白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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 ある日、いつもの厳しい訓練の最中、ずかずかと寄ってくる王子様とニース様の姿を見た。あの方達も団長と同じくあまり姿を見せない。団長は事務処理や出張が多いからだが、あの人達はさぼりだと皆は言っている。貴族としての、王族としての仕事をしているらしいが、中身は遊びであるらしい。
 今日はなぜだか知らないけれど、勝ち誇った顔をしているような気がする。無理難題でも押しつけるつもりかもしれない。そんな風に私を虐められることで浮かれるほど私はお二人を虐めていただろうか? 何もしなかったらチクチクと虐められるから、その前に悪気がない振りをして退散させていたのが、さすがにまずかっただろうか。
 あの二人をやりこめるという理由だけでも、上司の覚えだけはよくなったのだが、やはりすり寄るのも大切だろうか。何といっても、いたいけな少年に対しておとなげのないお二人である。
 とりあえず私は、無垢な瞳で目の前に立つお二人を見上げた。背の高い男性はいい。ニース様ほどの長身だと、自分の背が平均ぐらいに縮んだような気持ちになる。
「おい、貴様に特別な任務を与える」
 ニース様が嬉しそうに私に人差し指を向けた。
「任務とはどういった内容ですか?」
 ヤバイことでなければここで話すだろう。
「お前のその無闇やたらと貧弱で女々しい容姿が必要だ」
 ゼクセンがかばうような場所に立っている。かばわなくていいから。確かに私にも当てはまるが、あんたにも当てはまってるんだって。
「体格に合う婦人服を探さねばならないから、ついてこい」
 しかし、今度は私ではなくゼクセンに来たか。
 いつか彼にもとばっちりが来ると思っていたのだが、このような手段で来るとは予想外。彼も姫様と仲がいいから覚悟はしていたが、この場合は覚悟の問題ではない。予想外にもほどがある。
「る、るーちゃんは女装なんてっ」
「だからゼクセンだろう、この流れは」
 女顔の自覚がないらしく、この男はまだぼけたことを言う。私が気張って女装したところで、男の姿をした状態のこいつのほうがはるかに可愛いというのに、自覚がないなど、もはや女の敵とも言えよう。
「誰がその男女に女装しろと言った。ルーフェスに決まっている」
「え、私ですか? 今その口で男女と言ったのになんでまた私が?」
 女だとばれた雰囲気ではない。女装させることで笑ってやろうという腹の黒い雰囲気だ。姫様に見せて笑いものにしようという、そういう雰囲気だ。
 ニース様は男を排除するんじゃなくて、もっと素直になった方がまだ可能性があると思うのだけど、相手が魔眼女という世間体を気にしすぎて素直になれないらしい。
 しかし、姑息なことである。
「なぜ私が? 女性に見えなくもないと思いますが、程々に似合っておもしろい出来映えではありませんよ?」
 彼らが求めているのは違うものだろう。指を指して笑うとかを求めているのに、ほどほど似合いそうな私に女装させてどうする。
「ちまたでは連続殺人が起きている。娼婦ばかりを狙った」
「はあ。それでなぜ私が? ゼクセンならともかく、私は女装しても女に見える程度だと思いますよ」
 狙われるとは思えないだ。
「それでいいんだよ」
 王子がにやにや笑いながら言う。ああ、サディストの血を刺激してしまったようだ。どうしよう、恐ろしい。
 私が華奢で殴ったら折れそうだからか、他の騎士にするような乱暴なことをしないのが救いだ。
「凡庸な私には王子様のおっしゃる事の意味が理解できません。王子様の方がきっと似合います」
「そんなことは言われなくても分かっている」
 分かっているのか。自信満々だな。まあ、姫様なんて怪我をしていても美人なのだから仕方がない。
「狙われるのは、街角に立ついかにも売れ残りましたという痩せた女だそうだ。買い手がいなくて立ち呆けているところを狙われる」
 今までで一番むかついた。
 その通りだが、その通りだが腹が立つ。私まだ十二歳の女の子なのにっ!!!
「殺人鬼は恐ろしいが、彼女たちも仕事がなければ生きていけないからな。まだ町に立つ女はたくさんいるが、その中でもそういう女ばかりが狙われる」
「いや、そんな事をここで堂々と話していいんですか? ひょっとしたら犯人がいるかもしれませんよ」
「それはない。町へと脱走した者はいないし、シフトと犯行日時が合う者はこの中にはいない。誉れ高い我が国の騎士が、娼婦殺しなどするはずがないだろう」
 あなたに虐められて鬱憤がたまってそうな人がいるから、そうとも言い切れないと思うんだけど。ニース様の方なんて強すぎて本当に誰も勝てないぐらいだ。
「お前はそこらの石ころも武器に出来る。というか、お前は本来こういう任務の方が向いているんだ。諜報部が喉から手が出るほど欲しいと言っている」
 この力だから、欲しがられているのはおそらく事実だと思う。誰が好んでそんな暗い道を歩むか馬鹿野郎と言いたかった。
「フォローはしっかりしてやろう。世のご婦人の安全のためにも、囮になれ。緑鎖に恩を売るチャンスだ。人材とは、幅広く揃えてこそ価値があるのだと思い知らせてやれ」
 緑鎖とは警察の事だ。元々は騎士団の一つだったために、名前にそれっぽさが残っている。田舎に行くと緑鎖は地元民による自警団のような立場で、魔物退治をしてくれる騎士達の方が立場が強い。だから人の犯罪が多い都会ではそうでもなかろうと思っていたが、まさかそんなに無能だとは思わなかった。
 王子様にとっては私をからかえて、どうやら嫌っているらしい緑鎖に恩を売れて、一石二鳥。
 田舎ならともかく、王都で警察が治安の事で騎士団以下など、ちょっと頭が痛い。
「なんで私がそんなストレスの溜まりそうな契約外の時間外労働を……」
「がめついやつだな。残業代と特別手当ぐらいはつけてやろう。僕も本当はこんな面倒な事はしたくないし、気持ちはよく分かる」
 絶対に自分から首を突っ込んだのに、よくもそこまで言うものだ。
 ここでごねても私の利益になる事はないだろう。不安はあるが、まあ着替えさえ乗り切れば大丈夫だ。
「……わかりました。でも不安だから、ゼクセンもつれていっていいですか?」
 拒否権はないのだろうから、頑張って悲惨な女装をしてみよう。ゼクセンを連れていけば、女だとは疑われもしないだろうし。
 …………やっぱりむかつく。

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2008/01/28   詐騎士   33コメント 0     [編集]

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