白夜城ブログ

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魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

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 私は孤児だ。
 もしも雇い主の領主様が悪い方なら、この仕事が終わった後、命の危険もあるから引き受けなどしなかった。しかし領主様は人を殺して平然としていられるような人物ではない。だから用無しになれば元の生活に戻してくれるはずだ。性別すら偽っているから、数年もすれば別人のようになるだろう。たぶん肉付きをよくする協力ぐらいしてくれるだろうし、立派に女らしくなれば男としてここにいるルーフェス様ではなくなる。
 私の雇い主の息子、ルーフェス様は余命が短い。
 だからこそ兵役を免れるために他人を寄越しても大した問題にはならないのだ。社交界には出られない──言ってしまえば、近い内に間違いなく死ぬのだ。そのうち治療法は確立されるかも知れないが、彼が死ぬまでには無理だろう。だったら跡取りの兄を守るためにも、ついでにこのお坊ちゃまを守るためにも、強いが病弱にも見える身代わりを立てる必要があった。
 前提として、身代わりは病弱に見え、かつ実力がなければならない。
 なにせ時期が来たらルーフェス様として『病で死ぬ』必要があるのだ。病で死んでも不思議ではないと思われ続けなければならない。
 私は生活および体質のせいで、女らしさとはほど遠い痩せた身体をしている。
 自分が腹一杯を食べるなら、もっと小さな子供達に食わせてやりたいから小食だ。だから頬は痩けているし、初経もまだで、しかし背だけは伸びていたため、十五歳の少年として入り込むことに成功した。少し育ってから捨てられていた孤児なので、自分の年齢は正確に知らないけど、最大に見て十三歳。下に見るなら、十二歳になったばかりという年頃だと思う。なのに十五で通るのだ。背が伸びていることがこんな所で役立つとは思いもしなかった。その女らしくないのがチビ達のためになると思えば、この程度の屈辱には耐えられる。自分も昔は養われた身だ。しかも、魔術など、生きていくのに十分な教育をしてもらった。いくら感謝しても足りないほどだ。
 他のちゃんとした男の候補者を押しのけて私に話しが来たのは、この子供ならではの不健康な容姿もあるが、傀儡術という高等で便利な魔術の使い手であったためである。
 魔術兵としてなら活躍しても病弱は通せるし、病弱だからこそ魔術に精通していると弁解できる。
 私達を育ててくれたおばあちゃんは、若い頃はかなり高名の魔術師で、子供は読み書き計算と魔術の基礎程度は教えられる。その中でも私は変わり種の魔術を得意とするタイプで、才能を伸ばせば女であっても稼げるようになるからと、私は夜遅くまで勉強した。
 実際に、大きくなってからは魔物を退治したり、魔穴封じをしたりと、普通に稼ぐよりははるかに実入りがよかった。それでも魔物などが常にいるわけでも、魔穴が簡単に見つけられるわけでもないので、大した生活向上にはならない。普通の一家族だけならそれなりに暮らしていけるが、必要な金額は桁が違う。
 この身代わり話が来たときは戸惑ったし無理だと思った。
 それでも髪を短くしてみれば、扁平な胸と尻に、男のように脂肪のない手足のおかげで、どう見ても貧弱な男だった。魔物は夜に活動するから自分も夜型になり、日に焼けず色も白いので、我ながら本当にひ弱そうだった。髪の長さって、意外と女らしさを維持するには大切だったのだなとその時初めて知った。
 見た目だけなら無理でもないと分かったら、ぼろぼろの服を着て壊れた玩具で遊ぶチビ達を見て、腹をくくった。これを引き受けたら、報酬の他に服や玩具がもっと寄付される。
 もう少し女らしくとかなってみたいけど、数年は我慢だ。同じ場所で育った同年代の、私よりも胸やら尻やら肉付いてくびれも出てきたところに、手作りのアクセサリで飾って男の子と語り合う女の子を見て、ちょっと心が揺らぎかけたけど、我慢だ。
「今日はドキドキしたね、るーちゃん」
「お願いですから、挙動不審にならないで下さいね」
「だめだよ、るーちゃん。僕らは親友なんだ。敬語はダメだよ」
