白夜城ブログ

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 私が着替える時、ゼクセンは背を向ける。
 絶対に見ないよと何度も主張してくれるので、薄い壁の向こうで誰かが聞いているのではないかと不安になり、黙らせるために殴るという、もう使用人としては失格な態度をとりつつ着替える。休みの日には仕切りのカーテンを買ってこようと決めた。
 その後は食堂で食べ、鎧を身につけ昨日の場所に集まる。昔と違って魔物相手が多い今、フルアーマーでないことだけは有り難い。
 新人は一ヶ月、いくつかに別れて訓練し、その結果で適切な場所に配置される。騎士団は三つあり、その下によく分からない細々とした組織がある。貴族連中は戦果を上げる気があれば最前線に行くらしいが、家に力のあるやる気のない連中は都で安全に過ごして女の子を口説いて故郷に帰っていくらしい。望まずに前線に行くのは不興を買っているか力のない家の者だ。
 私のご主人様のところは昔いろいろあって、そっち寄りだ。大きなミスをして、少し落ち目なのである。ゼクセンの家は金はあるが地位が低い。
 だから前線に行くのだろう。今は戦がないから、すべての人間にとって共通の敵である、土の下に住む魔物退治が主な仕事だ。地方での騎士とは、お国が派遣してくれる魔物を退治する人たちという認識だ。そのため真面目な騎士がいる場所では子供達がそれに憧れるのだそうだ。実際に試験に受かる程度の学力があるなら、給料も貰えて、仕留めた魔物によっては死骸が高く売れる上、装備品も住む場所も用意してもらえるという、なかなか魅力的な職業である。魔術のない者がフリーでやるよりも、騎士になった方がやりやすいだろう。女の子にももてるし、貴族とも親しくなる。貴族よりも前に立たされるが、それは元より覚悟の上だ。数人で鬱々と穴を捜している方がよほど危険なのだと、一度でもやったことがあれば分かるので、よほどの扱いを受けなければ文句は言わない。
 その金づるであり憎むべき魔物は、地面の下に大陸中を網羅する規模の巣を作っていて、穴を掘って地上に出てくる。人里が離れていれば狩りをするだけだが、運悪く人里に近ければ、地下では手に入りにくいものや、家畜や人間を略奪していく。
 私達はそいつらを退治したり、人里近い穴を崩してその付近に呪の込められた札をばらまくのだ。
 それに関しては元々やっていたことなので慣れている。問題ない。問題があるとすれば、パニックを起こした馬鹿が余計なことをする場合だ。もちろんそれも慣れているのでほとんどの場合は問題ない。私はそれに関しては騎士の連中よりよほど優れている自信がある。私達は仮にも貴族だし、半年は中央にいるだろうから感覚を忘れてしまう恐れもあるが、自分が先頭に立つわけでもないので問題ない。
 問題はゼクセンと離されてしまう可能性があること。私達はバラバラにされないためにも、離されないための言い訳をしなければならない。
 私の身体のことと、魔術の儀式的な補佐を理由にどうにか主張を通さなければならない。
 幸いにも、ゼクセンは少なくはない魔力を持っている。勉強をして、訓練すればそれなりの魔術師になるだろう。その才能を生かすために、出会ってから毎日一つの練習をしていた。
 術の増幅。
 本来私にはいらないが、素人相手にはこれで十分な言い訳になる。魔法騎士というのはそれほど珍しくないが、宮廷魔術師レベルの使い手になってくると珍しい。孤児として試験なんて受けに来たら諜報部に入れられそうだったからその気は無かったから、力をすべて見せずとも、隠すつもりもない。
 引く手数多だろう。だから多少の融通はきくはずだ。
 そのためにも、この一ヶ月はゼクセンと一緒に置いておいた方が実力を発揮すると思わせておくのがよい。あとゼクセンを心配しまくって、引き離すと情緒不安定になるぐらいの演技をするつもりだ。
 決意し、用意していた手立てを頭の中で再現する。
 そうしている内に、上官が目の前に立っていた。
 確かアスラルとかいう白鎧の騎士団の偉い人だ。年の頃は二十代後半。日に焼けた、逞しい体躯の男だ。訓練中は厳しいが、オフの時は気さくないい人らしい。
「おはようございます」
 隣で女のような笑みを浮かべてゼクセンが挨拶する。私はそれに倣う。私一人では頼りないと思っていただきたい。
 アスラルの視線はゼクセンに向けられているけど。
「やはり脱がせますか?」
「いや、疑っているわけではない」
「彼の姉はすでに嫁いでいますし、妹はまだ十歳ですが」
「いや、無心をするつもりなどは……」
 そういう男は昨日の今日でもう何人もいる。女が趣味の男はこれでどうにかなるが、男が趣味の男はどう対処するか、頭が痛い。
「お前が魔術師か」
「はい。ルーフェス・オブゼークと申します。こちらはゼクセン・ホライスト」
 アスラルはルーフェスをじとっと見つめた。顔に似合わない名をしていると思っているのだろう。でも本人はもっと儚げだぞ。
「脱がせるのでないとしたら、何のご用でしょうか」
「いや、昨日は悪いことをしたと思い」
「問題ありません。想定内です」
「それならばいいが……ルーフェスといったか、もう少し肩の力を抜くといい。友人が心配なのは分かるが」
「はっ。申し訳ありません」
 端から見れば、過保護にも見えるのだろうか。疑われる様子がないならそれでいい。
「気持ちも理解できるが……ここはケダモノの巣窟ではないからな」
「問題ありません。守りは十分です」
 対魔物用に作った護符をいくつも身につけさせているし、彼の身体を魔力含めて完璧に操作できる。後者が私にとっての切り札だ。だから誰にも言うつもりはない。普通はせいぜい身体を操り人形のように操るだけで、虚ろな目をしていたりしてばれやすい。でも私のは完璧に自分の身体のように操れる。
「私は君自身も心配だ。身体が弱いと聞いている」
「弱いからこその魔術です」
 私は魔力がなければ、きっと、もっと病弱だったと言われている。幼い頃、魔物にやられた怪我が原因で足が悪いから歩く事もろくにできない。
 だからすべてが嘘なのではない。
 嘘は偽者である事、女である事、病では死なない事、この三つだけで十分だ。


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2008/01/08   詐騎士   17コメント 0     [編集]

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