白夜城ブログ

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「豪勢なこって」
 ハルカさんは、テーブルに並んだオードブルを見て言う。
「すっげ美味そう」
「そりゃそーよぉ。有機野菜とか、素材にこだわったレストランのお料理なの。兄さんがよく使うところだから、サービスもあるでしょうけど、味も一流よ。
 味わって食べてね」
 高そうだ。さすがは大人、手に職持つ美人マダム。
 誕生日、トキさんちで料理もケーキも用意してくれるというので甘えた。俺とハルナちゃんで作るよりもはるかに豪勢だ。ハルナちゃんも多少の料理は出来るみたいだけど、基本的な物だけで、子供が喜びそうなパーティ料理ぐらいしか作れないとちょっと悩んでいたから、ちょうどよかった。
 トキさんのお母さんの真奈美さんがハルカさんに手の届かないところの料理をよそい、常磐さんがカクテルなど作っている。ハルカさんはそのカクテルをちまちまと飲んでいる。いつもは飲まないが、飲むときは飲むらしい。
「ところで、今日は何でキワさんまでうちに押しかけてるの?」
「ハルカちゃんの誕生日祝いに決まってるだろぉ」
「…………」
 ハルカさん天井を見上げて悩み、日付も出るデジタル時計を眼を細めて睨みつけた。
「今日!?」
「本気で気付かなかったの!?」
「だって日付を気にして生きてないもん。曜日は気にするけど」
「ハルカさん、季節の移り変わりを感じようよ!」
「年を取るなんてやだから忘れるに限るよ」
「いやいや。せっかくプレゼントも用意したのに、ひどい」
「プレゼント? あんた、お金ないでしょ。高そうな服買ってたし」
 内緒で買ったのに、あれが新品だと見抜かれている。ハルカさんはあまり気がつかなそうなタイプだと思ってたのに、値段まで気付かれるとは。
 でもちゃんと見てくれているという事で、厄介だけど嬉しい。顔がにやついてしまう。
「先生に聞いてから、真奈美さんのところのお手伝いに行って、現物支給してもらったの」
「先生に聞いたの?」
「うん」
 現物支給ならただの手伝いみたいな物だから、届け出の必要もないって言われた。
「まあ、ありがとう。
 でも手伝いって、何か手伝うことあったの?」
 ハルカさんが痛い所を突いてきた。
「あんまり手伝いになってなかった気がする……」
 それで少し悩んでいる。将来、大学生になったら本格的にアルバイトしないかとまで言ってくれた。その時に元は取るわと。
「おばさん、使えたのこれ」
「何言ってるのぉ。この美少年を連れ歩くだけで満足よっ! 真奈美さんって子犬のようについてくるのが可愛いのよぉ」
 なんか、仕草とか口調とか発言とか、トキさんと本当に似た親子だなぁと思う。
「おばさんが満足してたなら別にいいけどさ」
「それに、大学生になったらアルバイトに来てくれるって」
「この子が? アパレル系には進まないと思うけど」
「うちの旦那のところでモデルなんてどう? 姿勢と歩き方もけっこう綺麗なのよ。おばあさまの教育の賜かしら」
 そういえば、ばあちゃんは姿勢については少しうるさかった。叱るわけではないが、猫背にしているとよくないと言った。あと食べ方。綺麗に食べると、作った人も嬉しいんだよと言われて、喜ばせたくて綺麗に食べた。
「確かに背が高くて八頭身だから出来ないことはないだろうけど……おばさん、やっぱり連れ歩いて自慢したいだけでしょ」
「当たり前じゃない。うちの子連れ歩いても、半分生暖かい目で見られるんだもの。とくに高校卒業してからは。
 まったく、何でこうなったのかしら。自慢しようにも、口を開くともう生暖かい目なのよ」
 真奈美さんはぷりぷりと怒る。
「やっだなぁ、おばさんに似たんですよ。話し方も似てますし、トキはマザコンだから」
「ああ、やっぱりハルカさんもそう思うんだ。仲良くていいよなぁ」
 俺はハルカさんに同意する。
 母親が生きていたところで、彼のようにはなるつもりはないけど、やっぱり仲がいい親子は憧れる。ハルカさんとおばさんは、仲良し親子というのはちょっと違う気がするし。
「ハルトくん……マザコンを否定しないのは悔しいけど、言うことが可愛いじゃないっ。飲みなさい、私が買ってきたオレンジジュース」
「あ、俺、ジュースよりそっちの水の方が……。
 ジャンクフードならともかく、美味しい物を食べながらジュースってちょっと」
 口の中をリセットするためには、水が一番いい。
「そんなこと、シェフが聞いたら喜ぶじゃないっ。好きなだけ食べなさい。でも、最後にはケーキがあるからね」
 酒が入って、トキさんのテンションが上がっている。いつもは飲んでもそんなに変わらないのに。
「キワさん、これちょっと強いんじゃない? あたしら、んな強くないんだから、あんまり飲ませないでよ」
「じゃ、もうちょっと薄めで作るよ。
 それよりハルカちゃん、来週の月曜、釣り行かね?」
 俺はぎょっとして常盤さんを凝視する。
 二人で釣りに行くような仲なのか。知らなかった。ハルカさんが釣りに行くことも知らなかった。いや、今までも、俺の知らない間に実は遊びに出ていたのかも知れない。むちゃくちゃショックだ。
「いやぁぁん、わらしも行くぅっ」
「お前はいつも行くだろ。分かってっから離れろって」
 トキさんが常盤さんにしなだれかかる。二人ではなく、三人で行く仲なのだと知って少しだけ安心した。
 ハルカさんは俺の水を奪い飲み干し、ローストビーフを食らい、カクテルにジュースを入れて無理矢理薄めて飲む。
「釣りいいから、釣ってきたら持ってきてよ」
「いいじゃん。行こうよ。この時期は一番アウトドアが気持ちいい季節だぜ。お弁当持ってさ」
「弁当作って欲しいだけでしょ? 足代そっち持ちと帰りに水くみに行ってくれるんなら考えとくけど」
「ああ、行く行く。あそこの天然水美味いよな」
 ハルカさんは肩をすくめて、次の料理に手を伸ばす。
 来週の月曜日は、魚料理だ。そうなると、うちで集まって食べることになるだろう。
 滅多に外に出ないから、ハルカさんにとってはいい事だ。月曜だからついて行けないのだけが残念だが、美容師二人は平日休みで、学生と生活が合わないのは仕方がない。

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2008/06/22   推定家族   176コメント 2     [編集]

Comment

 

迷い仔猫502     2008/06/22   [編集]     _

ハルト君ってば、ハルカさんに本気モードっぽい。
ヤキモチしちゃって、可愛い!

とーこ507     2008/06/23   [編集]     _

ハルトはものすごくヤキモチ焼きです。
おばあちゃんっ子なので、位置も一番に見てもらえたから、家族に知らないことがあると不安な子です。


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