白夜城ブログ

28


 俺は思った。
 ここは地獄だ。
「ハルナちゃん、俺、コンビニの弁当がいいよぅ」
「ちょっと味見するだけだと思うよ。完食はいいと思うよ」
 ハルナちゃんも震えている。
 危険物その1。小森さんのヘルシー肉じゃが。肉じゃがなのに、代用肉なので肉なし。
 危険物その2。お隣の娘さんのポトフ。
 偶然に二人が揃ったから、一緒に食べてみようという事になった。
 悲しすぎる。
 ちなみに小森さんはまだ病院には行っていない。鉄と亜鉛とミネラル飲むからって。過ぎたるは、及ばざるが如しという素晴らしい名言を借り、ベートーベンの死因は亜鉛中毒だと諭してみたが、じゃあ一日分の上限は守るで終わった。
「ナコちゃん、コモちゃん、自分の料理食べた?」
 互いに頷く。
「ちょっと、お互いの料理食べてみて」
 ハルカさんが小皿によそい、それをチェンジした。
 大丈夫なのだろうか。味覚がおかしい二人だ。気にせずばくばく食べたらどうしよう。でも食べなくていいなら嬉しい。食べたくない。
 二人を見守る。
 箸を手に、ジャガイモを口に運ぶ。
「ふぐっ」
 二人同時にはき出した。
「なななな、なまぐさっ! みずっ、みずっ!」
「からっ、塩からっ!」
 生臭いのがポトフ。塩辛いのが肉じゃが。
 危険なのは塩辛い方がだか、もっと食べたくないのは生臭い方。
「ナコちゃん、舌が麻痺してるぐらい味付けの濃い子がこんな悶絶するほどひどい味というか匂いというかえぐみなんだよ。ポトフがどうやったら生臭くなるのかマジわかんないから。
 コモちゃん、この魔王級の味音痴がはき出すほど塩入ってるんだよ。いいから病院行け。できれば親子で。何が原因か分からないと見当違いな事するから!」
 すごい。竜虎の決戦相打ちみたいな感じだ。
「今からこの『料理の基本』のレシピに忠実な正しい肉じゃがを作るよ。自分の舌は信じちゃダメ。一般的じゃないから、他人に食べさせたらそのうち死ぬから。この通りに作れば、多少美味しくはないとは言われても、不味くて食べられないなんてことには絶対にならないから。手際の悪さとか、下処理の杜撰さとか、そういうので味は落ちるけど、食べられるから!」
 ハルカさん……なんて冒険を。っていうか、また肉じゃが。不味かったら肉じゃが恐怖症になりそう。
 でもハルカさん監修ならいいかもしれない。
 どうしよう。ドキドキする。
 息が苦しい。これが動悸、息切れ、という症状か。テレビコマーシャルでやっているあの薬は我が家にあるだろうか。
「基本からね。ダシの取り方からだよ。煮干し、昆布、カツオ出汁の取り方も丁寧に書いてあるから、後でコピーするからね! 出汁は最高に美味しいんだよ! 旨味調味料も美味しいけど、やっぱり手間暇かけたいい出汁は違うから!」
「はい……」
 二人とも、自分の作った物がどれだけひどい料理と対等に扱われているか知って、ちょっと素直になっている。
 方向性が違うインパクト料理は、互いにショックを与えるに十分な力を持っているようだ。
 もう二度と、本来なら美味しい食材が、このようなゴミにならないよう、俺はただただ手を合わせて祈った。
 でも、ハルカさんがこんなに積極的になるぐらい恐怖が続いてきたって事は、お隣の娘さんは修正が絶望的なんだろうなぁ……。

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2007/12/20   推定家族   38コメント 0     [編集]

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