白夜城ブログ

50

 俺はちびっ子達と遊んでいる。葬式前にどうかとは思うんだけど、勉強しようとしたら、おばあちゃんが寂しくないように、側で遊んでやってくれと言われたんだ。ここの亡くなったおばあちゃんは、小さな子が遊ぶ声が好きだったんだって。
 そう言われると断れない。ちびっ子達は葬式を前にして、もう大人しくしているのが限界っぽいしさ。
 まずは庭で影踏みをした。転んで汚さないように注意しながらだから疲れた。
 みんなが走り回るのに疲れると麦茶を飲み、それでもお坊さんが来るまでにまだ時間があったから、次は家の中でかくれんぼ。
 かくれんぼなんていいのか? と思ったが、この家の孫の子が言い出した事だから、まあいいんだろう。で、鬼は俺。背中にはまだよちよちとしか歩けない亜子ちゃをん背負っていたりする。なまじ立って歩けるから、誰かがしっかり見ていないと危ないらしい。縁側から落ちて頭でも打ったら大変だ。
 というわけで、亜子ちゃんをあやしながらみんなを捜す。
「どっこかなぁ」
 子供達は亜子ちゃん抜いて四人。
「亜子ちゃん、お兄ちゃん達はどこだろうねぇ」
「どこ?」
 オウム返ししてきて可愛い。
 いいなぁ、女の子。一姫二太郎っていうし、やっぱり女の子が先の方が良いな。可愛い服着せて、可愛く育てたい。
 ああ、でもハルカさんの娘だったら姉御肌な女の子になるかな。人並みに社交性は身につけさせないと。でも。きっと可愛いだろうなぁ。
 などと考えて廊下を歩いていると、通りかかった部屋中から物音が聞こえた。小さく笑い、ふすまに手をかける。
 …………こういう時、何というのか頭から飛んだ。
 知らない人がタンスあさってた。
 知らない人が、タンスを、あさっている。
 つまりこれは、そう、あれだ。
「ど、泥棒っ!!? 誰か、人呼んで! 泥棒! 知らない人がタンスあさってる! ああ、通帳と印鑑持ってる!?」
 これは間違いなくハルカさんが警戒していた葬式泥棒! なんて卑劣な! でも亜子ちゃんを背負っているから下手な事が出来ない。くそっ!
「な、ちょ!?」
 泥棒は慌てた様子で通帳とかを背に隠した。
 きたない金髪のちょい悪的な中年男だ。俺が昔汚い髪と言われていたのを思い出し、一瞬恥ずかしくなった。
 外への逃げ道はオレが塞いでいる。一人だったら逃がす物かと思ったが、今の俺の背中には亜子ちゃんがいる。亜子ちゃんだけは守らなければ。転けたら怪我をさせてしまう。
 でも逃がしたくはない。
 迷い、睨み合う。一番は亜子ちゃん。それだけは忘れちゃいけない。ハルカさんはそういう大切な事の優先順位を即座に決められない人を嫌う。
「泥棒どこ~!?」
「誰か呼んでこいっ!」
「おうさーん、桜庭のじーちゃーん、どろぼー!」
 子供達が騒ぎ出し、男は俺が立ちふさがっている外ではなく、家の奥へと逃げようとした。
 追うか、任せるか。一瞬の迷いで固まっていると、男は襖を開けきり、廊下に出た。
 しかし、中学生ぐいらの男の子に道をふさがれた。
「どけっ」
「どくか泥棒!」
 少年は男の腕を掴むと、足技で倒し、寝技で捕らえてしまった。一瞬の事で俺はぽかんと口を開けて固まってしまった。
 流れるような、見事な捕縛だった。
「か、格好いい……」
 なんて立派な男の子だ。俺が女の子なら惚れるよ。
 こんな大人にはなりたくない代表のようなおっさんは、男の子の腕の中でもがくが抜け出せない。
「泥棒だとっ!?」
 じーちゃんが縁側を走ってやってくる。そういえば、桜庭ってじーちゃんの苗字だった。
「じーちゃん、捕まえたから警察、あと紐!」
「おお、卓か! でかした!」
 じーちゃんは手ぬぐいを裂いて、スグル君が捕まえている犯人の足を拘束し、次に手を後ろ手に縛った。
「よくやったな。あとで小遣いをやる」
 じいちゃんがスグル君に手を貸して起こしてやる。じいちゃんも格好いい。
「自分ちに泥棒が入ったら当たり前だよ。このお兄さんが見つけてくれたんだよ。
 お兄さんも赤ちゃん背負って立ち向かっちゃダメだよ。後ろ段があるから危ないよ」
 こんな凄い事をやって、まずは亜子ちゃんを心配してくれる。なんて立派な男の子だろうか。俺、中学の頃ってこんなしっかりしてたっけ?
