白夜城ブログ

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 姫様の日課は庭で薬草の手入れをすることだ。温室まであって、薬草の事で不自由することはあまりない。だがたまに不自由することもある。
 私は綺麗な水辺にしかない綺麗な花が咲く薬草の採取を命じられ、ゼクセンを知人に任せて大急ぎで往復した。人が飛べるからって、なんという扱いだと文句を言いたかったが、ルーフェス様のためにぐっと飲み込んだ。
 一つは王太子の解毒に使うらしく、よく知らない執事っぽい人に渡してきた。解毒と言っても、遊びに行った先で間違えて毒のある山菜を食べたらしい。かなり大馬鹿なんではないかと思う。その大馬鹿が私を疲れさせると同時に、上の覚えもよくしてくれた。まあ、結果的にはプラスである。
「ただいま戻りました」
 薬草園で手入れをする姫様に声をかけてから降り立つ。
「お帰りなさい。ごめんなさいね、馬鹿な兄のために。ほっとけば一週間で治るのに、大げさでしょ」
 吐いて下して大変らしいので、仕方がないとも言える。腹違いとはいえあの王子様の兄だが、王子様のように魔力もないし騎士でもないので身体を鍛えてもいない。甘やかされていそうだから、弱音を吐いているのだろう。
「今後のために余分に採取してきましたよ」
「土ごとなのね。上手く育つかしら」
「綺麗で冷たい水とほどよい日陰があれば育つ植物ですからね。姫様なら大丈夫ですよ」
 可憐なつぼみをつけたそれを渡す。
「もうすぐ綺麗に咲きますよ。涼やかな場所で咲く姿は可憐で、姫様っぽい花ですよね」
「あら、よく言うわね。私は日陰の女ってことかしら」
「貴族のご令嬢は外に出ても日陰を作っていますよ」
「貴族の女はみんな日陰者ってことね」
 何か受けたらしく姫様が笑っている。姫様も笑うと可愛い。
「まあ、でも誤食しやすい毒草の解毒剤にしかならない植物に例えるのは失礼ですね。姫様は才色兼備でいらっしゃるから」
「そんなおべっかを言うのはあなたぐらいよ」
「そんなことないですよ。ゼクセンに問えば目をきらきらさせて姫様を心の底から賛美します。うちの地方は魔眼に対してあまり偏見がないですから」
 彼女のような金の目は魔族の瞳に似ているから魔眼と呼ばれる。もちろん魔族の血が混じっているなどデタラメだ。魔力の強さの表れでもあるから、地方によっては誇るべき目とされる。
「私は姫様の目、とても綺麗だと思いますよ」
 綺麗な方の頬にかかる髪を払い、土で汚れた下あごをハンカチでぬぐってやる。土いじりまで自分でするなど、素敵な姫君だ。
「綺麗になりました」
「ありがとう」
 姫様と語り合っていると、なんだか本物の騎士になっている気分になる。ルーフェス様も彼女に淡い恋心を抱いているので、訓練しているときよりも、彼女といるときに視界を欲しがるようになってきた。彼が望むままにするのが私の仕事の一つである。
 姫様の方も性格はいいから意外にもてているのを最近知った。そういった彼女の良さを知る男達は、彼女の兄に怯えて滅多に行動しないだけで、兄の見えないところではアプローチを受けているのである。王子様、どこまで怯えられてるんだろう。
 それに姫様には婚約者もいるらしいから、彼らにとっては高嶺の花過ぎるっぽい。
 ホーンが言うには向こうがベタ惚れしているとのこと。ただし姫様の方はこの傷を理由に婚約を破棄したつもりらしい。
 皆がほどよい距離感だと、心の中で満足していたときだ。
「きさまっ」
 背後で何かが落ちる。私は傀儡術を応用した結界もどきが背後にあるのだ。網のような物だと思えばいい。それに絡み取られて何かが落ちた。
 振り向くと、見知った男前が怒りの形相でたたずんでいた。私の足下には石が落ちている。病弱な私に石を投げるなどひどい男である。
「えと、王子様の腰巾着の人?」
「だれがっ」
「サディスト二号?」
「きさまっ、ふざけるなっ!」
「なんて名前でしたっけ」
 姫様に問うと、彼女は顔をしかめた。
「ニースと呼んでいるわ」
「そう、ニース様ですか」
 背の高い私と比べても長身のいい男なのに、こんなに怒りっぽいなんてもったいない。
「エディアニース・ユーゼ・ロストだ!」
 どうやらすごいお坊ちゃまらしい。ユーゼっていうのは一位の家位。王族の血筋でないと得られない家位だ。
 怒っているので紳士らしく姫様を後ろ手に庇った。
「ニース様、何かご用ですか? 怪我をされたなら医務室に行くことをオススメしますが」
「きさまっもう許さん! 私と決闘しろ!」
 手袋を投げつけられた。身体に触れることなくぽとりと落ちた。
「ここの土、鶏糞とか混じっているから土で汚すことはおすすめしませんが」
 拾って返そうとすると、ニース様は怒って帰ってしまった。
 なんて短気な人だろう。
「拾ったら決闘を受け入れるって意味なのよ」
「そうなんですか? でも、なんであんなに怒ってたんでしょう。声をかける前から怒っていたように思いますけど」
「私に他人が近づくのが腹立たしいみたいよ。友達も虐めてくれるから、あなたぐらい物怖じしない人でないと怯えて近づかないもの。手を出されないのは研究室の者たちぐらいだわ。優秀な研究者まで虐めると支障をきたすから、さすがに叱られるの。まあ、お兄さまにとっては私が邪魔でしかないから、彼も何か周りから言われるみたいで、物心ついた頃からこうよ」
 王子様の足を引っ張る女とか、そういうことだろうか。
 生きるのに必死にならなくていい連中ときたら、本当にくだらない事をする。私には理解できない。



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2008/01/20   詐騎士   28コメント 1     [編集]

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-7   管理人のみ閲覧できます   2008/03/08   [編集]     _

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