白夜城ブログ

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 エスティーダは使用人をさがらせ、一同を見回した。
「おるのは五、六、七、八区の者だけか。他の者は?」
「部屋で食べるって。遠いところは代理だし、三区王は一緒に仲良く食事って間柄ではないし。
 嫌いな相手がいないからちょうどいいだろ?」
 テルゼはくすくすと笑う。
「しかしリウドがここまで来るのも珍しい」
「ティリスが子守を引き受けたから、迷惑を掛けるお詫びに来たんですよ、陛下」
 妖族の八区王、リウドはくししっと笑った。
 彼は小柄で、人間が思い描く悪戯者の妖精に近い姿をしている。綺麗な羽のある妖精ではなく、小人といった雰囲気の妖族だ。とても可愛い。
 前に一区で助けてくれた妖族はもう少し細くて背の高いタイプだった。妖族にも色々と種類がいるのだ。
「テル坊が何を考えてるのか、俺にはなんとなーく分かりますけど」
「そういえば、テルゼに悪い遊びを教えたのはそなたか。ティリス、その子らをリウドに係わらせてはならぬぞ。そうなればユリアがあまりにも哀れじゃ」
 言ってエスティーダはお茶を飲む。
 地上のお茶で、地下ではとても高級品だ。気候を合わせるのが大変ならしい。
 エスティーダはそれをよく味わい、カップを置いた。
「商売をしたいそうだよ、その男は」
「え? 商売? テルゼが? 何の?」
 ティリスは初耳だったらしく、目を丸くした。
「地上で奪略でも、騙すように仕入れるのでもなく、まっとうに商売をしたいそうじゃ。地下の物は地上では高値で売れるから元手はそれほどいらんと」
 ノイリはテルゼを見て納得した。
 彼なら人なつっこいし、商売に向いている気がしたのだ。
「いくらなんでも、まっとうに商売を始めたら気付かれるわよ。馬鹿じゃない」
 ティリスは弟に向かってズゲズゲと言った。
「そりゃあ七区や三区の上でやったら気付かれるよ。とくに七区の上の奴らは、なまじ肌の色が魔族に近いから、魔族には敏感だからさ。
 でもここの上って、魔族も褐色肌の人種は珍しいだろ。外国から来たって言えば逆に怪しまれないんだよ。五区寄りなら、目の色さえ誤魔化せば」
 テルゼは自分目のに手を当てた。
「ほら、これで誤魔化せる」
 テルゼの眼が青くなっていた。
「すごーい。どうやるんですかぁ?」
「ふふふ、これは俺の秘密の技だから、ノイリにも教えられないな」
 テルゼがにししと笑った。
 少しリウドに似ていると思った。
「目の色を変えるなんて不要な技術を……」
「何言ってんだよ姉さん。こうしなきゃ地上でナンパなんて出来るわけないだろ! 俺は必要な事だけは頑張るタイプなんだよ」
 必要な事だけでも頑張って、結果が出せるのだからテルゼは凄い。世の中、出したくても結果が出ない人の方がずっと多いのだから。
「ほんと、ナンパのための努力は惜しまないわね、あんた」
 目的はともかく、頑張るのは良い事だ。
「ナンパのためだったけど、結果として他にも使えるから良いだろ。
 まあ、仕入れ程度なら、簡単な変装でどうにでもできる。売るにしても、目立つ事しなきゃ闇族なら出来る。
 現にこのお茶だってそうやって誰かが変装して買い付けた物だろ。だから必要以上に高い」
 テルゼは目の色を元に戻す。
「正体隠してたら、ろくに商売も出来ない。俺が本当にやりたいのは、魔族と名乗っての正式な商売だ」
「は?」
「まあ、長い目で見るけどさ、人間と地下を限定的にでも周知の交易をしたいんだ」
「はぁぁぁあ?」
 ティリスは顔をしかめて身を乗り出した。
 ノイリは首をかしげた。
 ティリスがそんなに反応するほど馬鹿げた事だろうか。
 騙して仕入れるより、普通に仕入れた方が良いではないか。
 ノイリも魔物は怖いものだと思っていたが、ちゃんと話も通じるし、普通は人も食べない。
 ただ種族が違う意外に、壁はないはずだ。
「すごく良い事だと思います」
「だろ。ノイリもそう思うだろ。話し合いだって可能なのに、今までしなかった事がおかしいんだよ!」
 ノイリは何度も頷いた。
「はい。
 だって、人間は魔物の事を知らないだけなんです。だって、魔物は襲ってくる時にしか会いに来ませんから」
 テルゼはため息をついて脱力する。
「そうなんだよなぁ。
 その最悪な印象が、一番の壁なんだよ。全部盗賊達のせいなんだよっ! もっと厳しく取り締まらない俺らのせいなんだよっ! 厳しくして物流が減ったら文句を言う一般人のせいなんだよっ」
 つまり、全員が悪い、と。
 テルゼは頭をかきむしる。
 話をする席に着くのが、一番難しいのだと、ノイリにも分かった。
 地上の人間は、無限に広がる閉鎖空間である地下に入り込むのを恐れているので攻め込んでこないが、魔物達は隠れる先、逃げる先がどれだけでもある地上に簡単に出てこられる。もしもの時は地下に逃げ込めばいい。
「人間からしたら、俺達は悪魔だよなぁ、やっぱり」
「はい、魔物はとっても恐いです」
 ノイリの言葉に、テルゼは脱力した。
「俺の寿命が尽きるまでに、どうにかできるといいなぁ……」
 人間の数倍は生きる魔族の寿命が尽きても不可能かも知れないほど大事なのだ。
 ノイリはテルゼの覚悟を見て感動した。
 本当にいつかそんな日が来たら、ノイリも嬉しい。


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2008/11/04   窖のお城   305コメント 6     [編集]

Comment

 

1230     2008/11/04   [編集]     _

王子様との出会いだけで、成功しそうなフラグがいくつもたったように感じるのだが……
世の中やっぱり運だよね(ぇ

まあ、さすがにテルゼが生きてる間は無理かも知れませんが。


(11/6追記)
下のコメントを読んで、空気が読めてない自分に驚いた∑

-1235     2008/11/05   [編集]     _

とある商家なら、るーちゃんを介してなんとか……なるやも?

-1236     2008/11/05   [編集]     _

ノイリがるーちゃんに頼んだらなんでも出来てしまいそうな気がする。

1237     2008/11/05   [編集]     _

るーちゃんならできそう。

N1240     2008/11/05   [編集]     _

うん、るーちゃんなら出来そうですね。

とーこ1242     2008/11/05   [編集]     _

るーちゃんが鍵なのは間違いないですね
なんたって主役ですし
でもノイリが頼んだから、手段は選ばなくなるので持てる力をすべて使い、速やかに望みを叶えるでしょう。
ノイリのお願いは、るーちゃんの秘めた力を引き出すに違いありませんから。


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