白夜城ブログ

55


 私は戻るとばあちゃんに事情を説明してメロちゃんを頼み、自分は私服に着替えた。次に私の叔母さん、つまりはハルナの母が出した浴衣を、ハルナに着せてやった。叔母さんは浴衣の着付けが出来ないらしいから。
 古いけど当たり障りのない柄だから、時代を感じさせない。
「生地も仕立ても良いから、たぶんかなり高いな。眠らせておくの勿体ないし、もらっときなよ。着付けならトキが教えてくれるよ」
「トキさんに? いいのかな……」
「いいっていいって。トキはハルナみたいな可愛い女の子好きだから。キワさんだと不安で任せられないけど、トキなら大丈夫だし」
 キワさんは見境ないから。料理の出来ない元カノに絶望して、私に走ってくるぐらい見境がないのだ。その点、トキは安心だ。私の身内にだけは手は出さないだろう。母親の目があるから。
 着替え終えてばあちゃんの部屋に行くと、Tシャツとジーンズに着替えたグル君とハルトが、髪型を整えてもらっているメロちゃんを見ていた。
 メロちゃんは白地のピンクの花柄の浴衣に、可愛い兵児帯を可愛く結んでもらい、可愛い簪で、可愛く頭をまとめてもらっている。私には簪とか高度すぎて使えない。だからハルナはただのポニーテイルだ。
「可愛いよねぇ」
 ハルトに褒められると、真っ赤になって俯いた。
 子供もイケメンが好きなもんだ。
「ほんと可愛い!」
 ハルナがニコニコわらってメロちゃんの前に座り込んだ。
「私はハルナだよ、よろしくね」
「俺はハルト。よろしくね」
 メロちゃんは私達を見回した。みんな名前が似ているから。
「きょうだい?」
「ううん。私達はイトコなの。メロちゃんは卓君とイトコなんだよ」
「イトコ?」
「メロちゃんのお父さんと卓君のお父さんが兄弟なの。兄弟の子供がイトコ同士なんだよ。私達のお母さんがみんな姉妹だからイトコなの」
 小さい子には混乱するらしく、首を傾げた。
 何も知らないって事は、今まで親戚付き合いとか無かったんだろうか。可哀相に。子供は親を選べない。
「メロちゃんと、このグル君は親戚なんだよ」
「しんせき……」
 そのうち理解するだろう。今は関係ある人がコレなんだと教えてあげればいい。
「ハルカちゃん、僕はスグルなんだけど」
「このグル君の事はお兄ちゃんだと思えばいいよ」
「おにいちゃん」
 メロちゃんがグル君を見上げた。その視線を受けて、グル君はそれ以上言うのを諦めた。ごちゃごちゃ言うほど、この子は混乱するだろう。
 私は大きめの鞄に財布を入れたのを確認して、肩にかけ直す。
「ハルカさんは浴衣着ないの? 着よーよ」
 今から出かけるというのに、ハルトが空気を読まない事を言う。
「私は着ないの。そんな事ではしゃぐ歳でもないしね。そういうのは可愛い子だけ着てればいいの」
 ハルナみたいな美少女とか、ちっさい子とかさ。
「ハルカさんも可愛いよぉ」
「はいはい」
 こいつは誰にでも言いそうだ。そんなんだといつかストーカーとかに狙われるぞ。それでまた勘違いして刺されたらどうしてくれる。
「んじゃ行こう」
 子供らを引き連れて玄関を出る。途中、池の横を通り、メロちゃんが立ち止まった。
「あ、おさかながいる」
「それはブラックバスだよ」
 私は泣きそうになりながら教えてあげた。
「まさかここが、ギョちゃんとピちゃんの……」
「そう」
 だからここはジジイの私有地だ。
 これがないと、大雨で道路とか田んぼとかが沈むらしい。今はブラックバスとミドリガメの温床である。どちらも人間が放したのが勝手に繁殖してくれたのだそうだ。近所の川で釣ってきたデカイ鯉を入れてみても、すぐに死んでしまったらしいが、ブラックバスは元気だ。
「ここには悲しい思い出があるんだ」
「おねえちゃんかわいそう。あたしもね、おかあさんいなくなってかなしいの」
 う……。
 ほんとこの子可哀相だよ。両親に死なれたハルトも可哀相だけど、愛され続けていたからいいよ。でもこの子は母親に捨てられたんだ。たぶん、男と一緒にいるには子供は邪魔だからって理由で。連れて行かれてたら、男に虐待されるかも知れなかったから良いんだけどね。
「なんであんな両親から、こんな大人しい子が……」
 言えないよ。あんたの父親は泥棒に来たんだ、なんて。
「メロちゃんは屋台で何が買いたい? 何でも買ってあげるから言ってね」
「…………」
 不思議そうにメロちゃんは私を見上げてくる。
「お祭りは珍しいのかな」
「ううん」
 自己主張が出来ないのかな。母親が人形みたいに扱っていたみたいだし。
「じゃあ、屋台を見て決めようね。食べられる分ならいくらでも買ってあげるから」
 屋台で5000円を使うのもなかなか難しいだろう。
「私はねぇ、林檎飴が好きなんだよ」
「りんごあめ?」
「そう。林檎をアメで包んであるの。あとチョコバナナ。メロちゃんはアレルギー無い?」
「あれるぎー?」
「何か食べると身体がかゆくなるとか。牛乳を飲んだらダメな子とかいるよね」
「うん。あたしはへいきだよ」
 なら安心だ。アレルギーがある子を食べ物の多い所に連れていくのは怖いから。
「なら半分こしようね」
「うん」
 このくらいの子は親がちょっとアレでもいい子だったり修正出来るからいい。



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2010/06/10   推定家族   775コメント 3     [編集]

Comment

 

-5947     2010/06/11   [編集]     _

ハルトの呟きと読者の心が切なくシンパシー

-5948     2010/06/11   [編集]     _

ほんとメロちゃんいい子っぽい……
父親が不甲斐ないと子供に被害が行くからほんと可哀そう

とーこ5952     2010/06/11   [編集]     _

旅館の浴衣は良いですけど、お祭りに着る浴衣は暑苦しいですから。


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