「いやぁ、立ち向かうつもりはなかったよ。せいぜい少しでも逃げにくくするだけのつもりだったからさ」
 短い猫っ毛の、爽やかで真面目そうな少年だ。スポーツ少年でこんなしっかりして、きっと学校では人気があるに違いない。
「でもドキドキしたぁ。夢中でやったけど、刃物とか持ってたら危なかったね」
「まったくだ。偉かったが、これからはあんまり無茶はするなよ」
 もしも彼が刺されていたらと考えると、ぞっとする。やっぱり無茶は良くない。もう刺されるとか、そういうのは嫌だ。もしも俺が刺されても、その時は亜子ちゃんが危なかった。ああ、もっとよく考えて行動しないと。
「でもこの人、どっから入ってきたんだろう。近所にこんな人いないよね」
 じーちゃんも頷いた。
 ……なんでこの人、こんな所に?
「お、俺はおふくろの葬式に来ただけで、泥棒なんかじゃない!」
 …………おふくろ?
 俺達は「はぁ?」と声を合わせておっさんを見た。
「僕こんな人知らないよ」
「いや……言われてみれば、家出した末っ子がいたはずだ」
「はずだって……」
 ここが家と言ったスグル君が知らないのに?
「卓が小さな頃だったから覚えていないのも仕方がない」
「それがなんでこそこそと通帳を?」
 そうだ。どうして遺産をもらえるのに、わざわざ泥棒みたいな真似をしたんだ。
「確か借金押しつけてとんずらしたんだよ。こいつだけ馬鹿で私立行ってるから、こいつの分の遺産なんてねぇだろ」
 …………本当に、なりたくない大人の見本のような経歴だ。こんな風にはなりたくない。
 スグル君と並んで絶句していると、廊下から大人の足音が響いた。
「泥棒は!?」
「お父さんっ」
 スグル君が助けを求めるように廊下に出、悲痛な声で父を呼んだ。
「そこか」
「おお、おめぇの弟が泥棒に入ったぜ」
 やって来たおじさんに、じいちゃんがおっさんを踏みつけながら言った。おじさんはこの家の主である。その弟……。
「……っく」
 おじさんは拳を握りしめ、身体を震わせ、奥歯を噛みしめた。
「せめて母の葬式にぐらいはと、人が情けをかけてやれば……」
 声がかすれ、目が下を押さえて鼻を啜った。
 大人の男の人が泣いている。
「お前が盗もうとしたその通帳は、もしもお前が真面目に生きていたら、お前にやってくれと言われていた分だ」
 …………うわぁ。
 なんて皮肉なんだろう。このおっさんは、自分で可能性潰してしまったのだ。
 おじさんが可哀相。泣きたくなるのもよく分かる。すげぇ寂しいよ、それ。悲しいよな、情けないよな。
「卓、そのお兄さんと向こうで子供達の相手をしていなさい」
「…………はい」
 俺はスグル君と一緒にその場を離れた。
 変な親戚がいると本当に大変だ。

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2010/05/19   推定家族   753コメント 4     [編集]

Comment

 

5828     2010/05/20   [編集]     _

こんな親戚は嫌だ・・・

Rinka5829   久しぶりの推定家族   2010/05/20   [編集]     _

年下の男の子の活躍に変に、プライドをへこませることなく素直に「格好良い」と誉められるハルトもある意味凄い。ハルカさんの教育の賜物ですね。

とーこ5830     2010/05/20   [編集]     _

ハルトは喧嘩なんかした事がないので、年下の子が強くても完全に他人事です。顔と頭と人並みの運動神経を持ってますから。
殴り倒すよりも、相手を無傷で捕まえる方が凄いと思うんですよね。

鮫。5831     2010/05/21   [編集]     _

>一番は亜子ちゃん。それだけは忘れちゃいけない。
>「ハルカさんはそういう大切な事の優先順位を即座に決められない人を嫌う。」
判断基準そこか!ハルトくんいいこで可愛い♪


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