白夜城ブログ

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「ハルカさん、パソコン貸してよ」
 本日も友人を連れて帰ってきたイトコ殿は、ただいまと挨拶した直後にこう言った。
 我が家は彼の学校から一番皆にとって立地のいい場所にあり、広く、何でもあるためか、最近よく友人を連れてくる。
 まあ、近所迷惑なほど騒がないし、悪そうな子はいないので良しとしている。皆、将来の自分が可愛いので、ストレス発散とかぬかして万引きしたりカツアゲしたりという、将来のすべてを潰されかねない愚昧な行いはしない、賢い子達という意味である。変な雑誌を持ち込もうと、変なゲームを持ち込もうと私は気にしない。
 しかし、パソコンを貸して欲しいというのは初めてだった。
「持ってるでしょ」
「古すぎてまともにネトゲとかできないし、最近すぐにご機嫌が悪くなってさぁ」
「ネトゲって、廃人になる気か」
 来年は受験生なのに何を考えているんだ。
「いやいやいや、なんでいきなりそこまで。気晴らしとか、チャット代わりとか」
「うちの弟も大学とバイト以外は外に出ない廃人一歩手前だよ」
 手前ですんでいるのが救いだ。
「俺、仮にも来年受験生だからそこまでしないって。将来台無しにしたくないし」
 気晴らし程度にはいいだろうけど……ものすごく不安。
「ハルカさん新しいパソコン買ってたし、古いの余ってないかなって」
「為替やるだけでそんなハイスペック必要ないから、安物ばっかりだよ」
「でも、俺のよりはマシかなぁって。普通にネット見るだけでもキツイし」
「まあ、あのノートよりはねぇ」
 当時は高かったのだろうけど、今では十万を切るような安物にもはるかに劣る。膝の上にのせていたら、きっとすぐに精子の数が減りまくるどころか低温火傷する、重くて持ち運びする気にもならない。そんな奴だ。
「別にいいけど、時間を忘れて遊ぶようだったら取り上げるからね」
 立ち上がり、いらないパソコンを一つ見繕うために、趣味部屋を仕切って作った狭い仕事部屋へと向かうと、子供達がぞろぞろとついてくる。別にいいけど。
 部屋入ると子供達がおおっとざわめいた。
「本当にデイトレーダーの部屋だ」
「すげぇ」
「ディスプレイの壁」
「どうやるのどうやるの」
 ケツの青いガキどもは小さな子供のようなはしゃぐ。賢い子でもこうなるらしい。
 何台も並ぶパソコン本体をぽんぽんと叩く。どれがどれの周辺装置だか分からなくなるので、スピーカーもマウスもキーボードもカラフルだ。
「よく見たら食玩が立ち並んでる……」
「だってたまってくけど捨てるのもったいないし。飽きたら捨てるか売るの」
 学生時代はこういう物のコレクターが周囲に多く、食玩目当てに買った菓子本体をよくもらっていた。菓子を消費しきれず、食え食えとかなり切実に勧められたものだ。捨てるのはもったいなくて出来なかったらしい。実に日本人らしいと思う。
 私が集めているのは主に可愛い物だ。ファンシー系の食玩なら大切に取ってある。だって女の子なんだもん。
 まあ、そういう物の収集家ではないので、コンプリートさせるつもりもないから適当に買っている。
「ネトゲやんならちょうどいいのがあるよ。それ用に作った奴だから」
「ハルカさん、ネトゲはやらないんじゃ?」
「弟が作れって言ったから。プレゼントする直前に、母さんから止められたんだけど」
「ああ、さっき言ってた……」
「引きこもりの娘の上に、ニートの息子はさすがに嫌だって。私は外で遊ばないだけだってのに。
 まあ私としても弟にすねかじられるようになったらやだし封印したのよ。あんたもそうなりそうなら容赦なく取り上げるから」
「分かった」
 この神妙な面持ちを見ていると、祖母とどんな風に会話していたかが分かる。生意気を言いながら、おねだりもしながら、聞き分けはいい子だったのだろう。


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2007/08/19   推定家族   66コメント 0     [編集]

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