白夜城ブログ

黒い頭もお花畑男来襲の続き再録。
 薔薇の花が似合いそうな闇の吸血鬼は、ゆったりとした足取りでイレーネに近づいた。わずかに開いた唇から、獲物をいたぶるように白い牙を見せつける。
 食事をするときの、吸血鬼の顔をしている。
「い、いやっ」
 マディアスだけでも貧血の危機を感じるのに、知らない吸血鬼になど食べられてはたまらない。
「怯えることはない、薔薇の蕾の乙女よ」
 闇の瞳に見つめられ、頭がぼうっと霞んだ。差し出される手を、意識なく握っていた。
「可愛らしい人だ。
 頑なな蕾の乙女よ、私が花咲かせてあげよう」
 柔らかなベッドが頬に触れる。
 鋭い爪が、優しく頬を撫でた。貧しい頃には見たこともなかったような、美しい吸血鬼は柔らかに笑う。常に冷ややかに笑い小馬鹿にした態度を取るマディアスとは大違いだ。
「きっと、大輪の花になる」
 唇が、喉に触れた。
「何が花咲かせてあげようだっ、このロリコンっ!」
 怒声と共に、足が目の前に出された。元々そこには、黒い吸血鬼の頭があった場所だ。
「突然現れたと思ったら、人の所有物を断りもなく汚そうとはいい度胸だ」
 黒い人を蹴り飛ばしたマディアスは、イレーネを持ち上げて喉を確認する。
「食われていないな。お前もあっさりと魅了されるな。まったく、それだけの魔力があれば耐えられるだろうに」
 彼は怒っているようだ。気が短く乱暴な彼が、怒っている。
 マディアスは恐ろしいほど怒りながら、ヒュームを睨み付けた。
「や、遊んでいるうちに来るかなぁ、と」
 はははと彼は笑いながら、起きあがってベッドに手をつき笑う。
「人の女で遊ぶな」
「ははは、すまなかった。可愛らしい乙女だったから、つい一噛みぐらいはと」
「お前だから許してやるが、今度やったら二度と城には入れないぞ」
 一瞬で緊迫は消え去った。
 知り合いなのだ。やはり、知り合いなのだ。やはりからかわれていたのだ。
「ひどい……」
「おかわいそうに、イレーネ様。さあ、こちらへ」
 いつの間にか、そこにはエヴァリーンが立っていた。女性である彼女は、数少ない若干イレーネ寄りの味方である。
「エヴァリーンさん!」
「よしよし、怖かったですね。
 この方は、かなりの変態ですが、イレーネ様がもう少し大人になれば寄ってこなくなりますから」
「ど、どうして?」
「胸が小さくて幼い生娘にしか興味がないからです」
「…………エヴァさん、一緒に寝てもいい?」
「もちろんですわ、ここからがマニアックで長い話がありますから。さあこちらへ」
 二人の抗議には耳を貸さず、エヴァリーンはイレーネを連れ出した。
 それから、分厚い遮光カーテンが幾重にも窓をふさいだ、イレーネの物よりもゴージャスな部屋の、キングサイズのベッドを貸してもらった。

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2008/10/10   おまけ   277コメント 3     [編集]

Comment

 

てと1109   再録さりがとうございます!   2008/10/11   [編集]     _

さっそく再録されていてうれしいです。
反抗期突入までの可愛らしいイレーネ様を堪能したいと思います。
いえいえ、したたかな女王様の彼女も本当大好きですが(笑)

うなぎ1110     2008/10/11   [編集]     _

イレーネ様が一番可愛い無知なときですね。
こいつら変人達によって今のイレーネ様がいるなんて信じられない…
こんな環境で頑張って育った彼女はすごい。

G1111   こんな環境だからこそ…   2008/10/11   [編集]     _

イレーネは“こんな”性格になったんだな…


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