白夜城ブログ

23



 三年になった。
 受験勉強も本格化かと思うと憂鬱になるが、なんとかしてハルカさんが知っていそうな有名大学に入らなければならない。恩返し的なこともあるが、知らないと『ふぅん、よかったね』で終わりそうだ。有名大学には行ったら『へぇ、すごいね』にランクアップする。
 あんまり変わらないだろうけど、とにかく『ふぅん』は嫌だ。
 クラスも一から人間関係を築く必要もない具合に分けられ、ほっとしている。お米ちゃんも同じクラスになった。
 あとはひたすら勉強あるのみ。
 始業式を終えて昇降口に行くと、一人で靴を履き替えるハルナちゃんを見つけた。初日だから、まだ友達は出来ていないのだろう。ハルナちゃんの通っていた学校からうちに来た子は数人で、あまり面識のない子ばかりらしい。まともに知り合いなのが俺だけなのだ。
「ハルナちゃん、一人? 一緒に帰ろうか」
 遊びに行くにも、一度は帰って食事をしてから。バイトも出来ないから、外食するほど財布に余裕がないのだ。
「あ、はい」
「靴をはいてくるから待ってて」
 三年の下駄箱へ向かう最中、友人達が力強く肩を掴んでくる。
「誰だ、あの子は」
「従妹のハルナちゃん」
「紹介しろ」
「やだね」
 言われると思っていたが、さっそく飛びついてきた。靴を履き替えて迎えに行くと、まあ可愛い笑顔で駆け寄ってくる。
「あ、こんにちは」
 礼儀正しい彼女は俺の友人に会釈をした。
「こ、こんにちは」
 友人が背中をばしばし叩いてくる。
「ハルナちゃん、クラスどうだった? 知り合いいた?」
 彼女はふるふると首を横に振る。
「知らない人ばかりですけど、親切な方もいました」
「男子だろ」
「え、はい」
 女子に虐められないか心配だ。こういうのほほんとした可愛い子は、やっかみで虐められやすそうだ。不安だ。不安で仕方がない。
「万が一虐められたら、迷わずハルカさんに言うんだよ」
「ハルカお姉ちゃんに?」
「そう。ハルカさんはこの分野においては最終兵器的威力があるから」
 彼女はこくりと首を横にかしげる。知らないんだろうか、彼女のキツさとか本性を。
「まあ、もしもの時だよ。もしもの時。不安にならなくていいよ。こんなところで立ち話しても腹減るし帰ろうか」
「はい」
 彼女がにっこり笑うと、友人が今日の勉強会は俺んところでとか言い出す。居候の身なのであまり人をぞろぞろと連れて来たくないのにこいつらはお構いなしだ。
 ハルナちゃんを守るように帰ろうとすると、呼び止める声がした。
「あっ、川崎君っ、待って」
 振り返ると同じクラスになったお米ちゃんだった。何度か目があって何か気にされていたような気がしたのだが、気にせいではなかったらしい。
「お米ちゃん、どうかした?」
 お米ちゃんが鞄の中をあさりながら駆け寄る。
「ちょっと待ってね。この前ハルカさんに借りた……あ、あった」
 鞄の中からタオルを取り出す。
「この前、トラックに水を引っかけられたときに借りたんだ。今度、お礼にお菓子でも作って持って行こうと思うけど、タオルは先に返そうと思って。
 川崎君は何が好き?」
「俺は好き嫌いないよ。今の時期だと草だんごとか」
「し……渋いね。ま、いいや。おばあちゃんに作り方聞いて作ってみるね。私も好きだし。
 ところでその子、新しい彼女?」
 兄経由で俺の恋の顛末を知る彼女は、何とも言えない表情で聞いてくる。
「従妹のハルナちゃん。今うちに住んでるんだ」
「へぇ、そういえば似てるねぇ。可愛いねぇ」
 がしっと友人がまた肩をつかんでくる。
「い、一緒に住んでるって、マジで?」
「マジだけど」
 逆側の肩を別の友人につかまれる。
「お、おまっ、お前はギャルゲの主人公かっ」
「は?」
「お姉さんキャラに、妹キャラまでっ!」
「ハルカさんは譲るから、ハルナちゃんを」
「寝言は寝て言えっ!」
 実はハルカさんも狙っていたのかと毒付きながら、ハルナちゃんを守りきることを誓い、彼女の手をしっかりと握って帰った。

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2007/11/04   推定家族   41コメント 0     [編集]

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