白夜城ブログ

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「ハルカさん、髪染めたいんだけど」
 いつものようにイトコがねだってきた。わざわざしゃがみ込んで下から覗き込むような角度を見せつけてくる。もちろん私にそんなものが効くはずもない。
 いい加減に諦めればいいのに、彼は懲りずに媚びてくる。文具と菓子ぐらいなら買ってやっているからかも知れないが、そんな事に出してやる金はない。
「小遣いはあげてるでしょ」
「服買っちゃった」
 あんた、山ほど服持ってるでしょうに……。
「黒くするなら買ってきてあげるよ。毛染めなんて、将来嫌でもしなきゃいけないのに。おば様達にまで茶髪が多い理由は分かる?」
「白髪染めとオシャレ染め一緒にすんなよぉ。
 だいたい、なんで黒限定なんだよ。今時そのままの髪なんてハルカさんぐらいだよ」
 来た時は敬語だったけど、あっという間に崩れてため口をきくようになった。一緒に暮らしているのに、いつまでも緊張されてるよりはいいけどさ。
「君、もうすぐ受験生でしょ。今から黒くしておきなさい。傷んだ髪を黒くしようと思っても簡単にはいかないの。かといってプリンになるのも嫌だろうから、徐々に黒くする方向ならお金出してあげる。大学に入ってから自分で稼いだ金で染めればいいよ」
 彼はぷくりと頬を膨らませる。
 こちらに引っ越してから、前に色々買ってくれていたお姉さんとはなかなか会えないらしい。ねだるならそちらにしてほしいものだ。
「振られたらどうするんだよ」
 どうやらお姉さんに会うために必要らしい。
「あんた、髪色一つで捨てられるの? 意外とマニアな女と付き合ってんだね」
「違うっ」
 イトコはかなり必死に否定した。
「黒いと変だろ」
 意味が分からない。確かにいきなり黒くしたら違和感があるだろうし、痛んでいるので大変だとは思うけど、変なはずがいない。こいつは何でも似合うと思う。顔が良ければ多少センスが悪くても似合うんだ。
 しかし彼は心から思っているらしく、本当に必要としていた時と同じ顔をしている。ちなみに前回本当に必要だったのは、友人への誕生日プレゼントを買うための資金だ。素直に言えば始めから出してやったのに、白状したのは三度目を断られた時だった。
「どうして黒いと変なの? 不細工の黒髪ロン毛は見苦しいけど、あんた顔がいいから似合うと思うよ。黒髪が野暮ったくならないような顔って貴重だよ。まっすぐな髪だし、もっと落ち着いた態度だったら今よりも年上ウケする儚げな美少年できるんじゃない?」
 想像してみて、ちょっといいと思ってしまった。
「トリートメント代とかは出してあげるよ。脱色のせいで痛みまくってるしね。むしろその髪の方が恥ずかしいよ。トリートメントしてる?」
「毎日してる」
 その割には減りが少ない。けっこう高いから残りの量はチェックしているのだが──
「リンスとトリートメントは別物だよ?」
「え……?」
「リンスとコンディショナーはほとんど同じもの」
「は?」
「リンスはただ滑りをよくするためだけの物。トリートメントとかヘアパックは痛んだ髪を修復する物。違い分かる?」
 知らなかったのか、彼はぽかんと口を開ける。
 おばあさんに育てられていたから仕方がない。美容に気遣う使う身内がいなければ、男の子はなかなか知る機会がない。女ほど髪を伸ばさないから、毛先が痛んで悩むこともあまりないらしい。
「洗顔の横に並んでるでしょ」
「ああ、なんか高そうなの。あれって顔に塗る奴だと思ってた」
 確かに一つだけ雰囲気が違って、使いにくかったかも知れない。
「これから使っていいよ。傷んだ髪はみっともないからね。つけてすぐに洗い流したらダメだよ。今はかなり痛んでるから、タオル巻いてシャワーキャップ被ってしばらく置くといいよ。でも高いから無駄に使わないように」
 彼は痛んだ毛先に触れ、
「うん。ありがとう」
 彼は素直に頷き笑みを浮かべた。
 こういうときは心底可愛いと思う。

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2007/08/13   推定家族   73コメント 0     [編集]

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