白夜城ブログ

15



 翌日には犯人が捕まったらしいので、家に帰った。
「落ち込まないの」
 手を怪我して包丁を握れないハルカさんを助けるため、トキさんが助けに来てくれ、鍋をつつきながらの会話だ。
「でもさぁ」
 現在の彼女が犯人だった。
 遊ぶ頻度は下がったけど、メールは毎日してたのに。
「なんでハルカさんを……。確かにハルカさんの話はしたし、デートに誘われて断ったりもしたけど」
「断ったの?」
「ほら、三人でいつも人がいっぱいの店に食べに行っただろ。あの時は予約してあったから」
「ああ、あの時」
 それでなんでこんな事になったのやら。理由もなく断ったりしないし、可能な限りは向こうに合わせていたのに。
「そういえば犯人の子、うちのお店に一回来たわ。予約制だから、知らない子が来るのは珍しいし、美人だから覚えてるの」
 美人だ。なんであんな美人で金持ちの彼女がハルカさんみたいに最低限の化粧しかしない、いつもジーンズかスウェットかジャージの地味な人を……。
 いや、当日はばっちり化粧して美人に化けてたけど。
「自分で聞いてきたのに、女の人ってよくわかんねぇ」
「よっぽどハルカちゃんの名前でも出してたんじゃないの? 調べたら思ったよりも若い女でキレたのかもね。従姉ってなにげに結婚も出来るから」
「でも、俺大学卒業したら結婚しようねって言ってたんだよ」
「彼女さんの年齢からしても、そろそろ結婚に焦る時期だし、相手はまだ高校生。口約束であと五年は、けっこう不安よ。今は若くて綺麗でも、その頃には三十代のおばさんって言われる歳になっているもの。性別が逆ならともかく、女が年上ってのは不安ばかりじゃないかしら」
 トキさんは女らしい仕草で身をよじる。
 左手でフォークを使って器用に食事するハルカさんは、無心に食べている。病院食が不味くて、俺のカップラーメン強奪しようとして、手が痛くて泣きそうになっていたから、美味しくて嬉しいらしい。あの時はなんかすごく可愛かった。
 彼女は俺の事を心配してくれたから、保護者であるハルカさんのこと良く言っただけなのに、どうしてこうなったんだろう。でもハルカさんは掃除が少し苦手だから、収納上手の彼女を褒めることは忘れなかった。今更褒める必要がないぐらい完璧な人だったけど、女の人はちゃんと褒め続けないと拗ねるから、そういう事には気を使っていたのに……。
 姉が出来たみたいで嬉しいと言ったのが良くなかったのか。
「なんか出来る女の余裕な雰囲気が格好良くて好きだったのになぁ……」
 恋の情熱も冷めてしまった。自分勝手な傷害事件だから確実に実刑だ。出てきたとしても、また付き合えるほど寛容ではない。愛情が綺麗さっぱり消えたわけではないが、顔を合わせたくない。きっとひどい事を言ってしまうし、ハルカさんの傷を思い出して嫌いになってしまう。ハルカさんは平気と言うが、平気なはずがない。実際に洗顔泡立てられずに困っていたし。
「今度から、もう少し自分に近い恋人を作んなさいな。別れるときに若い子とは違うどろどろがあるから」
 それはもう今まで色々と実感してきた。そんなに焦っているようには見えなかったのに、実はかなり焦っていたのだ。晩婚化が進んで、年の差がある夫婦も多いから平気だと思っていても、信じてもらえなかった。
「まあ、ハルカちゃんみたいに、離れていく人を気にもとめないタイプもどうかと思うけど」
「ハルカさんは俺が就職して出て行ったら、もう接点なくなって忘れ去らりそうだよな」
 考えるだけで切ない。ハルカさんのことは大好きだ。俺のためを思って叱ってくれるというのは、けっこう嬉しい。ばあちゃんは叱らない人だったし。
「でも、ハルカちゃんは敵対者には執拗につつくわよ。イジメにあったときは、影で陰湿な嫌がらせで報復してたから」
「報復?」
「いじめっ子の机の上に「タマのお墓」ってタマを埋めた土入り段ボール箱を置いたり」
「ちょ……タマっ!?」
「ヘビの玩具」
 ハルカさんは本物を入れそうなところもあるので、玩具で安心した。
「若気の至りって奴よ。
 汚かったから椅子と机に洗剤を塗ってみたり、うっかり手提げの中に蝉の抜け殻を落としちゃったり、畑で取ってきたせっかくのミミズを、どんな臭い足してるんだろうって取り出した下履きの中にうっかりうっかりおとしちゃったり」
「ハルカさん、どっちがいじめっ子だか分からなくなってるしっ」
 うっかりって何だ、うっかりって。最後のはどうやってもうっかりでは通らないし。洗剤、乾いても汗とかかいたら大変なことになるだろうし、かなり恐ろしい報復である。
「虐められている目撃はあっても、報復をした証拠がないから、まさか大人しそうなハルカちゃんがそこまでやってるとは思われなかったのよねぇ。その時は」
 女の子がミミズを集めてくるという発想もなかなか思いつかない。
「ハルカちゃんは友達もろくにいなかったけど、敵もいなくなったのよ。 便乗して別の誰かが虐めっ子を虐め始めて、リーダー格の子は転校していったわ。
 中学に入ってからも似たようなもので、うちの学校はいじめられっ子が追い詰められたときは強かったのよ。頼まれたら断れないハルカちゃん、イジメの現場をバッチリ撮影して悪質な編集して教育委員会にまで持ち込んだから。対応しなかったら即マスコミに持って行くって。だから今回の報復はマトモだったなぁって。肉体的にやり返しただけだし」
 あの過激な報復がまともな方の行動なのか。
 この人の敵になるのだけはやめておこう。報復はされたくない。

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2007/09/28   推定家族   61コメント 0     [編集]

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