白夜城ブログ

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 私はホーンとゼクセンを会わせるために研究施設に度々来るようになり、姫様ともそれなりに親しくなった。
 姫様は見た目も趣味も不気味だが、話してみるとめちゃくちゃ頭がよくて勉強熱心で真面目だった。
 彼女にとっての私も年下でこれだけ話が通じるのは珍しいらしく、細かくて厄介なパーツの取り付けの補助をしながら色々と話しをした。ゼクセンはホーンに授業を受けているから二人きりである。
 私は年齢を偽っているから、年の差は彼女が思っているよりもあるはずだが、まあそれは関係ない。
「騎士どもの中にいるのはもったいないわね。本当にこちらに来ればよいのに」
「申し訳ありませんが、騎士になるのは幼い頃からの夢なので」
 お姫様になりたかったなどとはまさか言えない。彼女を見ていると、お姫様でも条件によっては大変なのだと思うし、彼女のような苦労をしなかったら政略結婚をしなければならないし、まあ騎士でいいかとも思う。どうせ不可能な自分の夢である。
 でも私が言った言葉は半分嘘ではない。騎士になりたかったのは、ルーフェス様だ。私はルーフェス様でもあるから、完全な嘘ではない。この大胆な話が進んだのは、そんな息子の願いを叶える意味もあったのだろう。私は見える物を共有し、この世界を見せられる。色々と道具を身につける必要もあるし、魔力を大量に消費するのであまり長くは出来ないが、彼にとっては唯一の楽しみらしい。
 そして擬似的な恋をするには、はなから手の届かない姫君はちょうどよい相手とも言えた。
 ルーフェス様は、私の憧れたような姫君とは違うが、賢くて美しい姫様が大のお気に入りである。
「理解できないわ。なぜ騎士などに」
「あまり長く生きられないと言われている身体ですので、やりたいことをやるんです」
「…………生きられない?」
「身体は魔力で動かせても、病状を止めることは出来ませんからね」
 三年も生き延びたら奇跡。そう言われているのを私も彼も知っている。私が騎士をするのもせいぜい二年。
 だから私は彼が生きている間に、彼として名を残す。それで彼が満足できるか知らないが、それが私の仕事だ。周知しておけば、突然病状が悪化して実家に帰るときもそれほど疑われないだろう。姫様にとっては、目の前にいる人間が数年後には死んでいると言われてかなり嫌な気分だろう。それに関しては悪いと思っている。しかしルーフェス様と子供達のためだ。やり遂げなければならない。
「ここにはいい医者がいるわ」
「色々と呼びましたが、どうしようもないそうです。だから親は好きにしていいと」
「そう」
 姫様はそう言うと、先ほどと変わらぬ作業に戻る。ペースも変わらない。さすがは姫様だ。
「好きなことをしているの?」
「ええ。姫様は?」
「この目と傷のおかげで、好きなことをしているわね」
「だから治さないんですか、それ」
 外傷というのは、完全に綺麗にするのは難しかったとしても、お金をかければここまで汚く残っているはずがない。今からでも十分に目立たなくさせられるはずだ。
「そうよ。どうせ完全には治らないし、道具としても使われない」
 道具とは嫁ぐという事だろうか。お姫様は大変だ。私なんて女としては何の価値もないから、頑張ってそんな事をする必要もないのだ。
「しかし、どうしてそんな奇妙な火傷になったんですか。火の中に手を突っ込んだようにしか見えないのですが」
「本を燃やされて手を入れたの。顔は髪が燃えて。本は結局半分以上ダメになって悲しかったわ。
 でも、偶然ホーンの実家に同じ物があったから、写しをもらったのよ。ありがたいわ」
 ホーンが出世してここに出入りするようになったのは一年ほど前らしい。
「…………そういえばあの頃、頼まれて写した記憶が」
「あれ、傀儡術で書いた字なの。達筆なのね」
「手で書くよりも上手いですよ。手で書くよりも早いですし」
「そう。便利ね」
 そう言って姫様は続ける。手でこれだけ気の遠くなるようなことが出来るのだから、この人もよほど好きなのだろう。
 毎日では身が持たないが、たまにこんな余暇を過ごすのもいい。
 ルーフェス様は喜んでいるから、変な噂が立たない程度に、時々視界を共有して、彼にだけは楽しんでもらおう。ルーフェス様が喜んでくださると、私も嬉しい。


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2008/01/15   詐騎士   24コメント 1     [編集]

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-6   管理人のみ閲覧できます   2008/03/08   [編集]     _

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