白夜城ブログ

4

 エリネ様の部屋の居間にて。
 ギル様は居心地悪そうに視線を逸らしていた。
「ほら、許せないだろう。女性の髪を切る通り魔なんて」
「へぇ、女性のパリルにそんなことを手伝わせたんですか」
 私は冷たい声を出し、リゼの拳を振り上げて心の内の怒りを表現する。
 意味を理解していないリゼは楽しそうだ。
「リゼをそのような場所に……。ギル様、そういうのはよろくないのでは?」
「リゼを連れていったのは別件だ」
 ギル様が言い訳すると、エリネ様まで睨み付ける。彼は視線を逸らして足を組んだ。
「だいたい、パリルも喜んでいたからいいだろう。彼女が狙われるようなことはしていないし、危険ももちろんなかった。他の緑鎖の者もいたしな。僕らが幼気な少女に危険なことをさせるはずがないだろう」
「お花屋さんになれたって、とても喜んでいましたからね」
 そう、こいつらはパリル達に花売りをさせたのだ。
 パリルだけではなく、もう少し年上の女の子も一緒に。
 都会だと花の需要はあるので、普通に労働の楽しみを体験できたらしい。
「謝礼もしたし、女の敵の結婚詐欺師も捕まえられたし、本人達も楽しんだ。何か問題が?」
「開き直らないで下さい。なんで緑鎖と一緒になって捜査してるんですか。昔はあんなに緑鎖を敵視していたのに」
「パリルの保護者としてついて行っただけだ。緑鎖の連中も、パリルを気に入っていた。もしもの時のために、奴らから好感を持たれていた方がいいだろう。あの子達のためだ」
 そりゃあそうだけどね……。
「それにパリルは子供だが、相応の覚悟を持っている。子供の頃から周囲の心配の声に耳を貸さずに、危険なことをしていたおまえがとやかく言う資格はない!」
 ぐっ。確かにね。パリルぐらいの頃には、色々とやらかしてたよ。
「で、何が目的なの?」
 私達を代表するように、セルがギル様に問い掛けた。
「目的?」
「ギル兄さんが理由もなくそんなことしないでしょう? いつもなら緑鎖には頼らず、自分が保護していればいいんだって思っているはず」
 その言葉に皆は頷く。
「何の下準備? 何をするつもり?」
 従弟の問いに、ギル様は肩をすくめた。
「やっぱり、この前僕らが調べてきたあれ?」
「そうだ」
 ギル様は素直に認めた。
「能力に不安はないが、見知らぬ相手に自然に近づく練習だ。餌で釣ったら、見知らぬ人に話しかけられるのも平気になってくれた」
 あれとは、カリン達が潜入して情報を探ったパーティーのことだろうか。
 羽振りのいいとかいう男は怪しいからもう少し詳しく調べたいみたいと言っていたな。
 そういえばギル様がセレイン殿下の伝手で調べてもらうとか言ってたっけ。だからセレイン殿下がパリルを知ったのか。
「パリルに確認させるのは、確かに手っ取り早いけどさぁ」
「人見知り克服は、将来必要になるだろう」
「確かにそれができたらいいけど……」
 今まではよく知っている人が一緒にいた。泊まりがけの竜狩りの時も、兄貴分のゼノンがいた。
 だが、連れて行けない場所だと、不安がある。様子を見るのと、自分達と一緒なのを慣れさせるのにちょうど良かったのだろう。
「あのですね。私はあの子達を、ティタンのように弟妹と思って可愛がっているんですよ」
「わかっている」
「ギル様、将来有望そうな人材に経験を積ませるのを可愛がっていると言えるのは、自分の部下だけですからね?」
 ギル様は気まずそうに顔を逸らす。
「あの子達は保護しているだけで、職業訓練したり、たまにお手伝いしてもらうだけで、部下でもなんでもないですからね? 大人ならともかく、子供に危ないことさせるのは職業訓練じゃないですからね?」
「わ、分かっている。だが、本人も適性があると自覚して、前向きに考えているんだ」
 この人、部下のつもりだったのか……
「前向きにって、パリルにクロトと同じような仕事につかせる気なんですか?」
「それは嫌がるだろう。堂々と蓄財して宝石を買い、毎日眺めるのが目当てなんだ。もしもの時に荷物を放棄しなければならない仕事は絶対に嫌がる」
「なるほど」
 身の危険がどうこうじゃなくて、そういう意味でなのか……
「選ぶのは本人だし、本人の趣味や性格に合わないことはさせないから安心しろ」
「でも、人格が変わってきてるんですよ。クズを追い詰めるのが楽しいって、それはもう目をキラキラさせて」
「…………」
 ギル様は沈黙で返した。
 やっぱり、知ってたな。
「今まで自分の力に怯えて秘めていたものが、表に出てきただけだ。僕らは関与していない」
「していたら、とっちめますよ」
 そそのかしてどうにかなることでもないし。
「だから、まあ、クズを追い詰める手助けぐらいなら、いいんじゃないかと。本人も満足感を得ているようだし」
 有能な人材が、自分と気が合うから余計に気に入った、ということだろうか。
 まったく。
 もう目覚めてしまったのは仕方ないが、ろくでもない大人達である。



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2016/06/13   詐騎士   1503コメント 0     [編集]

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