白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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6

 私は服を着たままシャワー室に入る。
 脱げるはずがないので服を着たまま延々と水を浴び続け、出るときには一瞬で乾かしてしまうから、変な奴以上の目で見られていない。幸いにも私は服が濡れても目立つような物は持っていないのだ。
 水を浴びるのは汗を流すよりも、水を浴びる事が目当てである。
 水を魔力に換えるのは天族が得意とすることだ。天族とは翼が生えた、世界で一番魔力の高い生物である。馬鹿ではないが他の種族に混じることなく、独特の文化を持ち原始的な暮らしをする種族だ。
 私はそれを見習い、あれほどではないが水の魔素を魔力とする術を会得した。
 たぶん水以外でも出来るが、土など硬いし火など暑いし風などとらえられないし、肉だと人肉が一番手っ取り早くなり、やはり水が一番である。
「ふぃ……」
 気が済むと脱衣所に向かいながら身体の水分を蒸発させる。
 見物人が出来ているが気にしない。
「るーちゃん、おわった? 僕もう髪もほとんど乾いちゃった」
「クシぐらい通せ。はねている」
 持っていたクシで髪をとき、ついでに生乾きの髪からほどよく水分を抜いてやる。専門職ではないので彼の侍女達がしていたよりも不格好だが、そのまま乾かすよりはよい。
 一週間もこれを続けると、こいつら出来ているんではなどと噂されるが、この可愛いおぼっちゃんはそんな悪趣味ではない。変な噂など放置すればいい。親しくなった連中には将来義理の兄弟になる予定だと説明しているので、仲がよいのも納得してくれる。可愛い可愛い妹の綺麗な綺麗な婚約者。それを綺麗に綺麗に保つ馬鹿な兄と見られればよい。
 同性愛者よりはいいだろう、たぶん。
 ルーフェス様もこの雰囲気は知っているが、何も言わないのだから文句はないのだ。
 自分の事ではないので変な噂など流れないに越したことはないが、どうしようもない部分はある。私は偽物なのだ。名さえ残せばいい。あとこのお坊ちゃまの護衛。使い物になるまでか、実家に帰るまでかは分からない。私がここにいるのは、近い将来訪れるルーフェス様の病死までなのだから。
 その頃になったら『私の病気は悪化して、実家に帰る』ことになる。そして任を解かれる。その後は、領主様が何とかしてくれるだろう。彼らはとてもいい人で、私に対して罪悪感を持っている。手厚くしてくれるだろう。
 それらはすべて、ルーフェス様が死んだ後か、それに近い状態の話。
 その長くはない期限内で、死ぬと分かっている少年にしてやれることはおそらく少ない。たまに視界を貸して、唯一の親友であるゼクセンの保護と教育。それぐらいしかしてやれない。
 ルーフェス様の事は昔から好きだった。私の事など記憶どころか、存在すら意識していなかっただろうが、私はけっこう好きだった。もちろん敬愛という意味の好意である。
 そんな相手が今、隣にいるゼクセン以上に近い存在となっている。私と彼が共有する記憶は、私にとってはとても大切な物だ。今も、昔も。
 そんな存在が、死ぬのだと分かっている。
 私のように冷めた子供にとっても、気の重い話だ。しかし仕方のない事。人は簡単に死ぬものだ。自分が今まで死ななかったのは、運がよかっただけである。
「そーだるーちゃん。ご飯食べたら図書室に行こうね」
 ゼクセンはこの一週間で意外と慣れたらしく、食事も取って就寝までの余暇も楽しめる程度にはなった。
 もちろん筋肉痛にならないように、私が治療している結果だ。そうでなければ他の連中のように、そろそろ疲れがピークに達しているはずである。
 だから「お前らずるい」と言われるけど、私は気にしない。だってゼクセンの親にもお金もらっているから。
「るーちゃぁん、俺も俺も、図書館行くぅ」
 背後から首を絞められるように抱きつかれ、ぎょっとして頭を後ろに下げる。近距離からの頭突きを食らった同僚ははぐはぐ言いながら鼻を押さえる。
「治療してほしかったら金払え」
 甘えられても無駄である。私は金と自分が楽しむためでしか動かない利己的な女だ。
「ゼクセンはいいのかよぉ」
「全力で頑張ったご褒美だ。その後マッサージしてもらっているし、お互い様だからな」
 足が不自由なので、適度に動かしたりマッサージをするのだ。マッサージは自分でやるより誰かにやってもらう方がいい。
「お前ら、すんだらさっさと行け。後がつかえてるんだぞ」
「はい」
 先輩に言われて、私達は速やかにその場を離れた。
 シャワーもかなりの数だが、やはり取り合いだ。広い浴場も混んでいるが、下っ端が行っても気まずい思いをするだけらしい。出世している先輩に連れられて行かれるのでない限り、覚えが悪くなり出世にも響く。つまり、先輩に許可なく混じってんじゃねぇという、狭い心の表れである。
「私は着替えてくるから、ナジト、これを頼む」
「つか、なんで着替え持ってこないんだよ」
 いつか誰かにつっこまれると思っていたことを、一週間目にしてようやく言われた。変人と納得しようにも、やはり気になるようだ。
「私は病弱で、ベッドがホームという生活が幼い頃から続いた」
「らしいなぁ」
「魔力を使い動けるようになったが、魔力がなければ一人では歩けない身体だ」
「そうなのか?」
「とても人には見せられない身体だ。見たくもないだろう。だから着替えは部屋でしている」
 本人も床ずれがひどいらしいから、嘘ではない。この言い訳はルーフェス様が考えたことだ。女の子にもしもの事があるよりは、始めから納得させた方が良いだろうと。彼にとっても私にとっても自虐的だが、採用させてもらった。
「るーちゃんは、とっても頑張り屋だから一人で何でも出来るけど、とっても病弱でか弱いんだから、からかったり虐めちゃダメだよ」
 ゼクセンが涙ぐましい事を言う。
「私はお前が虐められることの方が怖いのだけど。しゃれにならない気がして」
 周囲も納得してくれたようで、あぁ、と頷いている。気づかないのは私のナイト気取りの当事者だけ。
 いつか本物の騎士になってくれることをただただ願う。
 他人事ながら心配でならない。彼は綺麗な身体で帰してやりたいのだ。

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2008/01/11   詐騎士   20コメント 0     [編集]

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