白夜城ブログ

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 地族達はノイリが階段を下りて姿を見せるとはしゃいで踊り出した。
「可愛いです」
「愛嬌のある者達ですな」
 ノイリの言葉にヘイカーが頷く。
「彼らはノイリに水場まで来て欲しいそうです」
「水場?」
「天使の像が置いてあるらしく、それを見て欲しいのだそうです。自分達の宝を、本物の天使に見せたいだけでしょうな」
 ノイリはエンダーを見上げた。
「ヘイカー、わしはユーリアスとここにいるが、頼めるか?」
「畏まりました」
 ヘイカーがノイリの手を握ってくれた。エンダーの手と違い、小さくて筋張っている。
「あの、私もご一緒してもよろしいですか?」
「リムメルもか。お父上に聞いてご覧。彼が一緒にいってくれると言うなら、わしは構わないよ」
 リムメルは外で待っていた父に目を向ける。彼は苦笑しながら頷いた。
「トト、ノイリ達を頼むぞ。わしはこちらの現場の様子を見ておるから。足を滑らせて水場に落ちるような事がないよう、それだけは注意していてくれ」
「畏まりました。彼らの我が儘をきいてくださり、ありがとうございます」
「ノイリが乗り気だからかまわんよ。ノイリ、水に落ちないよう気をつけるんだぞ」
 エンダーに見送られ、ノイリはヘイカーとトトと手をつなぐ。リムメルもトトと手を繋ぎ、反対の手で父と手をつなぐ。
 五人並んで出発だ。
「ユーリアス様の護衛をするはずが、このような事になろうとは思いもしませんでしたよ。なかなか愉快な経験です」
 リムメルの父が笑いながら反対側にいるヘイカーに話しかけた。
「まったくです。しかし、リザイド殿のご息女も、物怖じせぬ方ですな。ノイリ並のご令嬢はなかなかいません」
「ははは……都会で育った割には、天然でして。
 しっかりしていないわけではないのですが」
 保護者の二人がノイリ達を挟んで話を始めたので、ノイリ達も遠慮せずに話をした。
「こんなところをお散歩なんて初めて」
「私も初めてで、少しわくわくわしています」
「リムメルちゃんはずっと地下で暮らしていたのに初めてなの?」
「街の外に出た事がありませんでした。ユーリアス様のところにお引っ越したのが、初めてです。移動は乗り物だったし、歩いたのは初めてです」
「そっか。歩いていたら大変だもんね」
 ノイリは納得した。ノイリだって、町中以外を歩くのは初めてだ。
「トトさん、地族のみんなは、穴を掘り終えたらどうするんですか?」
「次の計画があればそこに徒歩で移動し、なければ道路を修繕しながら巣穴に戻ります。私達にも担当区域があり、よほど大きな都市を造るのでない限りは、助っ人に行くような事もありませんので、仕事がないなら、やはり道路の修繕をいたします」
 働き者なのだ。
 振り向くと、彼らは驚いて足を止め、すぐに踊るように身を揺らした。
「彼らは何を食べているんですか?」
「土です」
「土!? 土って食べられるんですか?」
 知らなかった。土が食べられると知っていたら、飢えて死ぬ人がいなくなるのに。
「そういう身体なのですよ。穴掘りは彼らにとって食事でもあります。もちろん食べきれる物ではないので、処分しなければなりませんが」
「どうやって処分するんですか?」
「いい土なら食器を作るための材料になりますし、穴が広がっていく内に、仮柱を支えるブロックにしたり、それ以外の土は固めて、魔族の方の術でとても小さく圧縮して頂きます。それを本柱に使います」
「へぇ。あれは仮の柱なんですか」
 ノイリは都の柱を思い出す。とても天井が支えられるとは思えない、細くて綺麗な柱だった。魔族の術があるから、支えられるのだ。
「仮といっても、あの柱に手を加えて作ります。仮柱を作る地族は、年季のある加工が上手い者が行います。
 何もかも、下地を作るのも地族ですが、仕上げはやはり魔族の方です。
 こんな里ですらない場所での生活になるため、給金はとても高いらしいですよ。三ヶ月も働けば、一年は遊んで暮らせるそうです」
 今ごろは魔族がその給金のいい作業をしているのだ。
 手に職を持っているというのは、とても大切なのだと誰かが言っていたが、ノイリはそれをしみじみと感じた。
「次にまた来る時は、土産を買ってきてくれたりと、親切な方もいます」
「それは珍しい」
 リムメルの父が口を挟んだ。
「お父様、珍しいの?」
「ああ。五区が人気なのは知っていたが、わざわざ土産を買ってくると言う事は、このグループを指定して仕事を入れているってことだ。よほど気に入ったのだろうな」
「とても気持ちは分かります。トトさんも他の地族も可愛いから、私もまた来たいです」
 ノイリがいうと、ヘイカーがああと頷く。
「ひょっとして、その魔族は女性ですか?」
「はい。よくお分かりに」
 トトはその問いに驚きながらも肯定した。
「この子達のような女性は、意外と多いのかも知れませんね。キモカワイイやら、女性の趣味は分からない」
 男性三人は揃って笑った。
 ノイリには、彼らの方が分からなかった。こんなにかわいいのに、理解できないなんて。
 
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2008/12/27   窖のお城   357コメント 2     [編集]

Comment

 

N1609     2008/12/27   [編集]     _

「はしゃいで踊り出した」もう想像するだけで萌です。
しかも宝物を見せたいなんて健気ですね。
可愛い!可愛いよ地族!!
最後のノイリの感想に激しく同意です。
五区の魔族の女性……テルゼのお姉さんでしょうか?

うなぎ1610     2008/12/27   [編集]     _

はしゃぐ地族の人たちが可愛すぎる。
踊りはメキシカンな感じを希望W


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