白夜城ブログ

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「ルー、けが人だ! 東に走れ!」
 騎士らしさを磨くために奮闘していた私に、めずらしくいる騎士団長が怒鳴りつけた。怒鳴らなくてもいいだろうに。しかも私は医者ではないのになぜ派遣されねばならないのだ。
「なぜ私に?」
「下手に動かせないから、運びながら応急手当をして欲しいそうだ」
「一体何をしたらそんな状態になるって言うんですか。医者はどうしたんです?」
「いいから行けっ!」
 仕方なく剣をゼクセンに預け、自身を空に浮かす。飛ぶのは疲れるから嫌いだけど、緊急ならやらないとあとで飛べると知られた時に責められそうだ。
 私にはまだ用途不明の様々な建物の屋根を蹴って飛び越えて、おおよその方向しか分からない目的の場所を目指す。
 っていうか、なんでこんなに高い建物が多いんだろう。飛び越えるのに苦労するじゃないか。中で働くヒトも大変だろうに。しかも広いし。
 愚痴りながら高く飛んで見回し、それっぽい場所を発見した。
「どいてくださぁい」
 人が群がる上で彼らがどいてくれるのを待ち、件の怪我人を目視して顔をしかめた。
 頭からだくだくと血が流れている。口から泡を吐き、様子が明らかにおかしい。
 これはなかなか動かす勇気はないだろうし、魔法医が来るのが正解だ。魔法医は体力ないし、ここは一番離れたところにある練兵場だ。走って一番早そうなのが私だったから呼ばれたのだろう。訓練場同士は、どうやっているかは知らないが、いつでも連絡を取り合えるよう出来ている。上には傀儡と治療術が得意だと報告してあるから、腰の重い魔術師よりも早く駆けつけてくれれば助かる程度のつもりで呼んだのだ。これは命に関わる。
「誰がこんな事を……手加減知らずだな」
 傷を確認する。艶のない髪に、荒れた肌。手もごつごつしているから、新しく入った平民騎士だろう。
 首には新兵身分を表す証がある。
「誰か、頭部を持って傷を私の手に向けて下さい」
「こうか?」
「はい」
 近くにいた知らない先輩が固定してくれる。初年度以外は相手がどれほどの地位なのか、漠然とした事しか分からない。出世をすると各騎士団の制服と紋章にラインが増えていくのだが、凄い人が出世しているとは限らないので難しい。
 まあ、私は相手に関係なく、けが人を動かせる程度にすればいいのだ。脳に障害が残らなければいいが、そうなっても私の責任ではない。
「…………よし」
 危険な部位を癒し、腹の中などを探りそこも癒し、他の傷を癒し、中に手を伸ばさなくても治療できると確信するまで続けた。
「よし。これで命に別状はありません。
 しかし頭だけではなく内臓も傷ついていましたが、訓練中にどうしてこのような事になるのですか。手加減抜きでやったとか、そういう問題ではない状態ですよ。
 もうこんな重体者の治療なんて神経削られることしませんからね」
 念を押しておかないと、また頼られてもしんどいから避けたい。こんな所には長居は無用。
 しかし立ち上がろうとして、上手くいかない。足から力が抜けてがくりと膝をつき、そのまま尻もちをついた。
 こういう作業の後は過敏になっていて、自分の身体の操作が効かなくなるときがある。本当にああいう作業はきっついのだ。私には向いていないのだ。ほんと病弱な人間に何をさせてくれるんだと文句を言いたい。
「そこの」
 どうしようか悩みながらうずくまっていると、たぶん私に声をかけられた。首を持ち上げ逆光に眼を細める。太陽から目をそらし、その人物を見る。
 すっごくよく見る。よく見ても、見たものは変わらない。
「姫様?」
 思わず呟くほど姫様に似た男が立っていた。もちろん傷なし。美人の姫様男版だから、もちろん色男。身内だろう。王子様だ。美形の王子様だ。金髪じゃないことだけが惜しいが、世の中には絵本の中の住人がいるもんだ。どうしよう。ここはときめき、胸をきゅんきゅんさせるべきだろうか。
「魔術師がなぜ鎧を身につけている」
「先月騎士の称号を賜りました、ルーフェス・オブゼークと申します」
 昔は騎士とは王から頂く称号だったらしいが、今ではただの軍人でしかない。誰がなってもおかしくない。
「立て」
「申し訳ありませんが、先ほどの術の影響でしばし動けません」
 彼はむっとしたようで、力任せに立てようとする。軽いので簡単に持ち上げられるが、杖もないのでバランスを崩して少しだけ話したことのある偉い先輩に支えられた。
「殿下、この者は足を悪くしています。回復するまでしばしお待ち下さい。
 大丈夫か? 日陰に移動しようか」
 肩を借り、木陰に連れられ、そこで人目を気にしながら先輩は言った。
「あの方が犯人だ。ちょっと乱暴な方だから気をつけろ」
「まじっすか」
 他人を傷つけるなら自分に傷を付けるタイプの姫様とは、また真逆の性格の男である。


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2008/01/17   詐騎士   25コメント 0     [編集]

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