白夜城ブログ

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 見張り台から、ガラス越しに作業の様子が見える。
 分厚くて大きな透明のガラスがたくさん使われた窓だ。ほとんど無色透明で、こんなガラスがこんなにあるなんて、とても贅沢である。でもこれならガスも入ってこないし、全体がよく見える。指示も管でしているようなので、ここを閉じてしまえば安全だ。
「各所にガスの警報機を置いてある。
 使い捨てにするのではなく、上手く使えば地族でも経験を蓄えていく」
 地族は地面を階段のように掘って、天井になるところから穴を広げている。これならはしごもいらないし、効率よく掘れる。
 天井には、魔法陣が書いてあり、それが天井の崩落を防いでいる。所々、柱として天地をつなぐ土が残され、それにも魔法陣が書かれて、天井の支えとしている。
 地下では、こういった不思議な魔術が多い。天井を支える魔術は死活問題なので、一番発展した分野らしい。
 しかし地族達は、硬そうな地面を、道具を使わずに可愛い手で掘っている。天を支える技術は発展したのに、穴を掘る方法はとても原始的だ。
「エンダー様、地族は手で土を掘って手が痛くないんですか?」
「彼らは土を掘りやすい手をしているんだよ。彼らの手は土をプディングのようにしてしまう魔力があるんだ。ああやって、岩でも掘り進めてしまう。だから彼らは地族なんだ」
 ノイリは目を見開いた。
 あのサンショウウオ達に、そんな凄い力があるとは。
 ああやって土で汚れて、水浴びを楽しみにしているのだ。とても可愛い。
「エンダー様、視察の早々で申し訳ないのですが、そろそろ地族達の目標地点です。彼らをどかせて、魔法陣を書いていただこうと思うのですが、よろしいでしょうか」
「ああ、そうしなさい」
 ノイリはわくわくしながら、現場監督の男が指示を出すのを待った。男は下に指示を出していたのとは別の管に口を近づけ、
「穴掘り、そこまで。指示があるまで水場で休憩よしっ!」
 その声は大きく外に響き、地族達は顔を上げて指示を聞き、少しはしゃぎながらぞろぞろと出口に向かう。
 別の人間が下に降りて、地族達に指示を出す。
「水浴びはどこでするんですか?」
「ここから五分ほど歩いたところにある川です。農地や居住区は水が必要なので、川の近くに作るんですよ。その川をあいつらの水浴びにも使わせるんです」
「すごくはしゃいでいました」
「そりゃあ、これだけ乾いた土ばかり掘っていたら、人間だって水浴びが出来れば嬉しいですよ。温泉なんかあると、もっとおおはしゃぎするんですがね。
 魔族の方々も、ここの地族は意外と愛嬌があるとおっしゃるんですよ。他所ではもっとひどい扱いを受けて、愛嬌もなくなっているんでしょうね。少し馬鹿だけど、ちゃんと話も出来る可愛い奴らなのに」
 ノイリと一緒で、エンダーに飼われているからよかったのだ。コアトロだったら大変だったに違いない。
「あのぉ」
 先ほど下に向かった人間が、戻ってきて顔を半分中に入れて声を掛けた。
「すいませんが、トトをお借りしていいでしょうか?」
 彼は申し訳なさそうに言った。
「どうしたの?」
「いや、なんでか知らないが、下の連中が水場に向かわずに入り口にたむろしているんだよ。待っているって聞かなくて、トトからどうにか言ってもらえないかと」
「わかった。
 エンダー様、少々お待ち下さい」
「ああ、行っておいで」
 トトは出ていくと、ものの数分で戻ってきた。
 戻ってきた彼は、解決したという様子ではなく、すまなそうに手をすりあわせながらちらとノイリを見る。
「トト、どうかしたのか?」
「いや、あの、彼らは……その……天使様が出てくるのを待っているそうです」
 トトは俯いて申し訳なさそうに言う。
「ノイリを? なぜ地族の連中が?」
「彼らは人間が作った天使の像をいたく気に入っていて、いつも水場に飾っているのですが、どうやら彼らなりに天使を信仰しているようなんですよ。まさかここまで天使に対して真剣だとは。彼らが水浴びをしないで他に何かを求めるなど初めてでして……」
 ノイリは首をかしげた。
 そんなに天使に似ているのかと、首を後ろに向け、自分の翼を観察する。
「もしよろしければ、姿だけでも彼らに見せてやっていただけないものかと思いまして」
「そういえば、さっき慌てて姿を隠していたな。
 姿を見せるぐらいならかまわんよ。先にヘイカー達に事情を説明して、準備をしておくれ。興奮して押し掛けられるのだけは避けたいからな」
 ノイリはあの地族達の所へ降りる事になり、少し嬉しかった。
 逃げてしまったから、嫌われたのだと思っていた。嫌われていないのなら、とても嬉しい。
 
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2008/12/25   窖のお城   356コメント 5     [編集]

Comment

 

N1604     2008/12/25   [編集]     _

ノイリサイドとルーちゃんサイドは時系列がずれてるから、どっちの展開も気になりますね。
可愛い子が可愛いものを愛でるって和みます。
アホロートルの可愛さに目覚めてしまいました。
あんまりグッズがないのが残念( ´・ω・`)

うなぎ1605     2008/12/26   [編集]     _

地族の子供とかかわいいんでしょうねw
喋るサンショウウオとかアホロートルとかトカゲとかヤモリとかいたらな・・・

1606     2008/12/26   [編集]     _

岩をプティングのような硬さにする……
昔ドラえもんの映画で見た道具を思い出しました。

しったら1607     2008/12/26   [編集]     _

地族達の喜ぶ様子。。。めっちゃ可愛い!!

とーこ1608     2008/12/27   [編集]     _

地族の子供はアホロートルのブラックを思い出して想像すると、それはもう可愛いかと。
アホロートルの意味は「水遊び」です


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