「ああ、分かっている。だから頼むから、もしも女と言われても一切口にしないでくれ。すべて私がフォローするから」
「るーちゃんは世間知らずだから分かってないよ。男がどんなものなのかっ! 小さな子達とか、兄妹みたいに育った人達とは違うんだからね!」
 確かに兄達はここの男達とは別だろう。私にとっては信頼できる男達だ。ここの男達は信頼できる男もいるだろうが、悪党もいるだろう。
「君よりは客観視出来ている自信はある。そりゃあ貴族のことは分からないけど、ルーフェス様だって社交界には一度も出たことはないし、誰も顔を知らないし、顔は似ていなくもない。だから君さえポーカーフェイスでいてくれれば怪しまれることはないんだよ」
 本当に心配なのはこの少年の素直さ。個人的には好ましいと思うが、今は不安しか生まない。
「もっと狸になってくれ。猫を十匹ぐらい被ってくれ。私の願いはそれだけだ」
「僕はるーちゃんが心配なんだ。えっちゃんにるーちゃんをしっかり守るようにって頼まれたし」
 えっちゃんとは私が成り代わっている本人の妹であり、このお坊ちゃんの婚約者だ。見た感じでは仲睦まじかった。なぜかその妹に懐かれたのは、きっと魔術を使い彼女に大空を体験させたことが原因だろう。同じほどの歳か、少し年上のはずなのに、私と違って可愛いのだ。
「るーちゃん、ルーフェスは寂しくしていないかな? 風邪とかひいてないかな?」
「ルーフェス様と視界共有をした時は体調がよろしいようでした」
 私は本人に連絡を取るため、もしくは確認をとらせたり、書類にサインをさせるときのために、ルーフェスと視界や身体を共有するための術を使っている。常には不可能だが、日に一度は可能だ。面白そうな物があったとき、向こうの調子が良さそうなら見せてやることにしている。私が得意とする傀儡術の応用だ。
「知らない場所を見られて、喜んでおいででした」
「そっか。ここは珍しいよね。ルーフェス喜んでるだろうな……。
 あ、でもだめだよるーちゃん。自分に様付けしたら」
「今だけだよ」
 ルーフェスは自分。様付けをしたらルーフェス様。その方が分かりやすくていい。
「るーちゃん、明日から訓練が始まるけど、辛かったら言ってね。僕が出来る限りのことをするから」
 たぶん、出来る限りのことをするのは私の方だと思う。このいかにも体力のない華奢な身体が、口とは逆の事を物を言うのだ。訴えてくるのだ。体力ありません、と。
 多少は剣を習っているらしいが、それもかなり怪しい。支給された剣を持ったときは、ふらついていたから。
「私としては、できるだけ隅の方で小さくなっていて頂ければと」
「大丈夫だよ」
 その自信はどこから出てくるのか教えて欲しい。
 本当に、頭が痛くてかなわない。
 これからしばらくはこの男と寝食共にすると思うと、それだけで疲れる。疲れるが、これが仕事である。

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7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

2008/01/06   詐騎士   16コメント 4     [編集]

Comment

 

-499   気になる・・・   2008/06/21   [編集]     _

未だに直ってないところを見ると、
上の人が指摘してる脱字はわざとなのでしょうか・・・?
それとも見逃してるだけなのかな?

とーこ505     2008/06/23   [編集]     _

すみません見逃してました。
紛らわしいので、修正した部分は誤字報告のみのコメントは削除させてもらいました。
古い記事コメントで誤字指摘は、更新した時と重なるとコメントが埋もれてしまって、どうしても気づけないんですよ。

takk2480   なんだかやっぱり気になるので   2009/03/16   [編集]     _

初経→初潮ですよね
気が向いたら治しといてください

-3842     2009/09/15   [編集]     _


初経も初潮も同じ意味ですよね…


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