白夜城ブログ

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 入り口は埋まっていた。埋められたのではなく、自然に埋まってしまったのだ。それだけ長き間、放置された遺跡。
「なかなかいい感じだね」
 ディオルは笑った。
 それらを掘り出したキメラや魔物達は、既にうんざりした様子で彼らを見ている。
「じゃあ早速」
 ディオルはいきなり封じられた戸を開けようとするエリオスの後頭部を杖で殴った。
「だから、封じられていたらどうするんだって。調べずにいきなり開けようなんて、君は素人か」
「遺跡探索などした事がないので素人に決まっています」
「偉そうに言うなら、後ろにさがっていてくれないかな。調べるから」
 見たところ、神の力による問答無用の封印ではない。知恵者の好む複雑で確実な封印だ。そうしなくても封印し続けられる、上位神が異常なのである。
「さてさて」
 シアがいるから連れてこなかったが、ジークが興味を持ちそうな遺跡だ。ここにエリキサがいなかったら、次の機会には連れて行ってやろうと思った。
「とりあえず、好きに開閉できそうだよ」
 エリアスがあのまま開けようとしても、間違いなく開けられなかったが、ディオルには開けられる。
 蓋にされた石版の模様を指でなぞり、そっと魔力を流す。乱暴ではいけない。力加減が大切だ。力任せでいいのなら、こんな複雑な封印ではない。それでいて、開ける側の事を考えた、封じる事に強く、使う者に親切な作りになっている。親切とは、もちろん理解できる人間にとってはという意味だ。
「開いた」
 石版をどけさせる。
「開けてから何だけど、エリキサじゃない気がする」
「そうですね。エリキサは自分から封印されたので、内に封じるタイプの結界は可能性が落ちます」
「何かがいたら、エリオスにあげるよ」
 エリオスもそんな下心があってついてきたのだ。
 自分への過信、本への自信。


 しかし結局あったのは、財宝と何かの白骨死骸だけであった。


 ひょんな事から研究費用を賄ってしまったディオルは、財宝を三人で山分けして家に戻ると、高くて買えなかった薬品リストをほくほく顔で作った。
 三等分したとはいえ、かなりの大金。現金なもので、三人とも目的が果たせなかった事も忘れて喜んだ。こんな所に手つかずの財宝があるとは夢にも思っていなかったのだ。奇妙な伝承も、財宝を隠すためにばらまかれたものだと納得し、温かい懐を喜んでその日はすぐに帰った。
 翌日。
「次はどこですか? 早く行きましょう」
「昨日の今日で行くとか、欲に目を眩ませるな聖人のくせに」
 ディオルは珍しく研究室に来たエリアスを白い目で見た。
「あれはものすごく運が良かったパターンだよ。何もない事の方が多いんだ」
「分かっています。でも、一割でも当たりがあれば儲けものでしょう」
「儲けてどうするんだよ君が」
「資金はいくらあっても足りません。金を持つ者が支配力を強めるんです」
 アルファロスも、金を持っていれば立場を強くできるらしい。どんな生臭さ聖性主義者どもだと、憤りすら感じるディオルである。
「安全のためにジークもつれていきましょう」
 体力がない自覚のある彼は、ジークに力仕事やその他の準備などを押しつける気だ。シアは手に入った財宝を、寄付しに行くと言っていたので今は行方が分からない。彼女の代わりに、身体能力が高いジークを選んだのである。
「別にいいけど」
 シアは手伝ってくれるだけで、一緒に行かなければならないわけではない。地下への探査だけなら、彼女は何の役にも立たないのだから。知識を抜きにすればジークの方が役に立つ。
「別にいいけど」
 可能性は低くとも、初めてでも大丈夫そうな場所を考える。魔物が出るのは大丈夫だ。変な仕掛けがある方が怖い。
「よし、あそこにするか」
 リストの中で、エリキサが関係なくとも面白そうな場所がある。
「どんなところですか」
「魔力が半減する、魔物が住み着いた洞窟」
「私を殺す気ですか?」
「半減であって、使えないわけじゃない。それに何のために君はペットを飼っているんだ?」
「そうですね」
 ジークを連れていく意味もあり、ぜひ探索してみたい場所だ。
 でも、今日じゃないよ。今日は準備。出発は明日」
「分かりました。ジークに準備をさせておきましょう」
 味を占めたエリアスは、驚くほどの単純さで部屋を出て行った。
「エリアス坊ちゃんは、ああいうところだけは可愛いっすねぇ」
「擦れていて悪かったな」
「いやいや、子供が子供らしくこんな事をしていたら、どんな扱いを受けていたか分かんないすから、今のままでいて下さいや」
 子供らしくなっても、今更過ぎて不気味らしい。

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2010/02/15   下書き   684コメント 0     [編集]

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