した後、ケーキを持ってもう一度ハルカちゃんがいる部屋の前に座った。
「二丁目のケーキ屋さんのケーキいる?」
「いる」
 ハルカちゃんの部屋の引き戸が開く。
 この子は生クリームが大好きだ。ケーキがあれば、どんなに怒っていても食べてくれる。昔からそうだった。
 この部屋はシアタールームだ。部屋にはテレビがないから、ハルカちゃんはよくこの部屋にいる。部屋の片隅に、前は見なかったトレーニング器具が置いてあった。ほんと、この家の二階まで来るのは久しぶり。中学に入ってからは、照れとか、遠慮とかがあって前ほど頻繁には話さなかったし、本当に久しぶりだ。
 僕は下で用意した紅茶を乗せたトレイをテーブルに置いて、ケーキの箱を開く。
「どれがいい?」
 ショートケーキ、チーズケーキ、ガトーショコラ、イチゴのタルト、プリンにシュークリームにプリンアラモード。
「えと……えと……」
 ハルカちゃんは食べ物に関しては優柔不断になる。あわあわする姿は昔と変わらない。
「和磨君はもうモンブラン食べてるし、残ったら置いてくからそんなに悩まなくて良いよ」
「えへへ、じゃあイチゴのタルト」
 なんか、久しぶりにハルカちゃんの笑顔を見た。笑ってても、人を小馬鹿にしたような歪んだ顔してたから、普通の可愛い笑顔は久しぶり。
「僕はプリンアラモード」
「ああ、プリンっ」
「いや、プリンはまだあるよ」
「太る……」
 ハルカちゃんはじっとプリンを見つめて呟いた。
 ダイエットしてるんだっけ、本当に頑張っているみたいだ。その目が本気で揺らいでいるので、思わず笑ってしまった。
「半分こしようか」
「え……うん」
 フォークで半分にしてハルカちゃんとわけっこする。プリンアラモードのカラメルが、ハルカちゃんの皿に広がった。ハルカちゃんはアルミに乗せたままタルトをフォークで切り分けて、半分を僕の皿に乗せる。
 一口食べると恍惚の状態になり、しばらくすると我に返ってハルカちゃんは僕を睨んだ。
「で、何?」
「えっと……」
 僕は言葉を探して悩んだ。
 報告に来た。僕等は違うと。
 でもそれは……たぶんハルカちゃんにとってはどうでもよさそうな気がした。
「僕、ちょっとした告白に来た」
「……なんの?」
「あのね、僕……好きな人がいるんだ」
「はぁ? 好きな人?」
 僕は俯いた。
 心の底からの「はぁ?」に安堵すら覚える。ハルカちゃんだ。下手な相手だと、顔を真っ赤にして期待するような目を向けてくると思うから、ハルカちゃんらしくていい。
「僕ね……真琴が好きなんだ」
 ハルカちゃんはイチゴにフォークを突き刺したまま固まった。天井を見上げ、窓を見て、イチゴタルトを見て、切り分けて一口食べる。そして紅茶を飲んで、今度はプリンを一口だけ食べて、もう一度紅茶を飲む。
「は?」
 ハルカちゃんなりに現実逃避して、なんとか一周して戻ってきたようだ。
「真琴が好きなんだ」
「私の知らない真琴ちゃんじゃないんだよね」
「君の知ってる……真琴君」
 ハルカちゃんはタルトとプリンをぺろりと食べて、次のショートケーキに手を伸ばす。ショートケーキも食べてしまうと、彼女はふっと息をついた。
 ダイエットの事はすっかり頭にないらしい。
「美味しかった……」
「現実逃避してる?」
 ハルカちゃんはフォークをくわえて顔を顰めた。
「って言われても……」
「自分の事で悩んでて、ハルカちゃんの事まで気がまわらなかった。ごめん」
「べつに、あんたのせいじゃないでしょ。その真琴君のせいだし。あれでしょ、鈴木が真琴君がどうこう言ってた真琴君でしょ」
「やっぱり、鈴木さんって真琴絡みで?」
「みたいだね。なんで私に突っかかってきたのか理解できないけど」
「真琴って前からハルカちゃんに好意的だったから。気の強い子が好きなのはけっこう知られてるんだけど、気の強いと、根性の曲がってるの違いが分からなかったのかな?」
 ハルカちゃんがやっぱり顔を顰めている。
「ハルカちゃんは、真琴の事どう思ってるの?」
「…………その真琴君って、どれだっけ?」
 ダメだこの子。本気で言ってる。
「ハルカちゃんに告白した子!」
「だからどれ。何人もいたからわかんない」
 まさか……児玉以外にもいたのか。
「ハルカちゃんが殴ったやつ」
「毎回蹴ったり殴ったりしてたから覚えてない」
 恐ろしい子!
「あんたの友達、ろくなのいないから見直した方が良いよ」
「……うん。そうする」
 ハルカちゃん、真琴の事知らないって、男の顔なんて見てないのかな。
「ある意味安心した」
「取ったりしないから」
「そうじゃなくて……普通の女の子なら弱ってころりと騙されそうだけど、ハルカちゃんならないね」
「うん、どうでもいい。男嫌い。女も嫌いだけど」
 ……トラウマになって彼氏とか作らないような子になったらどうしよう。世の中に真琴みたいな奇特な男が他にいるとも思えないし。
「で、その告白していたのって誰だったか少しでも分かる?」
「アンタの友達みたいな事言ってたけど知らない」
「僕の友達だって言ったの?」
「児玉以外にも見覚えあったから。小学校から一緒のとか」
 …………はて。
「それ……告白されはじめたのっていつから?」
「たしか児玉は梅雨明け少ししてからで、それからぼつぼつと何人か。人をコケにするのもいい加減にして欲しいよ」
 …………夏。
 僕はもう長袖を着ているハルカちゃんを凝視した。
 夏と言えば水泳。そういえば真琴もハルカちゃんが痩せてから……。
 いや、もう言うまい。ハルカちゃんには告白に悪意があったかどうかなんて区別は出来なかったみたいだし、僕から見た楽観的な意見なんて聞かないと思う。
「一番最悪な児玉は転校したんだけど、あんた何かしたの?」
「さぁ。真琴が怒って何かしたみたいだけど」
「ソエさんみたいだね」
「まあ、あの二人は幼馴染みみたいだから。僕等みたいな関係かな」
 どっちの関係の方がドライなんだろうか。分からない。
 とりあえず僕の事は、まあ理解してもらえただろう。目標は達成した。
 真琴の事も、誤解は解けたと思う。あとは本人次第……なんだけど、それが一番難しいような気がしてきた。
 真琴には素直に話そう。誰それって言われたって。
 悲しいけど、二人を無理矢理引っ付けようと思うほど僕はお人好しでもろくでなしでもない。今のハルカちゃんは、そっとしておくのが一番だ。


