白夜城ブログ

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 感覚が戻ってきて安定すると、立ち上がりどうしようか迷う。
 挨拶をすべきか、ささっと逃げるか。
 悩んでいると、件の王子様ではなく、不吉で傷物の不気味姫ことグランディナ様がこちらに来る。どうやら報告が行ったらしい。
「もう動けるの?」
「歩く程度なら」
「傀儡術は繊細なのね」
「さすがに頭やら腹やら癒した後では」
 簡単に見えるだろうが、本人は必死でやっていたのだ。指も動かないから誤解を受けるなど、かなり損をしていると思う。
「それもそうね。目が回るの? 動けるならついてきなさい。薬を作ったの」
 姫様が私の手を取ってくださる。お姫様に心配され、手まで取っていただけるのは嬉しいが……
「ちょ、新薬の実験台は勘弁して下さい」
「ホーン達にも飲ませたけど経過は良好よ。美味しいって」
 人の兄に何を騙して飲ませているんだ。ジュースとか言って飲ませていそうだ。出される物には今後は気をつけよう。
「グラ、まて」
 王子様の声だ。姫様は足を止め、思い切り見下げた感じの目を向ける。
 二人は似ているが、何か違和感があると思ったら、目だ。王子様の方は目の色が濃いため、金色には見えない。
「挨拶もなしか」
「声などかけては不吉が付きまとうのでしょう」
 男女の双子というのは不吉なものだ。男女の双子は、女が男の出世を阻むとか、殺すとか言われている。迷信深い家だと、今でも片方──ほとんどの場合は女の方を養子に出す。最悪の場合は片方を殺す。
 金の目で双子の妹など、男の方にとってはこの上なく悪いモノである。仲良く育つ方が奇跡的だ。とくに王族では何かと陰口も囁かれただろう。最も近しいはずなのに、近くあればあるほど双方にとって不幸になる。
「お前がなぜそれを回収に来た」
「近くを通ったからよ」
「なぜ騎士などと親しげに?」
 彼女が楽しげにしているとが気にくわないのだろう。彼女は彼にとっては汚点だと吹き込まれていてもおかしくない。
「賢く趣味の合う人間とは楽しく語り合えるわ。そうでしょう」
 姫様が楽しげに語り合う相手など私も今のところ他に見たことがないから、身内からしてもかなり珍しいだろう。それが彼を不機嫌にさせていそうだ。
「新人いびりに精を出すお兄様とは、趣味が合わないから楽しげな会話になりませんけれど。
 サディストコンビが帰ってくるとなぜか私に苦情が来るのよ。けが人を出さないでちょうだい」
 コンビという言葉で、王子の背後に人がいるのに気づいた。こっちは金髪だ。少し鋭い目つきだが、長身のハンサムである。
 ミーハーな女官達が小躍りしそうな超美形コンビである。見た目だけなら、彼らに夢中になる女性の気持ちもなんとなく理解できる。
 だが妹に言われるほどサディストなのだ。気をつけよう。
「ルーは身体が弱いから、ギルの嗜虐心を満たすには向かないわ。どうぞ他の方を当たって」
 姫様に手を引かれた。足の動きが悪いのでゆっくりと。
 あ、なんか睨まれてる。背中に突き刺さる。まさかサディストに目を付けられることになろうとは。
「姫様、結界を常に張っている人間に、相手が手を出して怪我をさせてしまった場合、結界を張っている者は罪になりましょうか?」
「大丈夫よ。お兄様は魔法騎士だもの。自分から結界につっこんでいくなんて他人に知られたら笑いものになる事はしないわ」
 なるほど。
 サドがそんな技能を持っているのは恐ろしいが、さすがは姫様の兄と言える。
「でも、兄は強いから気をつけて」
「気をつけます」
「一緒にいた馬鹿も他人をネチネチ虐めるから気をつけて」
「都会は怖いところですね」
「あの二人が特殊なのよ。もうあそこまでのけが人は出ないと思うけど、さっさと地方に行って欲しいものね」
 地方に行くということは、前線でバリバリと働くタイプなのだろう。私の住んでいた地方にはほとんどいなかった。昔はいた。でも、いなくなったタイプの騎士。
 私の主にとっては、何に変えても守らなければならなかった存在を、人間ではなく魔物に奪われて、あの地方は守られなくなった。
 それは私を雇った主が落ちぶれた原因で、私の足が悪くなった原因でもある。
 そのことを知ったとき、主はすまないと謝罪してくれた。
 一人の孤児に謝罪できるような人であったことも、快く引き受けた理由の一つだ。見下されていても引き受けただろうが、やる気は出なかっただろう。

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2008/01/18   詐騎士   26コメント 0     [編集]

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