白夜城ブログ

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 世の中には可哀相な子供がいる。
 私の従弟にあたる子も可哀相な子に分類されると思う。
 両親は早くに他界していて父方の祖母に育てられていたのだが、その祖母も他界。彼の母は駆け落ちして両親から縁を切られていたため、母方の祖母ではなく、母方の伯母であるウチで預かることになった。
 私にとっては小さなころに遊んでやった程度の繋がりしかない。当時、彼は赤ん坊だったため、私たちのことなど記憶にないだろう。記憶などないような親戚に引き取られた彼は、世間から見れば可哀相な子だろう。
 可哀相な子だからしっかり面倒見てね、と実の母に言われ、17歳という難しい年頃の男の子の世話を押しつけられた私は、どうなのだろう。
 両親は出張でほとんどを海外で過ごす。たまたま帰ってきた時に起こったことなので、段取りがついて顔を合わせて説明を受けた瞬間、従弟との気まずい二人生活が始まった。



 世の中は不公平なもので人よりも恵まれた子供がいる。
 私の従弟にあたる子は恵まれていて、顔と頭が良かった。背は高いが童顔で、年上のお姉さまとお付き合いをしている。高校生のくせに、私よりも年上の女性に色々買ってもらっているらしい。私と違ってキャリアウーマンだ。だから女に甘えることにも、買ってもらうことにも慣れている。
「ねぇ、ハルカさん。新しいケータイ欲しいなぁ」
 今時の若者なんだから携帯ぐらいと、私の母が持つことの継続を許可した。元々は私にとっては赤の他人である、彼の父方の祖母が料金を払っていたらしいが、その引き下ろしをうちの両親の通帳に移した。祖母の遺産は残して置いてやりたいらしい。
「それぐらいバイトして買いなさい」
「うちの高校、バイト禁止」
「事情を話せば許してくれるんじゃない? 学費を自分で払いたいとかさ」
「ばーちゃんは買ってくれたのに……」
 私はこの子があまり好きではない。甘え上手な男というのは、正直言って気持ち悪い。私は誰かに物を買ってもらおうなどとは思ったことがない。だからこそ、こうやって我が儘を言える存在が異質に映る。
「壊れたわけ?」
「もう二年以上前のだよ」
「バッテリーは二年使ったらタダで交換してもらえるよ。私はもうすぐ四年目だけどとくに不自由はない」
「えぇ……」
 ふてくされる顔は可愛い。可愛い年下の男の子だと、つい甘やかしたくなる女がいるのだろう。
「学生が贅沢言わないの。働いて自分の生活を自分で支えるようになってから言いなさい」
「ばーちゃんの金があるだろ」
 彼は可愛くふくれっ面になる。本当は癖のないまっすぐなはずの毛染めした髪は、ヘアワックスで複雑に形作られている。ストレートパーマで伸ばしている自分のような女がいるのに、彼は綺麗な髪を痛めつけるようなことをしている。それはまあ似合っているし、格好いいのだろう。クラスにいたら、きっと女どもが騒いでいただろう。しかし、私にとっては苦手な要素の一つとなる。
「おばあさんの遺産は、君が大学に行く費用。ここから通えないような場所ならアパートだっているでしょ。金がかかるのよ。金が。世の中は金よ。失敗したら予備校の費用がかかるでしょ。もしそうなったときのためにギリギリまで手はつけないの。君の将来のためになることにだったら使ってあげるけど、携帯なんて問・題・外」
 彼はますますふくれる。
 拗ねれば妥協する女ばかり相手にしてきたのだろうか。
「大切なお金には時が来るまでは手をつけていけないの。大切な人が残してくれたんでしょう。大切に使いなさい」
 彼はお婆ちゃんっ子だったらしい。何かにつけてばーちゃんは、ばーちゃんはと言う。味噌汁の味まで私が知るはずがないのに、ばーちゃんの味噌汁が飲みたいと泣きそうな顔をして言い出した時は、さすがに可哀相だと思った。甘えられるのが当然の環境にいて、甘えられる相手が急にいなくなったのだから、寂しいのも当たり前で、目の前にいる親戚とやらに甘えてみたいと思う気持ちも分かる。
「気持ちは分かるけどね」
「だったら」
「私は躾には厳しいから」
 彼は諦めてとぼとぼと部屋に戻る。弟が使っていた部屋だ。男は出ていくとろくに連絡も寄越さなくなる。何をしているのかもうさっぱり分からない。
 彼も出ていったら、そうなるのだろうか。どうせ一時的な居場所なのだ。窮屈で、私のような『母親のよう』とも言われる鬱陶しい女がいる、ただの下宿先。
 それでも預かる責任は成人している私にあって、その時が来るまでは最低限はしてやらないといけない。
 面倒だ。


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2007/08/11   推定家族   74コメント 0     [編集]

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