白夜城ブログ

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 どうしていいか分からない者が寄って話していても意味がない。だから同族のノイリが説得に当たる事にした。
「あの、はじめまして、ノイリです」
 天族の声は力だ。簡単に猿ぐつわは外せない。ここで暴走などしたら、弱った彼など死んでしまうから。
「落ち着いてくれたら、拘束を解きます。落ち着いてくれないと、暴走してあなたも死んじゃうから。
 空がないから、自分にも来るんです。抑え方は分かりますか?」
 ノイリが言うと、彼はふーふーと息を吐きながらも少しだけ大人しくなった。
「歌わないでくださいね。歌ったら殴り倒してもらいますからね」
 念を押すと、テルゼが猿ぐつわを外した。
「なんっ……の……」
 そこまで言うと、再びふーふーと荒い息を吐く。歌わないのでノイリは安堵した。
「言葉は分かるみたいで安心しました」
 彼らもちゃんと言語で会話しているのだ。ノイリの声帯が人間と同じようにしか機能しないから予測はしていたが、いざ目の前にすると感動する。
「しゃべるのに慣れてないのか? 落ち着け」
 テルゼが天族の薄汚れた金髪の頭に手を置いて問う。
 彼は口をパクパクさせて、聞き取れない風に話す。その瞬間、ばちりと火花が散り、驚いて離れる。
「ちが……う」
 彼は驚いたようにしゃべった。ノイリは首をかしげ、ああと頷いた。
「ああ、いつも空を飛んでいるから、発声の仕方が違うんですね」
 だから普通に話すのに苦心しているのだ。
 彼も先ほどのような攻撃を故意にしたら、自分が危ない事ぐらいは分かっているはずだ。
 それが分かるなら、話し合いは出来る。
「どうして人間に捕まっちゃったんです? 普通、私みたいに生まれつき飛べない以外は捕まりません」
 彼はノイリを見て目を見開いた。
 見開いて、後ろに飛び退く。よく見れば、翼に添え木がされていた。翼が折れて、人間に捕まる隙を作ってしまったのだ。
 彼もノイリの翼を見て、首をかしげ、思い至ったように言う。
「天族!」
「はい」
「デブっ」
 ノイリはエンダーの背中に隠れて泣いた。
 デブだ。ノイリはデブ天族だ。今更それを実感した。
「こら、ノイリに何てことをっ! お前達が化け物じみたガリなんだよっ! ノイリはスマートだ!」
 テルゼが天族の男の子の頭をはたく。一瞬ぱちりと火花が散った。
「って!
 こりゃ、完全に封印を解くのは無理か。本人にもコントロールが出来ないって、カティーセが言ってたしな」
 白ネズミの可愛いカティーセは物知りで、とても本好きだ。色んな事を知っている。ノイリを見て、天族に興味を持ったから調べたのだ。
「でも、後ろ手だとお水が飲めません。あと、空を飛べないなら、何かで発散させないと」
 ノイリは涙を拭って進言する。泣いていてもノイリがデブなことに変わりない。たとえデブだろうと、エンダーが今がいいと言うなら、それでいいのだ。
「何か?」
「何もないところで放電したり? 空がないから嵐は呼べないから、うっかり放電が一番危ないです。私の癒やしの歌は生まれつきだから、その子には出来ないと思います」
「んじゃ、人間が飼ってても癒しの歌の天使様には出来なかったってことか」
「ん……たぶん」
 人間だって、地下で育てば地上の事など分かるはずがないように、天族のことなどほとんど知らない。
 ノイリが自分の事を最低限でも知っているのは、知っていないと死んでしまうかも知れない最低限の知識だからだ。
「本当は飛べばそれだけで魔力は使われるから、翼が折れた普通の天族なんてどうすれば生きていけるのか……」
 ノイリはとても困った。ノイリは不完全なため、実体験から疑問に答える事は出来ない。
 魔力に劣っていないから、健全であればノイリと同じ生活をしていれば生きていけるはずなのだが、翼が動かなくなった事など無いから、ノイリはどうしていいのか分からない。
 だから考える。
 翼を動かす事は、天族にとってとても大切だ。膨大な魔力を逃がすための手段なのだ。ノイリはその力が弱いから、歌って力を抜いている。
 普通の天族は軽々しく歌わない。
 本来なら、天族の歌に癒しの力などない。嵐を呼ぶ、破壊の歌なのだ。
 ノイリとは違い、彼は普通の天族だ。翼を動かせば、普通に飛べてしまう。それだけでノイリとは条件が違いすぎる。
「ああ……そっか」
 彼は完璧な天族だ。だから、ノイリのように頑張らなくて良いのだ。
「折れた方だけを固定して、片方だけ動くようにするといいと思います。魔力を使って循環させないと、弱るばかりです。それでもダメなら、運動するしかないと思います」
 ノイリと違って完全なのだから、彼は少し翼を動かせば、死ぬほどの魔力が溜まらない。
 ノイリの言葉にテルゼは頷いた。
「なるほど。さっそく医者のところに行くぞ、ローレン」
 ローレンは苦笑いしながらも、テルゼを案内すべく一緒に部屋を出て行った。エンダーはそれを見て微笑む。
「すっかり仲良くなったようだのぅ」
「まったくテルゼは……。
 あの性格さえなければ、女王陛下の婿に推されるだろうに……」
 エスティーダがきっと嫌がるだろうと思ったが、彼が真面目だったらと考えて、少し分からなくなる。
 あの性格とは、地上に出てまで色白の女の子と会っているところだ。
 それがなければ、ひょっとしたらエスティーダも納得していたかも知れない。
 あり得ない『もしも』を考える事ほど馬鹿らしい事はないが。
  
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2008/08/29   窖のお城   238コメント 3     [編集]

Comment

 

迷い仔猫883     2008/08/30   [編集]     _

テルゼってまさかそっちの趣味が・・・!
なんて訳ないよね。

G884   王子様と一緒で…   2008/08/30   [編集]     _

>テルゼってまさかそっちの趣味が・・・!
王子様と一緒で、「好み」の範囲が狭いんじゃないですか?

-885   管理人のみ閲覧できます   2008/08/30   [編集]     _

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