白夜城ブログ

38
 俺は今、ストーカー騒動で招待された小料理屋にいる。
 あの時にいた四人全員、約束通りごちそうしてもらうことになった。
 おすすめだと、凝った美味しい料理が出てくる。ハルカさんなら作らない、手の込んだ料理ばかりだ。
「イサキの刺身マジ美味しいぃぃ。
 あ、空豆と海老しんじょもください」
 ハルカさんは生き生きしている。しかも遠慮してない。
「ほんと、相変わらず美味しいわぁ。
 でも美代子ちゃんがあれのイトコだったなんて、意外よねぇ」
 トキさんがお酒を飲みながらため息をつく。彼はこの店に時々来るらしい。親のおごりで。つまり高い店。
「あいつは変わりもんだからねぇ。うちの美代子がお世話になった先輩にストーカーするなんて、本当に何を考えているやら。縁を切りたいぐらいですよ」
 店主こと美代子さんのお父さんが大きくため息をつく。
 ハルカさんが美代子さんに何をどうお世話したかとか、ハルカさんはちっとも覚えてませんけど。美味しい煮物のことしか覚えてませんけど。
 美味しい煮物を覚えていたから、ずっとうきうきしていたけど。
 それがハルカさんらしすぎて……。
「先輩さんのイトコは、いい学校の色男でうらやましいねぇ。うちにゃ自慢できるような身内がいなくてさぁ」
「おじさんが自慢できる身内だもんねぇ。ミヨちゃんがうらやましいですよ。うちの親はずぼらだから」
「ははは。嬉しいこと言ってくれるねぇ。
 坊主達も、たんと食えよ」
 ハルナちゃんが他のお客さんに、これ食ってみろとか高そうな料理を勧められたり、ハルカさんがお酒を勧められたりした。
 トキさんは実家が近いので歩いて帰り、うちは代行運転を呼ぶらしい。
 俺はおじさんのすすめで穴子飯をもらい、みんなに分けつつがつがつ食べた。
「ハルト君は行儀よく食べるねぇ」
 ガツガツ食べているはずの俺を見て、魚を隣の席に運んできた美代子さんが言う。
 彼女は元々可愛い感じの美人だけど、今は和服姿でその可愛らしさに色気も加わり、大和撫子といった雰囲気だ。俺は和服の女の人ってけっこう……かなり好き。むしろ嫌いな男はあまりいないだろう。
「こいつはおばあちゃんに育てられたから、和食のテーブルマナーは身につけてるみたい」
「先輩、可愛くて仕方がないんじゃないですか?」
「来た頃は金髪みたいな汚い髪だったけど、最近ようやくマシになってきたって感じ」
 マシ……。
 マシってレベルなんだ。
 ハルカさんが褒め称える学生って、どんな感じだろう。
「ハルカちゃん、ハルトくんが落ち込んでるわよ。もう少し分かりやすく可愛がってあげなさいよ」
「もうすぐ十八でしょ。そういうのはただのイトコがすることじゃないから。大学にでも入ったら、年上のお姉さまがいくらでも可愛がってくれるでしょ」
 ハルカさんの中で一体俺はどんなキャラなんだ。確かに年上の女の人が好みだけど、誰でもいいというわけじゃない。むしろ今は、ハルカさんに甘やかしてもらいたい気分だ。甘やかしてくれないから、たまには激甘なハルカさんとか見てみたくなる。
 なのにハルカさんは、マシ程度にしか思ってくれない。
「ハルカさん、俺はそんなに軽くないよ」
「それは、まあ、分かってる。でも見る目ないでしょ」
「うぐ……」
「優しくされると簡単に落ちるでしょ」
「あぅ……」
 過去を振り返るとそんな感じだ。
 優しくされると弱い。とくに手料理とか、弱い。
 こんな短期間で俺の好みを把握するなんて。
 しかも他人なんてどうでもいいハルカさんなのにっ。
 理解されて、ちょっと嬉しいような気もする。
「お、俺のことなんてどうでもいいじゃん。それよりも美代子さん、ハルカさんって学生の頃はどんな感じだったんですか?」
「え、先輩?」
 美代子さんは聞かれた瞬間、満面の笑みを浮かべた。
「俺の背中を見ろって感じの、頑固親父女番、みたいな?」
 ハルカさん…………。
「有言実行するところが格好いいの。あ、ちょうどアルバムがあるよ」
 美代子さんがのれんがかかった奥の部屋に行ってしまう。
「ちょっと、写真はいらないって」
「見たいでーす」
 ハルカさん、写真嫌いらしくて自分では持っていない。千載一遇のチャンス。
「あったよ~」
 美代子さんが笑顔で抱えてきたアルバム。ハルカさんはちっと舌打ちして目を逸らす。
「先輩の写真はあんまり無いけど、ほら」
 口を一文字に引き結んで、それっぽい衣装で蕎麦を打つハルカさん。
 蕎麦を切るハルカさん。
 蕎麦を茹でるハルカさん。
 どこの職人ですかって感じだ。まだ当時高校生なのに。
「蕎麦打ちなんてやったんですか」
「高校の文化祭なの。先生が蕎麦好きな人で、手打ち蕎麦が恒例だったから、上手い人が外から見えるところで実演してたの。これは先輩が三年の時」
「へぇ……。俺も手打ち蕎麦食べてみたい」
「食べたかったら、自分で労働しなさい。作り方教えるから。あれ重労働なの。この頃は若かったから出来たの」
 いや、ハルカさんまだ二十四歳。十分若いし。
「で、これがトキ先輩。今と違って凛々しいでしょ」
 弓道部だったらしく、道着を着て、キリリとした男らしい顔で矢を引いている姿が写っている。昔は普通に格好良かったのだ。
「何度見ても、昔は完璧に美少年でしたよねぇ」
「あら、今では美青年でしょ」
「言葉遣いがなければ、それもアリなんですけど。あの頃が男性としては絶頂期でしたね。今の方が親しみやすいですけど」
「ほっといて」
 美代子さんはくすくすと笑いながらカウンターへと戻っていく。俺は少ないハルカさんの写真と、トキさんの普通の男の子だったころの写真を楽しんだ。
 この頃のハルカさん、今では肩が凝ると言ってやらないポニーテールがよく似合っていて可愛い。

