白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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5

 騎士の決闘には作法がある。
 1、決められた武器のみ使用(危ないから真剣は使わない)
 なんかこの辺がもうへたれ過ぎていて笑える。
 2、顔、喉、金的など、急所は狙わない。
 なんかもうスポーツだこれは。
 3、胸の紋章を破壊した方が勝ち。
 昔は本物の紋章を使ったらしいが、今は細くて弱い木と丈夫な紙で出来ている。騎士の誇りである本物の紋章を傷つけるなどけしからんといいながら、やっぱり脆くないと相手を殺すつもりで突く事になるから、危険防止の為だろう。脆ければ勝負は比較的簡単に付く。
「…………本当にやるんですか?」
 かなり馬鹿馬鹿しいのに、見物人が凄い。姫様をかけての決闘だと触れ回った馬鹿がいるから。
 それはもちろんゼクセンを中心とした、ここで出来た友人達のことである。
 人の気も知らずに恐ろしいことをする。おかげで、ニース様狙いっぽい若い女性にとっても熱烈に応援されている。
「もちろんだこの卑怯者! 人の食事に毒まで盛るとは、見下げた男だ」
「あ、私にも毒が送られてきましたよ。たぶんしびれ薬だったんですが、使って下さいって手紙が添えてありました。
 だからといって使ってませんよ。やるならもっと上手くやりますから。私が本気でやってたらニース様は今頃ここにはいませんよ」
 ご婦人方は私が卑怯なことをして勝つことを望んでいるらしい。ニース様が姫様をかけて決闘なんて広めるから、姫様に取られてたまるかという、恋する乙女達にとって一番の妥協案だったのだろう。普通に負けるのでは、ニース様にとっては不名誉である。私が卑怯であればある程よい。乙女心の複雑なことか。
「いいから構えろっ。観衆の前で恥をかかせてやるっ」
 うーん。姫君を巡って決闘など、私の柄ではないし、ルーフェス様もやめてと言っている。やめていいらしいのでやめたいが、彼はやる気満々だ。いたぶられそうだ。ルールがあると私は弱い。
「情熱的なんですね」
「意味不明なことを言って、惑わすつもりか。これだから魔術師は」
 情熱的だからこその決闘だろう。そうでなければ、こんな回りくどいことはしない。
 始めの合図は仲立ち人の王子だ。なんかこれがもう不公平感バリバリである。
 王子は鼻を鳴らして笛を口にする。鋭い音が響き、それが合図だ。
 私はしぶしぶと、しかし迷うことなく行動した。
「えい」
 と気合いを入れて、自分の紋章を潰す。
 ニース様こけた。
 だって痛いのは嫌だもん。
「き、貴様、何を考えている!?」
「いえ、なんか姫様をかけての決闘らしいので、私などでは姫様にふさわしいはずもなく、ここは身を引くのが一番だと思いまして」
「何!? なんだそれはっ!? 誰をかけていると言った!」
「え、だってご婦人方がそう言って私を応援して下さるんです。心苦しいのですが、やはり姫様は天上の方。不相応に過ぎます。やはりニース様のような貴公子でないと」
「だ、誰がそんな話をっ」
 彼はこの騒動の本当の意味を聞いていなかったらしい。主催者のくせに噂が届かないとは情けない。彼ほどの身分の者には、下世話なうわさ話を吹き込んでくれる使用人の知り合いはいないのかもしれない。もしくは使用人はわかりきった事として、口にしなかったか。
 とりあえず、私は不思議そうに彼を見つめてみた。
「私が姫様に馴れ馴れしくしているのが気に食わなかったのですよね。本当に情熱的でうらやましい」
 ニース様がおろおろしはじめた。
 サディストを言葉責めなど、滅多に出来ることではない。しかも私は心の底から、いい人として言っているのだ。信じ抜いているのだ。
 ニース様たじたじ。意味が分からず周囲を見回している。
 ああ、なんて楽しいのだろう。
「私は分をわきまえております。ニース様のような立派な騎士になることが夢。ニース様の壁になろうなど、恐れ多い」
 ニース様顔が赤い。
 ついには近づいてきて胸ぐらをつかまれた。私は胸がないから大丈夫だ。その事実がちょっと悲しいけど。
「だれがっ! ってか、浮くなっ」
「浮いてませんよ。ちゃんと地に足をつけてます」
「お前軽いぞっ」
「虚弱体質なので」
 そう言い終えるか終えない内に、ゼクセンが駆け寄ってニース様の腕にしがみついた。
「るーちゃんを離してくださいっ! るーちゃんは昔からすごく身体が弱くて、力もないし、すぐに血を吐くしっ」
 手を離してくれた。血を吐くが効いたのだろうか。ならばこうだ。
「こほっ」
 とか言いつつ、口を押さえうずくまる。
「ち、血ぃ、るーちゃんが血を吐いたっ」
「え、ちょ、そんなっ」
 動揺するニース様。そりゃ、自分が胸ぐら掴んでいた相手がいきなり血を吐いたら驚くし焦る。余裕が出ればざまあないとかいいそうだけど、いきなりだからビックリだ。
「ちょっとニース! 黙って見てれば変な噂を立てるは、身体の弱いルーに乱暴するは、何を考えているの!?」
 様子を見ていたらしい姫様が駆け寄ってくる。
 なんか観衆が盛り上がっている。
「…………体調が悪いなら、始めから言え! 今日の所はこのぐらいにしてやるっ!」
 などと言いながら、ニース様は動揺して去っていく。動揺すると逃げるところが、精神的な面で叩かれ慣れていない貴族の坊ちゃまらしい。
「大丈夫かルーフェス。今すぐに医務室へっ」
 担架を持って救護班が駆け付け、私は汚れた口をぬぐい立ち上がる。
「問題ありません。これはあとで使おうと思っていたケチャップですから。ニース様は冗談が通じない真面目な方なんですね。意外です」
 なぜかその日から、私のあだ名は詐欺師になった。

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2008/01/22   詐騎士   29コメント 0     [編集]

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