白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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 魔術師達の共用研究室に入ると、気付いたホーンが手をあげた。
 ある程度成果を上げると個人の研究室をもらえるのだが、機材も材料も資料も専門外の事を尋ねる相手もいるここで研究を進める者の方が多いらしい。個室を使うのは成果が盗まれるような実験をする場合か、書類を書く時だという。普通、他人のしていることを後ろからじっと見ていても、半分程度しか理解できないので大した問題はないのだ。
 と、ホーンが言っていた。
「ああ、その子が傀儡術の天才って子か」
 おそらく天才と呼べる程度には精通しているだろう。これがないと不便で仕方がないから覚え、常に使っているため上達しただけだが。
 人間、必要になれば上手くなる。
「ねぇねぇ、この人形動かしてみてよ」
 眼鏡をかけた女性が、実寸大の人型模型を指さして言う。言われるがままに動かして一人でワルツを踊らせる。よほどストレスが溜まっているのか、無精髭のおっさんがうおぉぉっと立ち上がり、狭い通路で人体模型と踊り出す。
「おもしろぉい」
 ゼクセンがパチパチと手を叩く。
「なんだ、もう彼女作ったのか。ホーンの弟分のくせに手が早い。っていうか見たことないな。どこで働いているんだ?」
 ホーンの同僚が勘違いをして私服姿のゼクセンに絡む。それを見て、鎧を着込んでいる姿を知るホーンは笑った。
「いやこれは間違いなく男の子だよ。脱がせようか」
 同じ釜の飯を食って学んで寝た仲なだけあり、私とホーンの思考回路は似ているらしい。隣にこれがいなかったら、線の細さやら顔つきやらで女のようと言われそうな私を心配して、積極的に男であることを見せようとする。
 実に効果的な方法である。
「何馬鹿なことをしているの」
 奥の部屋から声がしたと思うと、何と、あの不気味姫が出てきた。相変わらず不気味である。だが美人でスタイルが良いのでうらやましい。私には、大人になっても絶対に手に入れられそうにもない物を彼女は持っている。
「動きたいのなら庭でも走るといいわ。おしゃべりをしたいなら自分の部屋でなさい」
 ぎろりと睨み付けるその迫力と来たら、金色の目もあってぞくぞくする。まだ若いのにこれほどの威を身につけるなど、さぞ苦労して育ったのだろう。
「ところで」
 姫君は私を見た。
「精度はどの程度」
 ものすごく唐突に尋ねられた。
 精度とは、傀儡術のことだろう。何を求めているのか知らないが、分かりやすい例えを考える。
「針の穴に糸を通したりと、そういう方向での精度でよろしいでしょうか」
「では来なさい。馬鹿が騒ぐから、模型のパーツを落としたの」
 許可が出たので奥へ入ると、大きな机の上に、設計図と模型だけが置かれていた。模型と呼ぶが、立派な魔具だ。魔法陣の一種で、緻密に計算されて作られたパーツを、呪力を込めながら組み立てていく。これは針金のようなものを溶接しながら組み立てている。私は前に木造りの物を組み立てたのだが、もう二度とやらないと心に誓った。しかもこれ、覗き込むと向こう側がほとんど見えないほど細かい。私が作った物の比ではないほど細かい。頭が痛くなりそうだ。
「下手に弄ると壊れそうだから取れるなら有り難いわ」
「ど、どこに?」
「そこ」
 姫君は焼けただれた指でそこそこと示すが、細かすぎてなかなか見つけられない。
 悩みに悩んで、全体を少し持ち上げるように力を入れると、わずかな動く感覚でようやく見つけた。完全に出来上がっていないこれは保護もされていないので、素材が脆く崩れやすい。冷や汗をかきながら引きずり出し、姫君の手に乗せた。
「極めると便利そうね。諜報部に一人いるらしいけど、大したことは出来ないはずだわ。何かコツがあるの?」
「常に使うことですよ。食事も着替えも手を使わずに行うと慣れてきます。字を書く時に便利ですよ。腱鞘炎知らずです」
 ここまで来ると怠けたい一心で上達したようにも取れる。悪いのは幼い頃に痛めた足だけだから、ここまでする必要はなかったのだ。なんか、脅迫概念に囚われて必死で長所を伸ばしていたような気がする。まあ、おかげで生きていくのに困りそうもないからいいけど。
「そういえば、あなた、名は」
「ルーフェス・オブゼークです」
「ルーフェス……ルーフェス」
 ぶつぶつと何度も口にする。呪われているようで居心地が悪い。
「グランティナ様、珍しく他人に興味を持たれたのですね」
 ドアのところでこちらを見ていたホーンが言う。
「ルー?」
 グランティナ姫はフルネームではなく、ホーンが口にした私の元からの愛称を口にした。まさかルゼと呼ぶわけにもいかないから、ちびっ子達が呼ぶように私を呼ぶ。
 そういえばゼクセンも誰かが口にしたそれを聞いて、今の甘ったるい呼び方になったのだ。
「ルーね。騎士団なんかやめてこちらに来ればいいのに」
「私は荒事向きなので」
「そう、残念だわ」
 残念だけど、私には仕事があるし。仕事がなければすごく有り難い申し出だから、ちょっと惜しい気もする。


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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
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2008/01/14   詐騎士   23コメント 0     [編集]

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