白夜城ブログ

9  近くの隠されたマンホールから地下に潜り、下水路の壁を探った。
「方向ぐらい分からないの?」
 フレアに尋ねられ、アディスは首を横に振る。
「よく分からないんですよ」
「竜の姿になったら? 本能で分かるかも知れないじゃない」
「…………確かに、セーラとの繋がりを考えれば」
 アディスも前回よりは成長しており、可能性はあった。魔術師としての感覚が通じないなら、竜としての本能だ。
「ちょっとあちらを向いていなさい」
 アディスは服を脱ぎ、竜の姿に戻った。セーラが見つかるまではアーネスの姿には戻れないが、今回は困る事がない。
 目を伏せて息を吸う。
 離れすぎていなければ、魔力は送られる。その魔力を辿る。
 ほとんど分からないため、距離は遠い。しかしおおよその方向だけは分かった。
 アディスは身体に力を入れて、身体を縮める。
 白い竜の手足が、白い人のような形をした手足となる。ズボンをはいてベルトを締め、裾を曲げてコートにを羽織れば準備は完了だ。
「いいですよ」
 靴を上着で包んで持ち上げながら皆に言う。
「って……何ですか、その姿」
 ジェイが驚いて後ずさり、水路に落ちかけた。
 今のアディスの姿は、翼と所々に鱗を生やした人に近い子供の物だった。
「アーネス様、すごいです。もうそんなに出来るんですね!」
 ハーティが目をキラキラと輝かせて手を合わせ、アディスの姿を上から下まで見てはしゃいだ。
「それが出来るなら、もう自力でアーネス様に化けられるんじゃないすか?」
 ハーティの期待に満ちた問いに、アディスは首を横に振る。
「無理です。身体が上手く動かせないので、発音や制御の難しい術はまだ使えません」
「ああ、確かに俺も使えるようになるまで苦労したっけ」
 ディが額に手を当てて、過去の苦労を思い出すようにため息をついた。
 アディスだけがそんな術を開発できたのも、理論が出来ても本当に発動するかどうかも怪しい難しい術だったからだ。
「でもなんでそんな姿に? ちっさくて歩きにくくないですか?」
 ジェイが自分の腰ほどしかないアディスの頭に触れて言う。
「竜の姿でこんな所を歩けますか。セーラに接近したら戻りますよ」
「えー、なんで戻るんすか?」
 ディがアディスのコートからはみ出た翼をつついて問う。
「セーラにはもう少し育って、完璧に化けられるようになってから見せるんです」
「そのままで良いと思うけどなぁ。それはそれで可愛いし」
「可愛いですか? 鏡を見ていないのでよく分からないのですが」
「まあ、父親似? 母親の雰囲気も混じってるなぁ」
 どちらに似ても男としてなら問題ない。ネルフィアの凛々しい雰囲気が混じっている己の姿は、アディスには想像も出来なかったが、将来が安泰な事だけは理解した。
「それよりも、私を背負いなさい」
「俺が?」
「他に誰がいるんですか」
「……まあいいですけど、場所は分かるってるんすかぁ?」
「方向は分かります。あちらです」
 アディスが指を指す方向は壁だった。
 ジェイが水路を飛び越えて壁に触れるが、何かがある様子はない。
「この方向です」
 道ではなく方向だ。
「地上を走った方が早くないっすかねぇ」
「それだと私が外に出られません。身体をすっぽり隠すにしても、方角を確認するのにわざわざ地下に戻るのも馬鹿らしい」
 それこそ時間の無駄だ。
「大丈夫よ。だいたいの道は分かるから、微修正してもらえれば行けるわ。こっち」
 フレアが走ったのを見て、アディスはディの背に飛びついた。
「走りなさい」
「ちっさくても態度はそのまんまっすねぇ」
「当たり前です」
「セーラにそのままの姿を見せたらぜったい喜びますよ、自分よりも小さいから! ははははっ!」
 ディがアディスを背負って走りながら笑う。
「それが……嫌です」
 男のプライドの問題だ。中途半端な姿で、彼女の前には出たくない。
「いつまで見せない気すか。勝手に大きくなったら、あいつ怒りますよ」
「怒りますかね」
「その姿なら、構ってくれると思いますよぉ。ガキとか見るとほっとけないタイプでしょ、あれは」
「確かに」
 カランは構われている。その分、アディスに構う時間が半分以下に減っているぐらいだ。
「そうですよ。可愛いですもん。
 竜の間でも、そういう中途半端な時期は可愛いって言われるんですよ」
 ハーティはアディスの顔を覗き込みながら、にこにこと笑う。いつもの緊張した雰囲気が薄れ、子供に向けられる柔らかい色が含まれていた。
 アディスは少しだけ考えた。
「それはいいけどさぁ、生後一年でこんなにでかいもんなのか?」
 ディは赤ん坊のはずのアディスを見て、気味悪そうに言った。
「えと……他の生き物と違って、個人差が大きいんです。なんていうか……」
 ハーティは言葉を詰まらせ、あー、うーと唸る。
「たぶん……ですけど、魔力の問題なんですよ。魔力を上手く捕らえているかどうか変わるんです。
 ほとんどの竜は力押しでいけるぐらい魔力が高まってから成長するんだと思います。アーネス様は赤ん坊の魔力でも上手く……こう、上手く流していて、大人のような体内環境を作ってるんだと思います」
 ジェイが指を立てた。
「ああ、つまり魔力が子供の扱い方じゃないから、身体が大人になったと勘違いして成長しているって事かい?」
「そんな感じです。私ぐらいまで育つと、そこからはみんな同じぐらいになりますけど」
 アディスはハーティを見てからにぃっと笑った。
「つまり、この調子でいけばすぐにそれぐらいまでは育つと」
「そんな事より、方向はこっちで合ってるの?」
「そんな事って……やや右寄りです」
 ピリピリしているフレアに、アディスは指で方向を示した。
「じゃあこっちの方が近くなるわ」
 フレアは左に曲がると足を止め、隠し通路を開いて道を短縮させた。

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2010/05/08   下書き   746コメント 2     [編集]

Comment

 

ふぢた5799     2010/05/10   [編集]     _

ちっちゃいアディス! ぜったいかわいい!!です。
…って、下書きにコメってありなんでしょうか(汗)。

とーこ5800     2010/05/10   [編集]     _

正確に目をつぶればそりゃあもう……
なぜか皆さん拍手で感想を下さるんですが、どっちでも構いませんよ


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