白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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22



 ある日、玄関のチャイムが鳴ってハルカさんが出た。しばらくすると部屋に戻り冷蔵庫をあさりながら
「ハルト、玄関にお隣さんがいるから、おかずをちょっと味見してきて」
「は?」
「いいから、味見してあげて」
 意味が分からないまま玄関に行くと、お隣のおばさんと、その娘さんらしき女性がいた。ハルナちゃんもついてきて俺の後ろからのぞき込む。
「こ、こんにちは、おばさん」
「こんにちは、ハルト君。あら、可愛い子ね。彼女?」
「学校の都合で一緒に住んでる従妹です」
「あらそうなの。学生も大変ねぇ。
 それより、このおかず食べ比べしてみてくれないかしら?」
 なんだろうか。ハルカさんは慣れているようだったし、習慣だろうか?
 なぜか肉じゃが二つのタッパに入れられている。一つは綺麗な肉じゃが。もう一つは煮くずれて味の濃そうな、ちょっと奇妙な──エスニックな匂いを発する肉じゃが。
 とりあえず食べてみることにした。
「あ、美味しいです」
 綺麗な方は見た目通りの美味しい肉じゃが。面取りがしてあって煮くずれがあまりない、ハルカさんの美味しいけど煮くずれした手抜きなのとはまた違う、飾っておきたいお手本のような肉じゃがだ。
「本当に美味しいです」
 ハルナちゃんももらって喜んでいる。
「うん。なんか死んだばあちゃんの肉じゃがに似てる」
 大量に作るからこんなに綺麗じゃなかったけど、味とか食感とかはけっこう似ている。
「ハルト君…………」
 おばさんがの目が少しうるっとなったので、慌ててもう一つのタッパの肉じゃがを楊枝に突き刺す。なんか臭うのでハルナちゃんと顔を見合わせ、勇気を出して口に入れ──
「ふがっぐぼっ、ごほっ、げほっ」
 咳をしてはき出しそうになり、はき出すところがなくて悶絶する。
 噛んでしまった。
 す、酸っぱいっ! 生臭い! 生臭い! 変な味がするっ!
 口にしようとしていたハルナちゃんがわずかに口を付けたまま固まって、まだ形が綺麗に残ったそれを口から出した。
「あ……、やっぱり食べれなかったか」
 ハルカさんがマグカップを差し出して、それを奪うようにして無理矢理嚥下した。
「の、のどにのこっ、みずっ」
「じゃあ、コーラの方がいいかな。味が濃い方が消えるでしょ」
 ハルカさんはマグカップに、大きなペットボトルの冷たいコーラを注いでくれる。それを一気に飲み干し、臭いんだか痛いんだかわからない感覚が通り過ぎる。ゲップをして、ぜいぜいと肩で息をして、泣いた。
「酸いぃし生臭かったっ! 肉じゃがなのにっ!」
「いしるっぽい匂いがするけど、それかな」
 ハルカさんは食べない。知っていたのだ、この強烈な物体が強烈であることを!
「な、ナンプラーだと思います」
 ハルナちゃんが顔をしかめて言った。もろに食べていないから悶絶はしていないが、空いたカップにコーラを入れてがぶがぶと飲む。いつもは人が使ったカップなど使うような子ではないのに、少し口をつけただけでこうなるとは、どんな恐ろしい物体だこれは。
 はっきり言ってしまえば、こんなのは食べ物ではない! 食べ物は、食べられるから食べ物だ。食べられなければ食べ物ではない!
「そんなにきつかった? やっぱり入れすぎたかなぁ。酢をいれてさっぱりさせてみたんだけど」
 入れすぎとかそういうレベルを超えている。ナンプラーってよく知らないけど、入ってる料理食べたことがあるけどこんなんじゃなかった。
 食べさせてくれたのは前の彼女でちょっと切ないけど。
「ナンプラーもだけど、なんか、青臭い魚をそのまま煮付けたような、生臭さとえぐみがっ」
 ハルナちゃんが顔を顰めて言う。母親も料理上手だという彼女が、なぜそんな物を食べた事があるのだろうか。
「言われてみれば、魚は入ってるね。下処理はしてないだろうから、そりゃ生臭い」
「ハルカさん、何なの、これっ」
 差し出された美味しい肉じゃがを食べて口直しをする。ハルナちゃんも、楊枝に刺した微妙に噛みつきかけのそれを眺めて困り果てる。行儀のよい彼女は口を少しでもつけた物を手にしているのが気まずいのだろう。察したおばさんがポケットティッシュをくれた。
「お隣のお嫁に行った娘さんが、料理下手なのに自信家だから、こうして時々他人に味見をしてもらって反応を見せてるの」
「ひどっ」
 食べさせられる側に対してひどい。
 娘さんは、こんな凶器を生み出した以上同情しない。
「こうして凹んでもしばらくすると復活してるからまた凹んでもらうの。世の中には、ちょっとマシになったからって、元に戻って手を抜いてもいい気になってる人がいるんだよ。
 私の料理も手抜きだけど、手を抜くところを選んでるから不味くはないでしょ」
 こくこくと頷く。もしもハルカさんがこの破壊力のある料理メーカーだったら、俺はもう家出している。どんな美人でも無理だ。
「でも、どうやったらこれができるのっ!? ふつーに作れば、誰にだってそこそこ美味しく作れる料理なのにっ! いや、普通に作らなくてもこんな味にはならないよ!」
「私にもどうやったらこんな物作れるのか何てわかんないよ。作った事ないもん」
 そりゃそうだ。ハルカさんなら料理が下手な時でも妥当な事しかしていなかっただろう。無謀な冒険などハルカさんには似合わない。
「ハルトは結婚する時、相手が最低限の味覚と自覚があるかを見極めてから選ばないとダメだよ。隠し味と称して少量だったら美味しい調味料を手当たり次第大量投下して食材を危険物質に変えるから。あと、作る姿も確認しないと、誰かに作らせるよ。トキがそういう女に引っかかった事あるらしいから」
 娘さんが泣いて出て行った。でもあれを食わされた後だと、泣いて反省しろと心から思う。あんなの毎日食わされたら憎しみも湧く。旦那さんすげぇ。尊敬する。俺には無理。即離婚級の欠点だ。
「…………結婚って、忍耐が必要なんだね」
「相手によってはねぇ」
 隣のおばさんが、ごめんねごめんねと謝ってくれる。おばさんの肉じゃがは美味しかったんだ。
「いいですよ。男はこういう料理も食べないと、普通のありがたみが分からないんですから」
「ほんっと、ごめんなさいね。またお野菜持ってくるから、美味しい物食べさせてあげてね。肉じゃががそこまで威力があるとは思ってなかったのっ」
 おばさんも食べてなかったらしい。そりゃあ、肉じゃがは不味くてもここまで不味くなるとは誰も思わない。
「じゃあ、また煮物とか作ってきて下さい。やっぱり私が作るとお袋の味って感じじゃないみたいなんで」
「あ、この肉じゃが、よかったら残りも食べてね。こっちは処分しておくから」
「ありがとうございます。一品助かっちゃった」
 ハルカさんは嬉しそうだ。俺はまだちょっと気持ち悪くて不機嫌だ。
 やっぱり、お嫁さんは料理の腕でも選ぼう。うん。

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2007/11/03   推定家族   40コメント 0     [編集]

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