backmenunext

誤字の報告はこのフォームからお願いします


魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

2009/02/01   推定家族   401コメント 5     [編集]

Comment

 

SORA2194     2009/02/07   [編集]     _

うぉー、ひさしぶり。
当然といえばそれまでですが、ハルカさん昔からカッコイイ人だったのですね。
#このゆるい雰囲気好きです。:-)

とーこ2195     2009/02/07   [編集]     _

久しぶりに推定です。
気付くと食べたい物だけ羅列して、内容が何もなくて止まってました。
最後まで食べ物ネタだった。
ストーカー話はとりあえずこれで最後にします。
続けるとまた止まりそうなので。

ヤカエ2197   やっほーぃ   2009/02/08   [編集]     _

久しぶりの推定更新ですね。
もし催促してたようならすいません。

硝酸2198   初めまして   2009/02/08   [編集]     _

いつも拝見しています。硝酸と申します。
どの作品も大好きです。いつもはパソコンでしか小説を読まない私が、携帯からも確認してしまうくらいハマってます。
どの小説も主人公が素敵で、楽しいです。皆個性があって、人間的で、こんな風になりたいなぁと思います。

このサイトで紹介されといたおいもを注文しました。本当に美味しかったです!私は徳島県出身で鳴門金時というサツマイモしか食べられなかったのですが、本当に甘くて美味しかったです。紹介してくださり、ありがとうございました。

これからも小説や通販の紹介など楽しみにしています。お体にはお気をつけて。

とーこ2199     2009/02/08   [編集]     _

うちの子みたいになったら、友達をなくしそうなので決してなってはいけませんよw

紅あずまは栽培しやすさから、日本で一番育てられてるさつまいもですから、鳴門金時のほうが希少価値がありますよ。
近所は紅あずましか売っていないので、ちょっと羨ましいです。
美味しく感じるのは、たぶん製法の差なんでしょうね。
同じ種類の芋を使っているはずの他の干し芋よりも美味しいです。


Pass:   非公開:    

.

最新記事のRSS

.

更新履歴 カテゴリ コメント

.

.

拍手

.

リンク

.



.

.

.