白夜城ブログ

ガートルード の番外編です 2

 たまに、たまにだ。
 堪えられなくて部屋に戻ると頭を抱えてのたうち回る事がある。
「なにがっ、『まだ』だっ」
 そりゃあ『まだ』だ。
 マディアスに血を分けているという事実だけで、進展などないのは周知の事実となる。
「私だって、好んで綺麗な交際をしているわけではないっ」
 そう言って殴ってやりたいが、暴れれば相手の思うつぼ。短気を起こせば噂も立てやすい。流していればただ婚約者に忠実な男であれる。
 だが、報復したいという気持ちは消えない。
 部屋を出て、苛立ち紛れに庭へと向かう。
 庭師の男は、隠されているがイレーネの実の祖父。イレーネのいい部分、落ち着くと思わせる部分は彼の血の賜であろう、笑顔の似合う気のいい男だ。つまり、母親の血は少しどうか、という部分に出ている。生きていた女王は、リーンハルトにとっては尊敬はしていたが、人間としては……というタイプであった。
 ガートルードのあの性格は、環境による物が大きい。
 少なくともあの女王に似なくてよかった、とは思う。
「リーン様?」
 いたのは予想に反して先客がいた。彼の思い人、ガートルードその人である。
「どうした?」
「バラの茎を見に来ました。この、生え際のところが急に見たくなって」
「なぜ」
「なんとなくです」
 なんとなくで訳の分からない事をする彼女の天然さは、この国の女王の血筋にはない。離れて暮らしていたイレーネですら、そういう天然さはない。
 そう考えると、少しばかり彼女の父親という物の存在を考える。卑しい男だろう。考えたくもない。考えても、探しても、見つからないだろう。だから無駄だ。
 だが考えてしまう。
 それが彼女を卑しめる汚点なのだ。リーンハルトは気にしないが、気にする者もいる。彼女の育ち以上に、攻撃できる汚点なのだ。しかしそれをしてしまっては、卑しい血を引くという意味で変わらないイレーネを攻撃する事にもなる。彼女はそのままの意味で、この国にとって一番の財産だ。
 そんな愚か者は滅多にいないだろうが、心配になる。
「今夜は暇か」
「いいえ。仕上げなければならない絵があります。お誕生日のプレゼントで、期日が近いので」
「気晴らしに来たのか?」
「はい」
「せっぱ詰まった時の気晴らしというのは、訳の分からない事をしたくなるものだ」
 ガートルードは不思議そうに見上げてくる。普通の恋人なら、ここで何やら色々とするのだろう。出来るのだろう。
「リーン様にも、そんなことがあるんですか?」
「たまには、な」
 主にガートルードのせいで奇妙な行動を取ってしまう。
 ここに来たのも、ある意味、彼女と似たような感覚だ。ここは落ち着く。穏やかな庭師の老人は、あまり干渉してこない。するときはとても暖かだ。
 あとは薬草園が落ち着くのだが、あちらは同僚が多い。
「忙しいなら、今夜は部屋に食事を持っていこう」
「私の部屋で、ですか?」
「椅子とテーブルがある。問題あるまい。どうせ筆は放さないだろう。簡単に食べられる物を用意する」
「……はい」
 いつもは自分に合わせているから、たまには彼女に合わせる。女は合されるのが好きだ。女として規格外でも、嫌いな相手以外なら悪い気はしないだろう。
 彼女が嫌な顔をせず、渋々と頷くでないのは、気が晴れる。
 予定は狂ったが、ここに来てよかった。

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2008/06/11   おまけ   165コメント 1     [編集]

Comment

 

-463     2008/06/12   [編集]     _

あああ。何かリーンが成長しているようです。健気~。でもまだまだ頑張れ~。


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