白夜城ブログ



「あ……ルゼ様こんにちは」
「こんにちは」
 子供達は一瞬誰に最初に挨拶するか悩みはしたが、一応、オブゼーク家の長女である私にまず挨拶してくれた。
 忘れられていなくて良かったよ。
「セルさんとカリンさんもこんにちは。ラントちゃんもこんにちは」
 子供達は続いて他の二人にも挨拶する。
「あ、リゼ様だ。こんにちは」
「ちゃ」
 ラントちゃんに抱っこされたリゼは、元気に手をあげた。うちの子は可愛い。
 今日はちょっと様子を見に来ただけなので、人数はこれだけだ。
 私は護衛も兼ねているので、男装して帯剣している。
 こんな母親の姿を見て育ち、うちの子は女の子らしく育つか、たまにちょっと不安になる。
「リゼ様、少し見ない間にずいぶんと大きくなられましたね」
 すっかりここに居着いている神官騎士のウルバさんは、リゼの顔を覗き込んで笑みを浮かべた。
 リゼはウルバさんに手を伸ばして握手してもらう。
「なんてお可愛らしい」
「ほんと、人見知りしないなぁ。お人形みたい」
 子供達も覗き込んで、囲まれても嬉しそうに笑っているリゼを観察した。
 髪には小さなリボンをつけて、赤ちゃん用としては恐ろしいほど手の込んだフリッフリの服を着ている。
 そんな赤ん坊を見て、女の子達は目をキラキラさせていた。ギル様の娘でなければ、玩具の感覚でベタベタ触れてきたことだろう。
「今日は久しぶりにゆっくり話をしようかと思って来たのよ。お土産を持って」
 私が言うと、セルが籠を見せる。すると子供達の目が輝いた。
「エリネ様が焼いて下さったお菓子よ。エリネ様が育てた小麦を使って、エリネ様育てた果物がたっぷり!」
「おおっ」
 都会は果物が自生したりしてないから、あんまり食べられないし、エリネ様の果物はおいしいものね。
「私は籠にすら触れていないから安心してね」
「よかったぁ」
 失礼で素直なお子様である。私が触るとちょっと苦くなるだけなのに。
 彼らは籠を受け取ると、マグリアの名を呼びながら奥へ運ぶ。
「ところでパリルは?」
「パリルは井戸のところで石を磨いてるよ」
「……石、ねぇ。ベナンドさんにもらったの?」
「そう」
 隣でカリンはため息をついた。
 大して価値のない石でも、とても喜んでいるらしい。
「あなたたち、兄に悪いことを吹き込まれていない?」
「悪いことって?」
「人が嫌がるようなことをさせられたり」
 すると彼らは顔を見合わせて頷き、胸を張る。
「人が嫌がることは基本だよ! 嫌がらないことを探っても、意味ないんだよ」
 子供達は言い切った。
 傀儡術師としては、確かにそうなんだけどね……
「ね、ルゼ様? そうだよね!」
 キラキラと無邪気に輝く瞳で彼女達は私を見上げてきた。
「え? いや、まあ、仕事だとかならそうなんだけど。それは悪いことをしている人にだけよ? 人の嫌がることは基本的にしてはいけないのよ?」
 これはとても大切だ。
「うん。傀儡術師が嫌われることをしちゃダメなんでしょ?」
「そうそう。よくわかってるわね。賢いね」
 子供は褒めて伸ばしたいので、私は皆の頭を撫でた。
「ベナンド様も言ってたよ。普通の人に力を使っちゃ行けないんだって。だけど悪人を懲らしめるためなら、大概のことは許されるって」
 あ……いや、私もそう思いはするけどね。そういうの大好きだけどね。
 けどね……なんというか。
「ちょっ……あの馬鹿お兄様、子供になんてことを吹き込んでるのっ!?」
 今まで大人しかったカリンが、さすがに声を上げた。
「き、君達、本当にそんなことを教えられたのか!?」
 また、聖職者でもあるウルバさんも声を荒げた。
 この人、居着いているのに知らなかったのか……
「ダメなんですか?」
「必要な時にもしてはいけないとは言わない。だけど、必要もないのに悪人だからと人の弱味を握ろうとするのは、とても危険な行為だよ。君達自身にとっても、周りの人達にとっても」
 皆は首を傾げた。ウルバさんは少し悩み、腰を屈めて皆と視線を合わせた。
「知るというのは、とても危険なことなんだ。知ったことを知られたら、その悪人は君達だけではなく、その周りも始末しようとするだろうね」
「えー、みんな強いのに?」
「悪人にもいろいろいるんだ。そうだね。もしルゼ殿が何か知られてはいけないことを知られたとしたらと想像してみるといい」
 いや……あの……私は、ウルバさんに何かしただろうか?
 記憶にないんだけど。
 子供達はウルバさんの話を聞いて、深刻そうに頷いているし。
 だから私が何をした。保護して、可愛がってあげているはずなのに!
「カリンさん、今度あの鎖野郎……いえ、兄君がいらしたら、一発殴ってもよろしいでしょうか?」
 ウルバさんは引きつった笑みを浮かべてカリンに問う。
 そういえば、白鎧の騎士と、警察組織の緑鎖って、なんかやたら仲悪いんだよな。ギル様はその上個人的にベナンドを嫌ってたけど。
 温厚そうなウルバさんでもそうだとは……。
「ええ、どうぞ、鉄拳制裁してくださってけっこうです」
 カリンはとても荒事の話をしているとは思えない、穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
 奴に関しては自業自得だから仕方ない。緑鎖だし。
「この調子だと、パリルが心配だわ。お兄様、口先だけで生きているから」
 カリン、お兄さんのことそんな認識してたのか。
 ずっと一緒に暮らしてたのに、知らなかった。


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2016/05/21   詐騎士   1501コメント 0     [編集]

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