白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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 私は悪夢のようなおみやげを持ち帰ってサイドボードに置くと、何事もないように夕食を食べた。今日は昨日お兄ちゃんがリクエストした春巻き。中身がノーマルバージョンと、お子様バージョンがあった。お子様バージョンとは、卵、ハムなどの、子供が好きそうな物が入ってる。冷凍して弁当のおかずにもなるらしい。
 そんな美味しい夕飯を食べた後、ハルカお姉ちゃんは危険物をサイドボードからテーブルに移すと、中身を公開した。
「やっぱり固い……」
 箸でつつくが、凹まない。指で触るのが怖い。お兄ちゃんが怯えている。気持ちはよく分かるほど、あの時の肉じゃがはひどかった。わたしは舐めた程度だけど、お兄ちゃんは思いきりかじったから、もっと苦しんだ。
 女は料理の腕が全てではないと思う。でも、不味い物を他人に食べさせようというのは、愛なんかじゃない。自己満足出しかないと思う。
 思い遣りなどない暴力だ。味覚障害だとしたら、自覚して他人をそれに巻き込まないのが愛で思い遣りだ。
 そう、料理に愛など必要ない。
 愛は相手に嫌がられてる事もある。
 だから料理は思い遣る心こそ必要なんだと思う。私はそう悟った。
 今の高校に合格したのと同じぐらい、私の人生にとって影響を与える出来事だった。
「ハルカさん、これどうするの?」
「まずは割る」
 手で割ろうとして上手くいかず諦め、包丁をかまえ、かなり固そうに切る。
 ひからびているからとかじゃなくて、たぶん元々固かったんだと思う。
「食べなくて良かったね。生焼けだよ」
「いやいやいや、無理でしょ食べるのがまず。怖くてずっとみんなで逃げてたんだよ。クラス離れてるから、これ持って席を立つと山本が緊急連絡してくれたからさ」
 山本さんとは、弁当話の時に青ざめていた人の事。様子がおかしかったから覚えている。
「で、彼女のことはどう思ってるの?」
「この前の勉強会の時、小森さんが来たのも山本経由で無理矢理ついてきたんだし、俺はあんまり親しくないっていうか」
 人間、見た目ではない。もちろん見た目そのままの人の方が世の中には多いと思う。けど、あんなに大人しそうな外見なのに、中身はとっても積極的なのだ。実力が伴っていたらいいのだけど、客観的に見られない自信家。キララ先輩は美味しく作っても人に食べさせるのは緊張すると言っていた。これぐらいがちょうどいいんだと思う。
「外の方は焦げ焦げだし……中間なら食べられるね」
 匂いをかぎ、ほじくりだし、眺める。もう食べ物に対する扱いじゃないね。食べ物を粗末にするのは嫌いだけど、じゃあ食べられるかと言われれば首を横に振る。
「外においといて、鳥は食べたよってのはどうだろう」
「泣くよ。食べない方がまだいいよ」
「いるんだよねぇ、客観視できなくて否定されるとヒス起こす女。とくに料理関係は多いよぉ。自信満々に不味いの持ってくるの。手作りなら男は何でも喜ぶとか勘違いしてたり」
「うう…………」
 お兄ちゃんがいつか女性恐怖症になるんじゃないかと心配になる。前の彼女はハルカお姉ちゃんを刺したらしいから、きっとものすごく女運が悪い。キララ先輩みたいな人なら安心だけど、他に好きな人がいるらしいから。
 ハルカお姉ちゃんはほじった安全と思われる部分を口にした。咀嚼して、ティッシュに吐き捨てる。
「じゃあ、手紙書いてあげるね」
「手紙?」
「この物体の状態と害について。生焼けどころか、ダマになった小麦とがあるとか、分量が違うとか。
 生の小麦粉は腹をこわすし、必要以上の焦げは不味いだけで発ガン性があるし、これ一つで色々と健康に害があるんだよぉと大げさに書きつづるの。
 っていうか、こんな簡単なお菓子をここまで失敗をするのはひどいよ。本の通りに作れば子供にでも出来るのに」
 ハルカお姉ちゃんが腕を組んで悩んでいると、キッチンの方でちん、と音が鳴った。
「出来たかな」
 ハルカお姉ちゃんはミトンをつけてオーブンレンジを開けた。ハルトお兄ちゃんと一緒に立ち上がり見に行くと、美味しそうなマフィンが焼き上がっている。
「そこの本にめちゃくちゃ忠実に作ったとっても正しいマフィンだよ」
「美味しそう!」
「正しく作ったからね。有名パティシエの本なんだって。お菓子の基本の作り方を丁寧に書いてあって、分かりやすくて美味しいって評判なんだよ。レシピ通り作っても、レシピが不味かったら意味がないからね」
 なるほど。信用の出来るレシピを忠実に再現するのが、料理上手への第一歩なんだ。
「基本も出来てないのに、太らないように必要な分まで砂糖や油分を入れなかったりとかして食べれない物を作っちゃう人とか、甘い方が美味しいって、必要以上に糖分入れる人とか、そういう人が激しい失敗をするんだよ。
 彼女のはたぶんカロリーゼロの甘味料だね。異様なほどに甘かったら」
 ハルカさんがにっこりと笑い、紅茶を入れ始める。終わる頃にはマフィンも少し冷めていて、包丁で一つを二等分にして、一つをそのまま皿に置く。
「ハルナは半分こしようね」
「うん」
「失敗した箇所と理由と害とレシピをまとめるから、勇気を出して本人に渡すんだよ。逆ギレしても、ちゃんと味見をしたかどうか聞くんだよ。それで本当に美味しいと思ったのか、一つ一つ確認するの。
 ほとんどの場合、ちょっと失敗したけど、愛情がこもってるからとか言うから」
「そんな漫画みたいな理屈が……」
「リアルにいるから。
 材料は分量通りで、火が通ってて、柔らかくて、炭になってなかったら食べるって言っておいた方がいいかもしれないけど、彼女が好きじゃないなら突き放す方がいいかもね」
「が、頑張ってみる」
 ハルトお兄ちゃんはとても忠実に作ったマフィンを手に頷く。
 この日から、ハルカお姉ちゃんと小森さんの果てのない文通が始まる事になるとは、まだ誰も気づいていなかった。

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
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盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

2007/11/23   推定家族   44コメント 0     [編集]

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