白夜城ブログ

9


「ただいま」
「ハルカさんおかえ……」
 リビングに入ってきた私の背後に立つ女の子を見て、イトコ殿は固まった。
「……そんな若いお友達が?」
 どう見ても女子高生ぐらいの女の子を見て、彼は胡散臭そうに見てくる。確かに今はもう夜遅い。私が男だったら好きなだけそんな顔をしてもらって構わないが、なぜ女の子を連れてきてそんな顔をするのか。
「そこで変な男に追いかけられてたから避難させたの」
「こ、こんばんは、川崎くん」
 女子高生は派手な見た目とは裏腹に、可愛らしく恥じらいながら言う。
「…………っ」
 考え出すイトコ殿。
 何も言わないのは、優しさだろう。何とかして思い出そうとしている。実に日本人らしい優しさだ。しかしさすがにそれは少女に伝わり、彼女は両の拳を握りしめて言った。
「隣のクラスの!」
「おお!」
 思い出したという格好をとるが、けっして名前は言わない。
「そういえば、お嬢さんお名前は? これから警察の人も来るから」
「あ、渡辺雲母です。あの、鉱物の雲母」
 キララとはすごい名だ。変な当て字ではないらしいのでまだマシなのかも知れないが、恐るべしゆとり世代!
「おお、思い出した! お米ちゃん!」
 …………。
 キララちゃんの顔はけっこう可愛いのだが、今時風すぎて逆に特徴が無く、違和感なく周囲にとけ込み、なんか見たことあるような気がする外見に反して、彼女の名前は強烈だ。
 強烈すぎて、強烈なあだ名がつく。
 子供にとって理科で習うようなことよりも、スーパーに売っている食べ物の方が印象に強いのは当然である。
「なぁんだお米ちゃんか。私服姿見たのは初めてだったから」
 制服でも分からなかっただろうによく言う。
「でも、無事でよかったなぁ。最近は変なのが増えるから一人で出歩かない方がいいよ。鎌男とかも出たらしいし」
 コンビニに行くと言ったら普通に見送って、普通に自分のプリンもリクエストした男の言葉とは思えない。確かに私は痴漢とかにあったこともないけどさ。
 ちょっぴり傷つきながらも客を迎える準備をするために台所へ向かうと、玄関のチャイムが鳴った。連絡してから徒歩で帰ってきたとはいえ、けっこう早いもんである。
「ちょっと出てきて。私、お茶の用意するから」
「へーい」
 急須を準備し、低い温度に設定されているポットからダイレクトに大胆に注ぐ。どうせ警察だ。あまり好きではないから、心遣いなど不要。適当なお茶請けがないので漬け物でも出しておくかと考えていたところ、玄関の方で怒鳴り散らす声が上がった。
「お前が変質者かぁぁぁ!」
 怒声に混じり、イトコ殿の意味が分からないとばかりの否定する声がわずかに聞こえる。
「あの声、お兄ちゃん」
 米子ちゃんが叫び玄関に飛んでいく。私もあわてて追うと、胸ぐらをつかまれたイトコ殿と、少年を恐喝しているように見えるお巡りさんを目撃した。
「お兄ちゃん! その人違う!」
 どうやら、警察兼身内の方らしい。一緒にいる気の弱そうなおじさんが呆然としていた。
 一瞬、もう寝てこようかと悩んだが、渋々二人を招き入れた。
 相手が米子ちゃんの身内でなければ、携帯で動画でも撮ってネットで流したり、訴えてやろうかと思うところだった。残念である。

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2007/08/22   推定家族   67コメント 0     [編集]

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