白夜城ブログ

4 またユイです。
「婿殿が来た!」
 その一言でウル様の屋敷の中は騒然となった。カーペットの下に潜り込んでいた馬鹿がいきなり起き上がり、危うく飾られた絵皿を落として割るところだった。
「どうしましょう! 誰か、ウル様を呼び戻して! リベル、一番いいお茶を用意して!」
 きょとんとしている代々この屋敷に仕える執事の青年が何度も瞬きする。
「婿殿? どなたの婿がいらっしゃるんですか?」
「ウル様よ!」
「ウル様は女性でいらしたのですか?」
「相手が男だから婿なの」
 当たり前だ。ウル様の性別がどうであれ、相手の性別は変えられない。だから婿。
「ご婚約されたとは知りませんでした」
「婚約はされていないわ。候補者なの。
 やっ、来たわ」
 私の言葉に、リベルが行動を起こす。私はウル様のようにソファにふんぞり返った。しばらくすると、リベルの母である『ばあや』に案内された少年達が部屋に通される。
「こんにちは。いきなり来るから驚いたよ」
 ウル様と同じ笑みを浮かべて、ウル様のお友達を見る。
 普通の人間だ。しかし、恐ろしく強い人間だ。悪魔も殺す、殲滅の悪魔と呼ばれた人間。最も恐れるべきは、女子供を殺す時に、罪悪感も快楽もなく、ただその場にいたから殺すという躊躇いのなさだ。
「あれ、ミラ様」
 戻ってきたリベルはミラを見て驚いた。
「あれ、婿って……」
 彼はミラの保護者の青年を見る。半悪魔の青年。すぐに違うと気付いたらしく、ビクビクして小さくなっている半ズボンの三つ編み少年へと目を向けた。
「ユイ様」
 そう、彼こそが私達の言う婿殿である。彼は三百年待って初めて出てきた、ウル様の伴侶になるための最低限のラインをクリアした、ウル様の半分程度の力はある者だった。そして同じ神子。彼以外に婿は考えられない。
「どうぞ。何も入れずに、そのままお召し上がり下さい。ストレートが美味しいんですよ」
「あ、ありがとう」
「ミラ様の好きそうな甘い菓子があるからお待ち下さい。こちらの菓子もお召し上がりになりますか?」
 ミラが頷き、菓子を食べる。ぺろりと食べてしまうので、リベルはくすくすと笑い、応接室を出て行く。
「ユイも食べなよ。ばあやが作ったんだ。美味しいよ」
「は、はい」
 緊張している。見た目で私達の判断はもう出来ないから、勘違いしているのだ。
「君は本当に可愛いねぇ」
「うえっ!?」
 彼はとても可愛い男の子だ。半ズボンが似合ってしまう、可愛い男の子。ウル様にもお似合い。しかもウル様が欲しがっていたミラの主だ。ウル様に差し上げたいと、皆が思っている。
 私は立ち上がり、彼の前に歩み寄り、彼の頬に触れる。若々しくて綺麗な肌。ゆるく三つ編みにされた長い髪も、癖があって可愛らしい。無駄な脂肪のないほっそりとした足に、ずいぶんと色濃い入れ墨のようなアザがある。
「うん、可愛い」
 可愛いから、ウル様の隣に立っても許せる。うぶそうだし、常識がありそうだし。
 ウル様のお婿さんになるのなら、ウル様のイヌではない。ただ従うだけのペットでなくてもいい。
「本当に、楽しみ」
 闇に足を踏み入れ、世間に穢され、どうあがき、どこまで落ちるか。
 ウル様の膝元でなくても、神子であれば見てしまう世界の闇。神殿を名乗る穢れた組織に所属すれば、否応にも触れなければならない。それを強制させられ、死んでいく。
 その時、彼がどうするか、実に見物だ。

back | menu | next

誤字の報告はこのフォームからお願いします


魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑 (一迅社文庫アイリス) 魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑
7/18発売
盗まれた〈天使の書〉の噂を聞きつけてメイザス魔道書店にやってきたジールは、奴隷にのようにこき使われている天使達と出会い、〈天使の書〉を買い戻すために書写師として働くことになる。ジールにだけは優しい悪魔の如き美貌と性格と能力を持つ店主と、天使のような(見た目の)少女の魔道ファンタジー。

2008/05/31   おまけ   156コメント 10     [編集]

Comment

 

-402     2008/05/31   [編集]     _

リファ…
そこまでウル様になりきれる様になったんだ…。
さすが300年も経ってるだけある

迷い仔猫403     2008/06/01   [編集]     _

もしかして、聖良たちの保障に来たんですか!?
でも下手をすると返って関心を持たせることになるかもしれませんね。
慎重に。しすぎて困ることは無いというけれど。
ミラが、しかもユイまでが気にしてたら関心を持つなというほうが難しいかもしれないけれど。

G404   うわああああああ…   2008/06/01   [編集]     _

ユイ、ヤバい、ヤバいよおおおおおお~

-405     2008/06/01   [編集]     _

実はひそかに気になっていたんですが、このころってベルさんはやっぱり普通に亡くなってたりするんでしょうか。いえ、ベルさん好きだから、どうなってるのかなぁと! てか、ユイが獲物になってる…!リファ怖い!

とーこ406     2008/06/01   [編集]     _

このユイは聖良達と出会う前、言いつけ通りにミラを見せに来ているところです。
ウル恐いし、ミラの唯一の友達だし。

ベルは次の話でどういう最期を迎えそうなのか分かる内容になってます。
この頃のリファはウルよりも人間やめてます。
しかも彼氏いない歴300年です。

えま407     2008/06/01   [編集]     _

私もベルがすきなので是非魔女になって長生きしてもらいたい・・・

ぐほ408     2008/06/01   [編集]     _

か、彼氏居ない歴さ、三百年!!

夜凪414     2008/06/04   [編集]     _

ふと、思ったのだけど
ばあや、いったい何者?
本当に人間?

G504   なるほど…   2008/06/23   [編集]     _

この『ばあや』さんがベルさんですね。
いや…ばあやさんの何代か前がベルさんですか。

-510     2008/06/24   [編集]     _

「ばあや」が結婚して娘を産んで、その娘が成長してまた「ばあや」に・・・
なんでしょうかね?

あ、違う。リベルは男で執事なのか。
ベルさんと名前が似てるから勘違い。


Pass:   非公開:    

.

最新記事のRSS

.

更新履歴 カテゴリ コメント

.

.

拍手

.

リンク

.



.

.

.