白夜城ブログ

27

 
「わかったぁぁぁぁぁぁあああっ!!!!」
 暖房が邪魔で仕方がなくなったが、仕舞い込んだとたんまた寒くなりそうな、微妙な季節の暖かなある日の夜、ハルカさんの雄叫びが勉強に飽きて漫画を読んでいた俺の部屋にまで届いた。
 何事かと慌てて部屋を出ると、手紙を握りしめたハルカさんが階段を駆け下りる後ろ姿を目撃した。
 どうやらキッチンに用があるらしい。
 俺も一階に下りてキッチンを覗くと、デジタルはかりを取り出し、塩が入った赤い蓋の調味料入れを手にしていた。
 何を作るつもりかと見ていると、量ったそれを汁物も入れられる保温弁当箱に入れて、計量カップで水を入れる。
「何してるの?」
 蓋をして振っている後ろ姿に声をかける。
「何って、説得のための下準備」
「説得?」
「最近、コモちゃんと文通してるでしょ」
「ああ……うん」
 絶対に性格は合いそうにないと思っていたのに、なぜか続いている文通。中身は聞いていないが、伝書鳩よろしくその行き来を手伝っていた。
「あの子、すっごい味音痴なんだ。なんで味音痴なのか疑問を持ってたんだけど、原因がちょっと分かったもしれなくて」
 料理が下手を通り越して、味音痴だということも判明していたとは、様々な頭の痛いやりとりを行ってきたのだろう。というか、ハルカさんがまず文通なんて面倒くさいと投げ出すと思っていたけど、意外すぎるほど続いている。たぶん、よっぽど頭の痛い事が書かれていたのだろう。ハルカさんが見過ごせないほどの何かが。
「たぶんだけどね、偏食が原因の味覚障害なんじゃないかなぁって」
「みかっ!?」
 味覚障害というのは、味が分からなくなるアレだろうか。
「ダメなダイエットの見本みたいなことしてるらしくってさ。母親も破滅的な料理で、それに慣れたって可能性もあるけど、どっちにしても味覚障害の可能性があるよ」
「ダイエットで味覚障害になるの?」
「最近多いらしいよ、若い人の味覚障害。
 んで、塩分濃度の違う食塩を用意してみたから、ちょっと嘗めてみて」
 スプーンですくったそれを嘗めてみる。
「右側の方が濃いような気がする」
「正解。砂糖も用意するからあっち向いてて」
 しばらく待ち、用意された砂糖をなめる。
「左の方が甘い」
「よし、正解」
 ハルカさんは蓋をして、メモ用紙に番号を書いて裏に貼り付ける。
「これ、わかんなかったら病院に行く事をすすめてきて。ミネラル不足だと味覚がちょっとおかしくなるからって。耳鼻咽喉科なら大丈夫だから」
「…………み、味覚障害とか言って、傷つかないかな?」
「だからいきなり病院に行けじゃなくて、どの程度ひどいのか試してみるんでしょ。ダイエットが原因ってんなら、味オンチとか言われるよりはダメージ小さいだろうし。
 ちゃあんと手紙書いて脅しつつ説得するから、そっとこれ渡してね。
 治るなら治さないと、将来お隣さんが可哀相だからね」
「いやいやいや、お隣さんに味見をさせるのはかなり特殊なケースだと思うけど」
 実はお隣さんがハルカさんにとっても心の傷になっているのかもしれない。不味いものって、堕落生活者の尻も叩くのだ。すごい。
 すごいけど、悲しい。
 すごく悲しい事で、涙が出てきそうになった。
 リビングではお風呂上がりのハルナちゃんが、妙な具合に沈む俺達を見て首をかしげていた。

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2007/11/26   推定家族   45コメント 0     [編集]

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