白夜城ブログ

4

「可愛い白猫さんです」
 ぴょこぴょこと揺れる赤いリボンが結ばれた尻尾。首にも鈴が縫いつけられた赤いリボン。
 顔立ちは常にすましたように見える上品な物で、五区でもあまり見ないほど可愛らしい獣族だ。だからこそ女王付にされている。
「リズィ、どうした。今日は女王陛下と一緒じゃないのか」
「陛下はお出かけですわ。わたくしは留守を任されていますの」
 おしゃま子猫は尻尾を一振りしてピンと背中を伸ばして言う。
「そうか。リズィ、この子は天族のノイリ。陛下のために五区から来た。身体の弱い子だから、気をつけてやってくれ」
 彼女はなぜかニアスに懐いており、近づく知らない女性を敵視する。こう言っておけば苛めないし、気をつけてくれるだろう。こう言わなければノイリは確実に苛められそうだ。
 ノイリは相手の事を知らぬから、ずっと触れたそうにしている。
「ノイリ、小さな子供以外にはあまり軽々しく抱きつかない方が良い。触れられるのを嫌う者も多いからな」
「は、はいっ」
 ノイリの翼が力なく垂れる。よほどカルティを撫で回したかったのか、叱られたと思っているのか。
「リズィは女王陛下の話し相手だ。気位も高いから、距離感は大切だ」
「わかりました」
 この少女は欲望を優先させる利己的なタイプではない。どちらかというと己のためにも従順に自己を殺すタイプだ。最悪の事態を考えるからこそ、彼女は物わかりがいい。しかし自分のことは考えるから、自分自身で追い詰めて自分を傷つけることもない。
 彼女は身体的には育てにくいが、性格的には育てやすい子なのだろう。
 子供相手に何だが、我が儘を言わないからこそ可愛いく感じるのだ。
 ニアスは元気な子供は好きだが、手足を振り回して叫ぶような我が儘な子供はあまり好きではない。
 我が儘な女子供の世話ほどやっかいなものはないと確信している。
 だからノイリは子供としても女としても扱いやすくて可愛いいのだが、それが不安材料でもある。今は主をエンダーと認識し最優先しているからまだ安心できるのだが、それでもうっかり安請け合いをしないか将来が心配だ。心配だからこそ、ここに連れてきた。
「マルタ、夕時にまた来る。それまではここにいるといい。ここなら安全だ」
 本の穴での暴力行為は他の場所で行われるよりも重罰となる。火気は厳禁。武器も入り口ですべて預かり。そんな場所で乱暴なナンパを行う物はいない。こんな子供をナンパしそうな連中がいるという方を問題視すべきなのかも知れないが、年齢的に釣り合う年少者も多く働いている。一概に変態ばかりとも言えない。
 ノイリがこれほど容姿に優れていなければ、ただ珍しいだけでこのような心配をする必要などなかったのだが、容姿に優れているからこそ兄がつい買ってしまったのだから仕方がない。ニアスは出来るだけのことをするだけだ。
「ここは安全だ。地下の本だけではなく地上の本もたくさんある。本は好きだろう」
「ニアス様は先ほどのお仕事を続けるんですか?」
「そうだ。頭が痛かったから、お前が来てちょうどいい気分転換になった」
 やる気のない連中を任されて、本当に頭が痛かった。
 綺麗に整えられた髪を乱さないように撫でて、癒しをくれたノイリに微笑む。
「じゃあリズィ、ノイリを俺か兄貴がくるまでよろしく頼む。珍しい魔族型だから、変な男に絡まれかねない。
 何かあったら溺愛している兄貴がどうなるか分からないからな」
「かしこまりましたわ。行ってらっしゃいませ、ニアス様」
 可愛らしく手を振る白猫に手を振り返し、同僚二人を連れて書庫を出る。やたらと二人がニヤニヤするので、腹が立ち軽く殴る。もちろん大した痛みもなく、二人は相変わらずニヤニヤと笑う。
「あのニアスが、ずいぶんとデレデレだなぁ」
「意外にも魔族型が好みだったとか」
「そういえば、お前よく魔族型の人形じっと見てるよな……」
「やたらと可愛いタイプの」
 事実だが、事実とはかけ離れた結論を出そうとする二人を再び殴っておく。
「土産用に見ていただけだ。マルタへの土産もあるぞ。兄貴へはないが」
「区王にはないのか。逆だろ普通」
「兄貴に俺が何を買ってくんだ。食い物しか喜ばないけど、食い物だとよけいに太るだろう。ダイエット食品を買っていったら味気ないって食べなかったしな」
 だからノイリのために買う予定だった。彼女は薄味が好みだから、ご婦人達に人気のそれは口に合うだろう。甘い物でも太りにくい素材で出来ているものがある。
 一区はその手の食品が多い。魔族型の女性は太りやすいからだと言われている。
 あとで街に連れて行って、そういうじょせい向けの甘味を食べさせてやろう。きっと喜ぶ。

back   next

誤字の報告はこのフォームからお願いします


魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

2007/09/15   窖のお城   57コメント 0     [編集]

Comment

 

Pass:   非公開:    

.

最新記事のRSS

.

更新履歴 カテゴリ コメント

.

.

拍手

.

リンク

.



.

.

.