白夜城ブログ

5 (中二時代)

 梅雨が明けた頃、おそらくハルカちゃんが事件を起こした。
 タマのお墓事件である。
 ある日、とある女性徒の机の上に、土の入ったダンボール置かれていた。そのダンボールには「タマのお墓」と書かれて、何やら腐敗臭が漂っていたらしい。
 その被害者の女子生徒とは『鈴木さん』と言った。
 聞いた時には恐怖した。僕の頭には陰湿に笑うハルカちゃんの顔が浮かんだのだ。
 鈴木さん、ちょっとクラスを離れている間に、一体ハルカちゃんに何をしたんだ!?
 でもそんな事は誰にも聞けない。犯人捜しをして得になるのは鈴木さんだけだ。まあ、犯人だと思われているだろうけど、世間的に見れば苛められているのはハルカちゃんだ。そんな事、階の違うクラスにいる僕まで知ってるんだから、知っている人は多いだろう。そしてハルカちゃんがあそこまできつい性格で、恨みは一生忘れないタイプなのを知っているのは、ちゃんと話した事のある人達だけ。見た目は大人しそうだし、普段は物静かな文化部の女の子だ。しかも普段から嫌がらせを受けてもケロリとしていたから、今更わざわざこんな事はしないだろうと思われるた。
 そしてしばらくすると、鈴木さんは他の誰かにも実は何か嫌がらせをしているのではないかと言われるようになっていた。実際にハルカちゃんの友達だった女の子を脅して、ハルカちゃんを無視させていたらしい。だからハルカちゃんへの風当たりが目立つだけで、他の子も被害を受けていないとは言い切れない。だからこそ、鈴木さんとその周辺は大変だったらしい。
 他クラスからのいい加減な噂と陰口、そしていつまでも続く嫌がらせのためだ。
 ある時は机がなぜかべたついていた。ある子は皮膚をかぶれさせ、その机をぬれ雑巾で拭くと、泡が立ったという。
 ある時は手提げの中にセミの抜け殻がわんさか入っていたらしい。
 ある時はミミズが靴の中にいたらしい。
 同時にハルカちゃんの体操服が切り刻まれていたりと、やられているばかりではない。イジメ合いは、お互いにどんどんエスカレートしていた。
 …………。
 そして今僕はそのことが原因でとても悩んでいる。
 僕は、友人としてそろそろ何かした方が良いんだろうか。でも自分で対処しているなら……でもここまでやったって事は、きっと復讐心に火がつくようなひどい事をされたんだろう。ハルカちゃんは理不尽な事はしないから。
 ただし、やられたらやられた分は徹底的にやり返す。あの子は『死なば諸共』『この恨み、晴らさでおくべきか』って台詞が好きらしいから。
「どうしたんだよ、ため息なんかついて」
「いや、ハルカちゃんの事なんだけど」
「ああ、なんかクラスが大変な事になってるらしいな。ま、鈴木って恨み買ってそうだし自業自得だろ。でもあの過激なのは、やっぱ……なのか?」
 真琴君は声を潜めて言った。
 全てハルカちゃんの仕業なのだと、彼も分かっている。
「真琴もそう思う?」
「鈴木、何したんだろうな」
 体操服を切り刻む前の事だろう。
「どうせ何か隠したり、何かさせようとしたんだよ。ねじ伏せようとするの、好きっぽいし」
 真琴は唇を噛む。
 僕は切なさで胸が締め付けられる。
 ハルカちゃんはきっと弱っている。さすがに何をしても傷つかないわけではないだろう。傷ついたからやり返すのだ。
 今、もしも真琴に優しくされたら……僕ならころりと惚れちゃうね。ハルカちゃんがいくらあんまり男に興味がないといっても、真琴は男の僕から見てもいい男だ。女の子も好きな僕が、もう気になって仕方がない綺麗な顔だし、そのくせ僕と違って頭も良ければスポーツ万能。顔だけの僕と違って、本当にいい男なのだ。お買い得だ。
 だから真琴が僕をそういう目で見る事はない。だったらいっそ、好きな二人が……
「トキ、俺さ、橘川に告白しようと思うんだけど」
「!?」
 考えていた時に、向こうから言われて身体が跳ね上がるほど驚いた。一瞬そうなればと考えていたのに、口にされると胸がえぐられる。
「こんな時に、やっぱり力になってやりたいけど、ほとんど口きいた事ないし」
 僕が話している側で見ていただけだ。見ているだけで分かる執念深さなのに、なんで惚れるのやら……。
「でも、どうやって? 僕が間に入ったら、ハルカちゃんたぶんヘソ曲げるよ」
「それは自分でするけど、なんでヘソ曲げるんだ?」
「僕に紹介してくれって何度も言われて、僕がそれをやめてくれって言ったから」
 僕がそれをしたらマジギレすると思う。
「理由は分かった。たださ……トキはそれでいいよな?」
 真琴は僕がハルカちゃんに気があるのだと、未だに思っているのだろうか。
 いつかこんな日が来るとは分かっていたけど、とうとうこの日が来た。言わなければならない。
「か、構わないけど…………けど……」
「けど?」
「デートしても、手をつなぐまでしか認めないから」
「…………!?」
 真琴はしばらくぽかんとしていたが、意味を飲み込むと真っ赤になって後退し、背後にあった机にぶつかった。
 反応がいちいち可愛いが、一体どこまで想像したのやら……。
 今日は寄り道をせず、さっさと帰ろう。
 真琴相手に失恋しているのは、僕だけではない。両手の数では足りない女の子が、僕の知らない間に諦めたりしているんだろう。
 だから、失恋したとしても悲しんで終わらなければならない。それが恋というものだ。

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2010/06/11   推定家族   776コメント 2     [編集]

Comment

 

とーこ5951     2010/06/11   [編集]     _

本人はそこまで悩んでいないのに、周囲がすごく悩んでいると思い込む時ってありませんか?

重虎5953     2010/06/12   [編集]     _

↑あります(笑)
記憶にすら残らなさそうな事で先生にマジの相談させられたり(´_ゝ`)


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