backmenunext
誤字の報告はこのフォームからお願いします


魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

2010/06/30   推定家族   794コメント 7     [編集]

Comment

 

とーこ6053     2010/06/30   [編集]     _

2年生はこれで終わりです。
3年の騒動も考えていますが、まだ書いていないのでまた今度。

-6054     2010/06/30   [編集]     _

一件落着ですね。
真琴くんはどうなったのか・・・。
まっとうな大人になってることを祈ります。

アイダ6055     2010/06/30   [編集]     _

ハルカちゃん本当はかわいい子なのに...
ギャップがすごすぎますよ

a6056     2010/06/30   [編集]     _

苛めっ子に同情の余地は全くないが、なんという強烈な結末
誰かに悪意を向け、害するということがどういう事か身をもって知ったわけですね、苛めっ子達は
降りかかる火の粉は火元から断つ 既にハルカちゃんは自分の人生を自分で守れる人だったんですね

社怪人6057   そうだったのか……   2010/06/30   [編集]     _

児玉と真琴だけじゃなくて、他にも告白があったから真琴がエラい目にあったのか。
でも、それって鈴木に唆されたんでなくて、もしかして其々がかなり本気で告白してたんかもしれないね。

……今ではもうどっちなのかわからんけどね。

楽しませていただきました。
次話、楽しみにしております。

るー6058     2010/07/01   [編集]     _

ハルカさん、かなり性格悪いなぁw

-6061     2010/07/01   [編集]     _

性格悪い…のかなぁ?
単に恋愛ごとにニブくて、鋼鉄を割るような性格なような気が…。


Pass:   非公開:    

.

最新記事のRSS

.

更新履歴 カテゴリ コメント

.

.

拍手

.

リンク

.



.

.

.