白夜城ブログ

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
誤字の報告はこのフォームからお願いします


魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

--/--/--   スポンサー広告     [編集]

6

 季節外れの流行病で、周囲がばたばたと倒れた。
 けろりとしている私とゼクセンは、渋々と対応に追われる。
「っていうかさ、なんで真っ先に倒れそうなお前ら平気なんだ?」
「姫様が作った病避けの薬を飲んでいるからだと思う。つまり実験台だ」
 一番に倒れて一番に復活した友人の問に答える。まあ私も身体が弱いから、本当なら彼の予想するとおり真っ先に倒れていただろう。
「まさかそんなに効いていたとは思わなかった」
「月に一度飲みなさいって言われるんだよ。すごく不味いの」
 ゼクセンでもこれだけは嫌がり、しかし命令に逆らえないので従っている。
「でもすごく高価だ。しかも予防だから、いまさら配っても意味はない。意味があったのは、私が親切で無理矢理飲ませてさしあげたサドコンビだけだな」
「サドはお前だっ!」
 いい事をしたと満足していると、後ろから髪をつかまれ持ち上げられる。
「人を動けなくして無理矢理に口に入れて苦しむ様を観察してから嚥下までさせるなどっ」
 持ち上げられる手に従い、身体を浮かし痛みを緩和する。
「ええい、お前は風船かっ」
 意味がないと知ると手を離す。痛かったのでありがたい。
「王子様、ごきげんよう」
 美形王子に、精一杯の笑みを向けた。これが乙女心というものであろう。けっして危ない気持ちではない。純粋な憧れと尊敬からの笑みである。
「ルー……お前、本当に……なんて恐れ多い事を……」
 同僚が顔を引きつらせる。
 ただ王子様を動けなくして、液体の薬を口に含ませて嚥下するまでを見守っただけである。その時には間違ってはき出せないように口を開かないように支配して、飲み込むのを待っていたのが気にさわったようだ。飲み込まないから親切心で飲み込ませてあげたのに。
 こんな善意を理解してもらえないとは少し悲しい。
 でもあの時は、とってもドキドキした。王子様に対していい事をしていると思うからこそである。すべては善意なのだ。今は理解されなくとも、いつかきっと理解していただける。
「お前の『王子様』は馬鹿にされている気分になる!」
「そんな……憧れの証明なのに」
 王子様には憧れている。見た目だけはとても好きだ。それが乙女心というものだろう。きっと。
「殿下、るーちゃんは殿下のことが大好きなんです。実家にいたときから、王子様とかお姫様に夢見てたんです」
「お前は夢見る乙女かっ」
 その通りだ。何が悪い。心は乙女だ馬鹿野郎。
「るーちゃんは身体が弱いから、小さなころから本ばかり読んで夢見がちなんですっ」
 それは本物のルーフェス様のことだろうに、混同するなと言いたい。私は色々と苦労しているから歳に似合わない超現実主義者だと人からも言われるぐらいだ。
「その身体が弱いというのも信じられないな。真っ先に倒れそうなものなのに」
「だから、完全防備なんですよ」
 私は腕輪に、ペンダントに、上着の裏にと身につけている護符の数々を見せる。
「手作りか?」
「こいつが倒れた頃、姫様が持ってきてくださいました」
 だから元気なので、皆にすりつぶさせた薬草を調合して一人分づつに分けていっている。この単純作業には飽き飽きしている。
「そうだお二方。病に伏した下々の者達を哀れんで、一緒にお薬作りませんか? 薬の知識がある方が手伝ってくださると助かるのですが。身体の弱い魔術師のほとんどがやられてしまい、医者も半分やられて、残った者達がてんてこ舞いです。
 かといって並の騎士はこういう時に役に立たず、女性に指示を仰いで邪魔といわれてるんですよ。使えない筋肉馬鹿どもです嘆かわしい!」
 手伝ってくれているこの二人は、かろうじて飽きっぽくなくて単純作業を手抜きせず丁寧に延々と行う事に文句をいわないでやってくれるのだ。丁寧さが大切なのだ。
「まあ、緊急事態だから手を貸さないでもないが」
 さすがは王子様。サドで外道だが、さすがにこのままだとヤバイと考える程度のおつむはある。
「じゃあ、そこに座ってください。そしてこれをその天秤と釣り合うように小分けして下さい。ニース様はこれを丁寧にすりつぶしてください」
「まて、なんだその単純作業はっ」
 ニース様が机を叩こうとするが、風圧さえ恐ろしいので傀儡術で操り阻止する。
「薬です。タダでさえ不足しているのに、散らばったらどうするんですか。こういう時に短気な方は使えない男と後ろ指を指されるんです。姫様も部屋で延々と似たような作業を続けているんですよ。城内の感染だけで抑えるためにも、この作業は大切なんです。城下まで流行りだしたらどうするんですかっ。その時は姫様に、ニース様の筋肉馬鹿な無能振りをたっぷり語りますからね。それが嫌なら邪魔をしないで下さい」
「ぐっ」
「気が短い人はかえって邪魔なので、運搬でも調理場の野菜の皮むきでも何でもしててください。そしたら役に立っていたと報告して差し上げます」
 王子様は黙って作業を始めた。彼もどちらかと言えばこちら側の人間だ。薬物を扱うような事はあまりしないだろうが、扱った事がないはずがない。ここで何もしなかったら、役立たずの男として誰かが噂を流すのを、よく知っている。
 魔術と縁のないニースは、友人が素直に作業に没頭するのを見て、渋々手伝い始めた。筋肉馬鹿呼ばわりされたのがよっぽど嫌だったようだ。そして、ここでそれに切れて暴れるほど馬鹿でも短気でもない。最低限のラインは越えていないようで安心した。
 気晴らしにもなったし、これで作業効率が良くなる。
 私もそろそろ疲れて飽きてきた。終わったら何か腹に入れて、おもいきり爆睡しよう。

back menu next
誤字の報告はこのフォームからお願いします


魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

2008/01/23   詐騎士   30コメント 1     [編集]

Comment

 

-571     2008/07/09   [編集]     _

この場面、何度読み返しても、王子様に無理矢理嚥下させてドキドキしているルーちゃんにドキドキします。

Sだなぁ、ルーちゃん。そんなとこが素敵だ。


Pass:   非公開:    

.

最新記事のRSS

.

更新履歴 カテゴリ コメント

.

.

拍手

.

リンク

.



.

.

.

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。